マクラーレン、1988年モナコでのセナのフライングラップ再現映像を公開。過去の栄光は「再現」できるか?
1988年5月14日、F1モナコGPの予選セッション。マクラーレン・ホンダMP4/4を操るアイルトン・セナは、モンテカルロ市街地を驚愕のスピードで駆け抜けました。その姿は、彼がすぐに、そしてこの先何度も世界王者に輝くであろうことを強く予感させる出来事でした。

セナはTVリポーターに対し次のようにコメントしました「すでにポールを獲得しているのはわかっていた。でもまだまだ速く走れると思った。本当に速く、さらに速く走れた。」「あるとき突然、他の誰よりも2秒も速く走っていることに気づいた。もうなにかを考えたり、意識することなくマシンをドライブしていたんだ」

この日の予選セッション、セナは1分25秒6から1分24秒4にタイムを縮め、最後は1分23秒998にまでベストラップを刻んで見せました。チームメイトのアラン・プロストはセナの横、フロントロウを獲得したものの、そのベストタイムは1.427秒遅れ。3位のフェラーリF187/88Cを駆るゲルハルト・ベルガーは2.687秒もセナに千切られていました。

時は流れ、V6ハイブリッドターボで構成されるパワーユニットを積んだ現在のF1マシンからすれば、セナのタイムは見るべきものではなくなりました。2018年5月24日、木曜のモナコGPフリー走行でレッドブルのダニエル・リカルドが記録したタイムは1分11秒841F2の予選タイムでさえも全車が、1988年のセナが絞り出したタイムを上回っています。

それでも、当時のF1マシンと現代のそれはまったくの別物。セナはホンダV6ターボの爆発的なトラクションを巧みなアクセルワークで路面に伝え、クラッチペダルとHパターンシフトを操り、いまに比べれば遥かに少ないダウンフォースを繊細なステアリング捌きでカバーしてコースを駆け抜けていました。

残念ながら当時の編集技術の制約もあり、この日のセナの走りはその全てが映像に残されているわけではありません。しかし、マクラーレンF1チームは、そのフライングラップの映像を当時のマレー・ウォーカーの実況解説とともに再現して公開しました。



1988年のモナコGP決勝は、予選を再現するかのような走りで圧倒的なリードを築いたセナの独壇場と化しました。そしてレース終盤、チームはもう十分だからとセナにペースを落とすよう指示。しかし、それが逆にセナの集中を奪う格好となり、67周目のトンネル手前、ポルティエのガードレールの餌食に。レースは一時ベルガーの先行を許しつつもポジションを奪い返したプロストの勝利で幕を閉じました。

1988年のセナは日本GPの優勝で初の世界王者に輝きました。そしてこの年のマクラーレン・ホンダチームは全16戦中15勝を挙げ、圧倒的な強さでシーズンを締めくくっています。


...さて、ここでマクラーレンが公開した映像の正直な感想を言えば、「セナの走りはこんなものではない」の一言に尽きるでしょう。ビデオテープの質感を再現するのはまだいいにしても、マシンの挙動はまるでひと昔前のレースゲームのよう。コースを見ても、たとえばローズヘアピンやシケインの縁石は当時はもっと高かったほか、エンジン音もところどころ3.5リッターV12のような高回転のものが使われていてリアリティを削いでいます。これでは、期待した人ほど激しく肩透かしを食らうかもしれません。

たしかに、30年前の栄光はいつまでも色褪せることはありません。ただ、その栄光の一端を担ったホンダと再び袂を分かったいま、マクラーレンがやるべきは過去の栄光にしがみつくことではないはずです。

ちなみに1988年ではないものの、セナが1990年のモナコを攻略するオンボード映像であれば、F1公式がYouTubeに公開しています。この映像でもセナのステアリングやシフトさばき、そして"セナ足"と呼ばれた絶妙なアクセルワークを存分に感じ取ることができると思いますので、お口直しにでもご覧ください。