【第3回】『コンコルソ・デレガンツァ 京都 2018』新旧の
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2018年3月30日(金)〜4月2日(月)にかけて、京都・元離宮二条城にて『コンコルソ・デレガンツァ 京都 2018』が開催された。アルファ ロメオ C52 ディスコ・ヴォランテを目当てに会場を訪れた筆者は実車を前にして胸の高鳴りを抑えられなかった。今回はディスコ・ヴォランテの系譜を中心に同イベントを紹介する。

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【第1回】『コンコルソ・デレガンツァ 京都 2018』アルファ ロメオの空飛ぶ円盤を見に京都へ(千葉からスクーターで)行く

【第2回】『コンコルソ・デレガンツァ 京都 2018』数々の美しい名車を生み出したカロッツェリア・トゥーリングを知っていますか?


台所前庭に並ぶ
ディスコ・ヴォランテの系譜


お目当てのアルファ ロメオ 1900 C52 ディスコ・ヴォランテは会場のいちばん奥、台所前庭に展示されていた。クラシックカーではままあることだが、実車のディスコ・ヴォランテは写真で見た印象よりもずっと小さい。だが、その存在感は会場に展示されたどのクラシックカーにも負けてはいなかった。

女性の肢体を思わせるなだらかな曲線で構成されたスタイリングは、何とも艶かしく、エロティックで、とてもレースを戦うために生まれたクルマとは思えない。春の穏やかな日射しを浴びたボディは、くもりのない真紅の塗装と相まってピジョン・ブラッドのような輝きを見せている。


筆者はひと目で恋に落ちた。もちろん、その希少性を考えれば、ディスコ・ヴォランテを所有することはおろか、そのステアリングを握ることすら夢物語だ。しかし、こうした美しいクルマはただ存在しているだけで意味がある。所有できるとか、運転できるとか、そういう次元を超えて、ただそこにあるだけで意味があるのだ。イタリア・ミラノのアルファ ロメオ博物館に行かなければ見られなかった実車を、極東の島国に居ながら見られただけでも僥倖と言うほかない。

すっかり、満足したところで、ぐるりと台所前庭の展示エリアを見渡すと、C52 ディスコ・ヴォランテにゆかりのある稀少車がほかにも展示されていた。2014/16/18年型 アルファ ロメオ 8C ディスコ・ヴォランテ・バイ・トゥーリングと、1952年型 パナール・ジルコ・ディスコ・ヴォランテ・バイ・コッリ"ミッレミリア"がそれだ。


8Cコンペティツィオーネをベースに
21世紀に復活した"空飛ぶ円盤"


アルファ ロメオ 8C ディスコ・ヴォランテ・バイ・トゥーリングは、その名の通り、8C コンペティツィオーネのシャシーに、前述のC52 ディスコ・ヴォランテにインスパイアされた特製ボディを載せた高級グランドツアラーである。

メカニズム的にはベース車のものを踏襲しており、450psを発揮するフェラーリ由来の4.7リッターV8自然吸気エンジンに、フェラーリの「F1マチック」と同じ6速セミATというパワートレインが与えられている。そんな8C ディスコ・ヴォランテの最大の特徴は、C52を現代風に解釈したスタイリングを与えたことに尽きる。


同車のプロトタイプは12年のジュネーブショーで発表され、13年5月の『コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステ』では「コンセプトカー・プロトタイプカーのベストデザイン賞」を受賞。同年8月の『ペブルビーチ コンクール デレガンス』にも展示され、好評を持って受け入れられた。その後、このプロトタイプをベースとした生産型が開発され、13~16年までの3年間に8台がラインオフしている。今回のイベントには最終生産車両となる「ラスト・オブ・ライン C52 ヴィンテージ・エディション」を含めて、全世界から生産台数の1/3に当たる3台が展示された。新旧のディスコ・ヴォランテがこれだけ集まったことは今までに前例がなく、おそらく2度とこうした機会はないだろう。

さすがにオリジナルの大胆かつ繊細なスタイリングと比べるのは酷かもしれないが、8Cディスコ・ヴォランテはモダンな高級グランドツアラーとして充分に魅力的だ。


このクルマのスタイリング上のテーマは「現代のクルマを使ってC52を再現する」という単純明快なものだが、8C コンペティツィオーネというベース車がある以上、サイズはふた回りも大きくなり、メカニズムもまったく違うものに変わっている。従ってパッケージングはおのずと別物となる。しかし、C52はアルファ ロメオにとっては歴史を彩る伝説のひとつであり、単純明快だからこそ力強いテーマには些かの変更も許されない。ここで妥協すればスタイリングが何よりも重要なテーマである同車は惨憺たる失敗に終わるのだ。

ひょっとしたらゼロからスタイリングを作り上げるよりもデザイナーにとっては難しい仕事かもしれない。だが、カロッツェリア・トゥーリングはこの難事を見事にやり遂げた。サイズがまるで異なれば立体構造としてのクルマはまったく別物となるのだが、パッケージングとの兼ね合い、C52の頃とは格段に厳しくなった細かな法規対応、視界や使い勝手などの要素をつつがなく満たした上で、現代にディスコ・ヴォランテを再現してみせたのだ。この1点のみでこのクルマは高く評価せざるを得ないだろう。


会場に展示された3台の8C ディスコ・ヴォランテの中でも、とくに稀少なのはラスト・オブ・ライン C52ヴィンテージ・エディションだ。その名の通り、最終生産車両となったこのクルマは、アルファロメオのアイデンティティである盾型のグリルの中に十字が切られ、フロントフェンダー上にはクアドリフォリオ(四つ葉のクローバー)を配するなど、他の車輌とは細部の意匠が異なる。ボディカラーはC52 ディスコ・ヴォランテと同じ、ソリッドのレッド(イタリア風にロッソと言うべきか?)でペイントされている。



フレンチブルーでペイントされた
パナール製のディスコ・ヴォランテ


パナール・ジルコ・ディスコ・ヴォランテ・バイ・コッリ"ミッレミリア"は、アルファ ロメオの車両ではなく、パナールのコンポーネンツを使用してカロッツェリア・コッリが製作したワンオフレーサーである。

現在ではパナール・ジェネラル・ディフェンスの社名で、ルノー・トラック・ディフェンス傘下の軍用車両専業メーカー(VBLやERC90などの装甲車が主力製品)となったパナール社だが、その創業は19世紀末と古く、現在でも広く採用されているFRレイアウトを発明するなど、自動車史を語る上で重要な役割を果たしたメーカーであった。

戦前は高級車ブランドとして名を馳せたパナール社であったが、フランスのメイクスの例に漏れず、戦後は小型大衆車へと生産をシフトしている。そのいっぽうでモータースポーツへの情熱は戦前と変わることがなく、50~60年代前半にかけてル・マン24時間耐久レースを中心に活躍を続けた。

ただし、今回のイベントで展示されたジルコ・ディスコ・ヴォランテ・バイ・コッリ"ミッレミリア"は、フランスのパナール本社が開発に携わったマシンではなく、当時イタリアでパナール車の輸入販売を行っていたクレパルディ社が、ミッレミリア参戦のために開発した車両である。

搭載されるエンジンは、ディナXに搭載された750cc空冷水平対向2気筒エンジンをチューンしたもので、最高出力は50hpを発揮した。駆動方式はベース車とおなじくFFレイアウトを採用する。最高出力158psの1997cc直4DOHCを搭載するC52ディスコ・ヴォランテに比べると非力さは否めないが、390kgという軽量ボディの恩恵により最高速度は170km/hに達した。

ジルコ・ディスコ・ヴォランテ・バイ・コッリ"ミッレミリア"は、初参戦となる1952年のミッレミリアでクラス優勝(750ccクラス。総合は67位)を飾った。その後もタイトルこそ獲得できなかったが、53年、54年と連続出走している。同車は展示車両のクーペボディのほかにバルケッタ(オープン)ボディも作られた。クーペボディは2台が製作されたとの説があるが、現存するのは実戦参加した展示車のみである。


なお、同車を手掛けたカロッツェリア・コッリは、戦前から続くコーチビルダーで、アルミを多用した軽量設計のレーシングカーで定評があった。ミラノに工房を構えたことからアルファ ロメオとの関係が深く、C52ディスコ・ヴォランテに代わって50~60年代のレースで活躍した6C 3000CMの製造を担当している。だが、その後は他の中小のカロッツェリアと同じく、時代とともに次第に活躍できる領域が少なくなって行き、最後はアルファ ロメオからジュリア・スーパーの派生モデルであるジャルディネッタ(ステーションワゴン)/フルゴナータ(ライトバン)の生産委託を受けて露命をつないでいたが、経営状態の改善には至らず73年に解散している。

じつは筆者はジルコ・ディスコ・ヴォランテ・バイ・コッリ"ミッレミリア"の存在を会場に来るまで知らなかった。もちろん、実車を見るのは初めてだ。比べてみるとC52ディスコ・ヴォランテを手本にしたとは言うものの、スタイリングの優雅さに少々欠け、レーシングカーとしての機能を優先したかの印象を受けた。製造はイタリアなのだが、やはりパナールの血統ということで仏国面が出現したのかもしれない。
台所前庭に展示されていたディスコ・ヴォランテの系譜だけで胸の高鳴りを抑え切れない筆者であったが、会場にはほかにも日本国内では滅多に拝むことができない名車の数々が並んでいる。多少無理をして京都まで足を運んだが、やはり判断は間違いではなかった。本当に来て良かった。心から満足している。
次回からはカロッツェリア・トゥーリングにゆかりのある名車を中心に『コンコルソ デレガンツァ京都2018』の展示車を紹介して行くことにする。

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