HONDA CIVIC TypeR
待望のシビックタイプRが復活する。それも先代に引き続き「ニュル市販FF車最速」という称号を自信満々に掲げてだ。「タイプR」と聞けば「期待するな」というほうが無理に決まっている。どれだけ速いのか? どれだけ楽しいのか? ワクワク、そしてソワソワしないわけにはいかない。

HONDA CIVIC TypeR
今回ボクは、ホンダの先進技術体感イベントである「Honda Meeting 2017」において発売に先立って新型シビックタイプRの試乗の機会を得た。短いコースを2周という「ほんの味見」程度ではあったが、その時に感じたことをお伝えしよう。


でもその前に、個人的なシビックタイプRに対する想いから。いきなり話の腰を折るようで申し訳ないのだが、ボクにとって「これぞシビックタイプR」と呼べるのは1997年に登場した初代EK型だ。軽いボディに徹底した軽量化、職人が手作業でポート研磨して抜群のフィールを手に入れた自然吸気エンジン、そしてチタンシフトノブにレカロシートにカーペットまで赤くした内装。すべてが特別で、タイプR以外のホンダ車とは異なるオーラを持っていた。B16B型の1.6L自然吸気エンジンは185馬力で今となっては「非力」という扱いになってしまうだろうが、速すぎないから気軽にアクセルを踏み込めるのも楽しかった。


なによりよかったのは、「手が届くタイプR」だったこと。価格はギリギリ100万円台。当時社会人になりたてで収入の少なかったボクだったが、その楽しさに惚れ込んで新車契約直前までいったことを覚えている(今にして思えば買っておけばよかった!)。


そんなシビックタイプRも、気が付けばもうすぐ発売となる新型で5世代目(2007 年デビューの「TYPE R EURO」も含めれば6世代)。エンジンも大幅にパワーアップされて劇的に速くなっている。そして栄光の「ニュルでのクラス最速を奪回」だ。


とはいえ、価格は初代の2倍以上。あの「シビックタイプR」がそんな価格でいいのだろうか?
初恋のクラスメイトが大女優になってしまった。彼女はもうボクらの手の届かない世界に生きている。シビックタイプRはボクにとってそんな存在になってしまったのだ。


......という話はもちろん新型シビックタイプRの正当な評価とは全く関係がない。しかし「タイプR」といえば90年代に自動車雑誌を読み漁ったボクにとっては壮大な浪漫である。今や大女優となったかつてのクラスメイトに再会するにあたって、やはり頭の中からは甘酸っぱい青春の思い出を忘れることができなかったことを正直に告白しておく。

というわけでホンダ車を生み出す聖地である栃木研究所で対面した告白できなかった初恋相手、ではなく新しいシビックタイプR。そのエクステリアは無骨で戦闘力の高さを感じさせるものだ。文句なしに強そうである。


しかし、包み隠さず言えば"ガンダムチック"という印象。「見るからに速そうな感」は、抜群に高いことは約束できるが、好みは別れるかもしれない。


効率と速さを求めた影響で高性能モデルが続々とDCT化されるなか、操る喜びが詰まったMTにこだわっているのはうれしい。いっぽうで新型シビックにはシフトダウン時に自動的にエンジン回転をあわせる機能が備わっていてMTに不慣れな人にも対応できるのは親切な反面、「タイプRもそんな時代か」と時間の流れを感じさせる。とはいえこれも決して悪いことではないので肯定したい。


パーキングブレーキはついに電動式に。ブレーキペダルから足を離しても制動状態を保持するオートブレーキホールド機能もついて便利だが、パーキングブレーキを使ってのいわゆる「サイドターン」はできそうにないからもし新型シビックタイプRをジムカーナで使おうと考えているなら気を付けよう。

HONDA CIVIC TypeR
エンジンは2.0Lターボで最高出力235kW(320ps)、最大トルクは400Nm。2.0 Lターボエンジンとして世界最強を誇るメルセデス・ベンツの280kW(381ps)に比べると物足りないと感じるかもしれないが、ポイントは数字ではなく「どれだけ楽しく走れるか」だから問題じゃない。このパワーで「ニュル最速」なのは事実だし、そもそも185psで十分に速く楽しかったかつてのシビックタイプRに比べたらとてつもないパワーだ。スペックオタク以外は気にすることはない。それにしても2.0LターボのFF車に320馬力なんてすごい時代になったものだとつくづく思う。

今どきのターボエンジンらしく低回転からトルクが太いいっぽうで、高回転の爽快感も忘れていないのはさすがタイプR。そこは心配いらない。


いっぽうで驚きを隠せないのが乗り味。それもスポーツ走行とはあまり関係ない部分だ。乗り心地がとてもいいのだ。タイプRなのに。


本当にこんなに乗り心地が良くていいのだろうか? 容赦なく伝わってくる路面の衝撃のせいでドリンクホルダーに置いたコーラの炭酸が何度も抜けかかったFD型はいったいなんだったのか?

HONDA CIVIC TypeR
秘密は、ついに減衰力を調整できる可変ダンパーを手に入れたことにある。ドライバーの走行モード選択により、サスペンションの締め上げ方まで変化するようになったのだ。

「コンフォートモード」での走りは快適そのもの。デートにもファミリーでもドライブにも使える、というかそういった目的で使っても同乗者に嫌がられないというのは新型の大きなトピックだと断言しておこう。もちろん、遮音材を省いたかつてのタイプRとは違って騒音だってマイルドだ。


試乗時は助手席に開発関係者が乗り込みクルマの説明をしてくれたのだが、その際に出た言葉はなんと「グランドツーリング性能」。それは「ユーロR」の守備範囲では?という疑問が脳裏をよぎったが、快適なのは悪いことではない。むしろ歓迎すべきこと。乗り心地が良くて失うものなんて何もない。これが今どきのタイプRなのだ。

HONDA CIVIC TypeR
スロットル特性、ハンドリング、ダンパーシステムなどが変化する走行モード切り替えは「コンフォート」「スポーツ」そして「+R」の3パターン。もちろん「スポーツ」や「+R」にすればニュルでクラス最速をマークするだけの抜群の速さと安定感があり、今回の試乗ではそのフィーリングを確かめるだけに留まったが限界走行域での切れ味は抜群のはずだ。


というわけで新しいシビックタイプRのファーストインプレッションは、甘酸っぱい思い出はやっぱり過去のものだったということ。まず、とてつもない速さだけでなく快適さも身に着けた新型はオールマイティで素晴らしいものだ。


しかし見た目はともかく、「漢らしいタイプR」というか「気軽に触ると火傷するよ」的な尖ったキャラを過去に置いてきたことに対しては、ちょっとだけ甘酸っぱい過去を懐かしむ気持ちになった。サーキットを走れば素晴らしいパフォーマンスを発揮できることは想像に難くないが、「本拠地はサーキット」と声高に主張するかつてのタイプRや「BMW M4 GTS」のような特別なオーラは残念ながら感じられなかったからだ(先代やその前の「EURO」もそうだったけれど)。


ところで、シビックタイプRがすっかり上級移行した今、ホンダのレーシングスピリットをもっと手の届く範囲で味わえるモデルが必要なのではないだろうか?


たとえば、フィットをベースにした「タイプR」はどうだろう? とことんハードな仕立てにしつつ、ニュル最速は必要ないから甘酸っぱい青春時代のようにちょっと無理すれば手の届く範囲の存在であることが望ましい。パワーは180馬力くらいでかまわないから、なんとか100万円台でお願いしたいところだ。それが実現したあかつきには、ボクは青春を取り戻したいと思う。
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