Honda CLARITY FCV PHV EV
これまで、燃料電池車(FCV)と電気自動車(EV)、そしてプラグインハイブリッド自動車(PHV)の純粋なパワートレインの違いを乗り比べる機会はありそうでなかった。なぜなら、すべて同じ車体で比較できる状況が作れなかったから。同一のボディにその3種類のパワートレインを組み込んだ車両がなかったのだから。



例えばトヨタであれば、燃料電池車はミライで、プラグインハイブリッドはプリウスPHV、電気自動車はiQをベースに2012年に発売した「eQ」もしくはテスラの技術を盛り込んだ「RAV4 EV」ということになるだろう。しかしそのラインナップでは、車体サイズも車両重量も、もっといえば発売された時期もバラバラなのでパワートレインの直接比較にはなりにくい。仮にその3台に乗ってパワートレインの違いを記事にしろと言われても、フルーツポンチと果物ゼリーとフルーツケーキを食べて「果物の味」の評価を求められているようなもの。純粋な比較をできるわけがない。


しかし今回、従来の概念を覆す「パワートレインの味の違いを純粋に比較できる」という前代未聞のなんともラッキーなチャンスがやってきた。ホンダが「クラリティ」に燃料電池だけでなく、EV、そしてプラグインハイブリッドモデルを作り、同時に試乗する機会を作ってくれたからだ。こんなチャンスに恵まれるとは、なんと光栄なことだろう。


果たしてその乗り味の違いはいかに......といきたいところだが、そのまえにまずはホンダ・クラリティについてもういちどおさらいしておこう。多くの人はクラリティといえば燃料電池車をイメージするかもしれない。確かに先代である「FCXクラリティ」は完全なる燃料電池車だったが、2016年3月に発売された現行型のクラリティは違う。


同じボディに燃料電池ユニットだけでなくプラグインハイブリッドやピュアEVのユニットを搭載できるように設計されているのだ。


「パワートレイン」をモジュールユニットに見立て、あらかじめ燃料電池も含めた複数の動力源を載せることを前提としているのは世界初の試みで、ホンダの意気込みを感じさせるトピックである。


130kW/300Nmのモーターを搭載する燃料電池仕様に対し、EV仕様は160kW/300Nmのモーターを組み合わせる。とはいえモーター自体は基本的に同じなので違いは制御によってつけている。リチウムイオンバッテリーの容量は25.5kWhで、1回の充電で走行可能距離は80マイル、つまり130キロほどだ(ホンダ測定による参考値)。


参考までに、日産リーフのJC08モードにおける航続距離は280キロでリアルワールドでも好条件なら200キロ近く走る(今年秋に登場が噂されている新型ではカタログスペック400キロともいわれている!)。それを考えればクラリティEVモデルの「約130キロ」という数字を見て「航続距離が短い」という印象を持つのは当然のことだと思うけれど、そこにはホンダの明確な考えがあるようだ。


「EVは航続距離を延ばすのではなく、日常の範囲で乗ることが前提。(メインターゲットとなる北米では)通勤に使って会社まで行けることが重要であり、ユーザーが航続距離の長さを求めているわけではない。」とホンダはいう。航続距離を伸ばそうと思えば可能だが、そのためにはバッテリーをより多く積まざるを得ず、価格上昇や車両重量増加を考えるとこのレベルがEVとしてのベストバランスと考えているようだ。
ちなみに充電は日本の急速充電規格であるCHAdeMOではなくCCSである。

そして、それ以上の航続距離を求める人のためには「プラグインハイブリッド」を提供するというのがホンダのプラン。プラグインハイブリッド仕様はフィット・ハイブリッドが搭載している1.5Lのアトキンソンエンジンに135kW/315Nmのモーターを搭載。バッテリー容量はEVモデルの2/3の17kWhで、モーターだけでの最大航続距離は64km以上、エンジンも活用したトータル航続距離は約531km以上というから心強い。以上がクラリティEVモデルとクラリティ・プラグインハイブリッド仕様の概要だ。


ところで、エクステリアでパワートレインの違いによる差はあるのか? 実はある。ポイントはフロントグリルだ。

Honda CLARITY FCV PHV EV
見慣れた燃料電池モデルに対してEVモデルはフロントグリルがR30スカイラインRS後期型の「鉄仮面」のようなカバーが装着され、プラグインハイブリッドは左右を繋げるメッキのバーが太い。


リヤスタイルはEVモデルだけテールランプレンズがクリアになっているのが違いだ。
というわけで、お待ちかねの加速感の違いをお伝えしよう。


もっとも元気よく走るのはEVだった。加速感が大きく、アクセル操作に反応して鋭く加速Gが立ち上がり車速上昇も伸びやかだ。グググッと力強くクルマを押し出していく印象が強い。


いっぽうでプラグインハイブリッドのEVモードにおける加速は、EVに比べると控えめ。もちろんモーター走行ならではの胸のすくような伸び感はしっかりとあり、決して遅いわけではない。しかしEVと直接比較するとモーターの能力を使い切っているという感覚が薄い。「EVの元気がとてもいい」という表現が最適かもしれない。


いずれもモーター駆動車らしく発進時に強いGを生み出すが、EVはその後も加速度が継続するのに対し、ハイブリッドでは車速は上がるが加速度は控えめなのだ。
では燃料電池はどうか?


個人的にも驚いたのだが、加速感というよりはアクセルを踏み込んでから加速が始まるまでに一瞬のタイムラグが生じることに乗り比べて気づかされた。単独試乗では気が付かなかったが、他のパワートレインと乗り比べたことで強調されてしまったのだろう。理由は、アクセルを踏み込むと同時に電力を確保するためにモーターよりも燃料電池が先に出力を高めようと反応するから。さらに加速も、EVやプラグインハイブリッドに比べるとゆるやかだ。


これは、包み隠さず言えばドライバーにとってのファン度は、他のパワートレインよりも控えめである。しかしいっぽうで同乗者にとっては、過度なGの立ち上がりがない快適な全開加速といえるかもしれない。
今回、同じボディで3タイプのパワートレインを乗り比べるという貴重な体験で改めて感じたこと。それは同じ車体かつ同じモーターで走るクルマでも、パワーユニットや制御によって加速感の味付けが異なることである。今後のEV選びにぜひ参考にしてほしい。


もしこの3台のなかから加速感の好みでパワートレインを選ぶとしたら、ボクは迷わずEVだ。
なぜか? アクセルを踏み込む喜びと爽快感は、EVがもっともすぐれているのだから。

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