【今週の名車・番外編】60年前から作り続けられているロシア製バン「UAZ-3909」(前編)
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自動車ライターという仕事柄、これまでに内外のさまざまなクルマに試乗する機会に恵まれてきた。そんな筆者がステアリングを握ったクルマの中でも、強烈な印象を残したのがロシアのUAZ(ワズ/ウアズ)-3909である。

旧共産圏のメーカーということもあり、日本での知名度は皆無に等しいが、UAZこと「ウリヤノフスク自動車工場」(Ul'yanovskiy Avtomobil'nyy Zavod)は、旧東側諸国や中近東、アフリカなどの発展途上国で確固たる市場を持つクロスカントリー車専門メーカーである。


同社の前身となったのが、1916年に設立された「モスクワ自動車工場」(AMO:Avtomobilnoe Moskovskoe Obshchestvo)で、31年に米国の自動車メーカーの支援を受けて「第2スターリン記念工場」(ZIS:Zavod Imeni Stalina)として改組し、第2次世界大戦前はKV-1重戦車(上の写真:左)に搭載された76.2mm戦車砲などの各種兵器のほか、ZIS-5(上の写真:右)やZIS-6などのトラックや、共産党高官のために米国製高級車パッカードのライセンス生産(のちに高級車製造はZILに移管)などを行っていた。


しかし、1941年6月に独ソ戦(ロシアでは「大祖国戦争」と呼称)が勃発すると、生産拠点を現在UAZ本社のあるボルガ河流域のウリヤノフスク市に疎開し、戦時中は軍用トラックを生産して祖国の勝利に貢献した。戦後、UAZと改名した同工場は、GAZで開発されたジープタイプの四輪駆動車GAZ-69(上の写真)の生産を皮切りに四輪駆動車専門工場となり、軍用車輛だけでなく、民間向けの車輛も生産するようになった。


そして、91年のソ連崩壊後は民間自動車メーカーのUAZ社となり、50年代に開発されたGAZ-69の改良型であるジープ型のUAZ-469(上の写真)と、同車をベースとしたキャブオーバー型バンのUAZ-452(下の写真)の生産を継続。2000年に鉄鋼メーカー・セヴェルスターリの傘下に入ってからは、日本のトヨタやいすゞ自動車、ドイツのVWと提携し、新型SUV・パトリオットなどを発表。民間市場向けのニューモデルの開発にも余念がない。


日本市場には正規代理店の岩本モータース(UAZジャポン)の手により、2005年からUAZ-452のマイチェン版であるキャブオーバーバンのUAZ-3909と、同車から派生したカーゴトラックのUAZ-3303(下の写真)が50台程度輸入されている。


筆者は数年前に欧州の排ガス規制「ユーロ3」クリアのためにインジェクション化された日本仕様後期型の広報車に試乗し、昨年は軍事雑誌の仕事でキャブレター仕様の日本仕様前期型のオーナー車両に同乗試乗した。いずれもバンタイプのUAZ-3909である。両車の違いはパワーユニットのみで、装備品にわずかな変更を受けているものの内外装は1958年の登場時そのままの姿を残している。


写真は昨年撮影した日本仕様前期型だ。オーナーの田中雄一さんがこの車輛を手に入れたのは07年のことで、中古車として購入したとのこと。

田中さんの好みでサスペンションにリフトアップブロックを装着して4cmほど車高を上げ、ブリヂストン製のオフロードタイヤを装着。車内の床にアルミ鋼板を張り、内装に小物をディスプレイするなどのカスタマイズが施されている。取材車両は完全なオリジナルではないが、整備が行き届いており、コンディションは素晴らしかった。


シャシーやサスペンション、パワートレインなどのUAZ-3909の基本的なメカニズムは、先に登場したジープタイプのUAZ-469のものをそっくり流用しており、共用する丈夫なラダーフレームの上にバンボディを架装している。つまり、両モデルの関係を日本車で例えると、ちょうど三菱自動車の2代目パジェロとデリカスペースギアと言えば理解しやすい。

サスペンションは不整地走行と耐久性を考慮して前後ともリーフリジットを用いている。現代のクルマとしては原始的なサスペンション形式だが、足廻りにはコストが掛けられており、スプリングは薄いリーフを12枚重ねたものを奢り、シャックル部分はゴムを用いた可動式のリンクとすることで、不整地での走破性と乗り心地の両立を図っている。

エンジンは運転席と助手席の間にあるフードを開けるとアクセスできる。これは冬期には氷点下40度を下まわることもある厳しいロシアの自然環境を考慮して、車外に出なくても整備ができるように配慮した結果だ。


オーナーにお願いしてフードを開けてもらうと、3.0リッター直列4気筒OHVエンジンが顔を出す。日本仕様前期型のUAZ-3909は2.5直列4気筒OHVが標準となるのだが、取材車はオプションのクーラーを装着したモデル(ただし効きは悪い。のちに廃止されている)だったので、コンプレッサーを回したときの負荷を考慮して排気量が拡大されている。なお、日本仕様後期型は新開発の2.7リッター直列4気筒DOHCを搭載しているが、これは高回転・高出力を目指したものではなく、前述の通り、欧州で施行された「ユーロ3」に対応するためだと聞いた。

エンジンに組み合わされる気化器はシングルキャブレターで、取材車にもともと新車装着されていたものは調子が悪く、のちにオーナーの手でロシア製の新品に交換され、その際にインシュレーターは自作したものに交換したそうだ。その恩恵なのか始動性は抜群で、キャブ車の儀式もそこそこにエンジンは一発で掛かった。なお、後期型ではインジェクション化されたのに合せて、トランジスター・イグナイター方式の点火系とOBD2(オンボードダイアグノーシス)端子が新たに装備されている。

ギアボックスは4速MTのみの設定であり、現代車では標準装備となるATの設定はない。4WDシステムは古典的なパートタイム式なので、シフトレバーの横にはハイ&ローと二駆&四駆のふたつのレバーを持つ副変速機がつく。


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