DAIHATSU Mira e:S
「おっ...これってば、パンダじゃん!」

二代目となったミラ イースをひと転がししたときに、自然とそんな言葉が口から出た。

パンダとは、残念ながら現行のフィアット・パンダのことじゃない。かのジョルジェット・ジウジアーロがデザインし、1980年に登場した初代パンダのことである。

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 そこにはきっと、こんな意味が込められている。与えられた空間を最大限に活かすボディ形状をもちながら、立派にクルマとして成立する乗り味を有するバランス感覚。インダストリアルデザインとテクノロジーがピタッと融合したときの清々しさを、ミラ イースからボクは瞬間的に感じ取ったのだ。

 ミラ イースが登場したのは忘れもしない、あの東日本大震災が起きた2011年。日本中が不安を抱え、ボクたちの間には自然と自粛や節約というムードが色濃くなったときにこのクルマは、EV、ハイブリッドに次ぐ「第3のエコカー」として登場した。


 そこから約6年の月日が流れ、時代はエコがデフォルトとなり、環境性能が当たり前となって、その一方でプレミアムの細分化が行われて徐々にボクたちは生活に潤いを取り戻して行った。
 そしてこのたび二代目となったミラ イース、プレゼンテーションを聞く限りダイハツはこのクルマに新しい価値を付加することに、少しだけ苦労しているようにボクは感じた。


 いま消費者たちがクルマ(に限ったことではないのだが)に求める価値は、まず第一が「安さ」を軸としたコスパやバリューであり、第二が「省燃費性能」であり、第三が「安全技術」(順不同)。当然この要件に、新型ミラ イースもばっちり磨きはかけてきた。


 省燃費性能においては車体剛性を高めるべくモノコックの構造デザインを煮詰め(Dモノコック)、クラッシュ要件に対して破断強度に優れるハイテン材を投入して安全性を高めながらも、その上で従来比最大80kgの軽量化を果たしてきた。


 ずんぐり可愛いデザインなのに「Cd値を3%向上した」なんて文言は、実に泣かせる。これによって得られた燃費性能は、先代の30km/ℓから最大で35.2km/ℓにまで向上している。

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安全面では世界最小サイズのステレオカメラを搭載したことで、スマートアシストが「Ⅲ」へと進化した。


 車線逸脱などはEPS(電動パワステ)の介入もなくブザーで知らせるアナログっぷりだけれど、「オートハイビーム」の採用や衝突回避支援ブレーキ機能の作動範囲を歩行者にも拡大するなど、きちんとやることはやっているのである。

ではなぜミラ イースが、いまひとつパッとしないのか。


 それは当時まだ色褪せていなかった2ボックスのスタイルを、2017年でもそのまま熟成させたからだとボクは思う。


 そう、進化させるべきはコンセプト。「第3のエコカー」が6年後の2017年にどうあるべきだったのか? だったと思うのだ。


 でも、それでイーのだと思う。いや、イース。第3のエコカーが今どうあるべきかを考えるのは非常に楽しいが、ミライースはミライースで、しっかりと質実剛健な2ボックス軽自動車の道を歩んでいると、ボクは今回の試乗で感じたからだ。


 ダイハツの軽自動車が優れているところは、ボディ剛性の高さだ。自動車全般において、何はなくとも一番優先されるべきはボディ剛性ではあるのだが、こと軽自動車やリッターカーのようなコスト重視のクルマにおいて、平均的なボディ剛性は保っていても、それを「高い」とまで思わせるのは非常に希である。


 そしてミラ イースが見事だったのは、各部に樹脂パネルを使ったりして650~670kgという軽さを実現しながらも、その剛性感を落とさなかったことだ。


 だからこれを運転すると、動かした瞬間からしっくりクルマが馴染んでくるのがわかる。コロコロとよく転がるタイヤ、質素に見えて意外と体をサポートしてくれるシート。そういった肌感の良さを超えた芯の部分で、ボディが機軸となって、サスペンションを伸び縮みさせているのがジワーッとわかるのである。


 このボディがあると、エンジンだって光る。先代で指摘された出足の鈍さは、アクセル開度とCVTの制御調整によってリニアリティを取り戻したというが、そこに駆動系やエンジンマウント、ひいてはボディ剛性が黒子的に影響していることは確かである。


 初速は軽く、CVTとの連携も見事で、3気筒のバランスも見事に振動を抑えている。これだけ気持ち良く走るなら、ターボを追加すればよいのに! とついはしゃいでしまいそうにはなるけれど、この軽くてしっかりとしたボディをもってすれば49ps/57Nmしかない可愛らしい直列3気筒NAエンジンも、活き活きとしてくるわけである。


 だからこそボクは、この走りをもって「現代に初代パンダを生き返らせたら、こんなクルマになったんじゃないかなぁ!」と感じたのだ。

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 惜しいのは豪華仕様の「G」や「X」グレードに装着される14インチタイヤが、バネ下で若干重さを感じさせること。聞けばこの14インチはムーヴなどの重量級(笑)車両たちとも共用するタイヤだという。開発陣もこのタイヤ(&ホイール)がもたらす入力を減衰させるべく、ショックアブソーバーのシリンダー容量を拡大し、高価なベースバルブを奢ってハイスピード側の圧をカットするなど工夫を凝らしているが、まだこれをトータルでバランスさせきっているとは思えない部分がいくつかあった。


 具体的にはゆっくりダンパーが縮むときの圧力が足りず、ステアリングインフォメーションがダル。また急激な入力に対して突き上げをカットしている分、デコボコ道で頑張ると底付きすることがある。


 そのメインユーザー像を考えれば、リニア過ぎないハンドリングはベストマッチだとは思う。たとえば同じ2ボックス形状のアルトと比べても、跳ね感のないしっとりしたダンパーの制御は見事。軽いクルマの乗り心地と走安を両立させるのは本当に大変で、ここにはやっぱりボディが効いている。だからボクが言うネガティブも、結果的にはよい落としどころになったのかもしれませんね? とエンジニア氏に話したところ

「これも乗ってみて下さい」

と13インチ仕様も乗せてくれた。

 するとどうだ。クイック過ぎず、ダル過ぎず。そのステア応答性は極めて自然で、路面からの入力も柔軟にこれをこなし、段差や継ぎ目を"トトン!"と気持ち良く超えるじゃないか。確かにシッカリ感や高速巡航時の安定性など、グリップ力が物を言う場面での安心感は14インチの方が上だから、どちらにするかは好みでよいだろう。でもボクは、まるで料亭の台所でまかない飯を出されたかのように、この13インチのプレーンな乗り味に舌鼓を打った。


 どうやらこの13インチは軽量なイースに合わせて作り込まれたタイヤとのこと。それなら「14インチも専用タイヤを作ればよいのに」というのは素人考えで、コストや割り当てのスケジュールなど、全てが絡み合った結果が現状なのだろう。つまりこの"まかない飯"の愉しさは、営業のお兄さんが一番享受できるのかもしれない。


 ともあれ今度のミライース、クルマバカにはたまらないフツーさを持っている。時代はトールでルーミーが当たり前。消費者はいつだって「キラリと光る個性」や、「アトラクティブな魅力」を、上を向いてクチを開けながら待っているものだけれど、このクルマは我が道を行けば良いのである。


きちんと走る小型車が、2017年でも存在し続けてくれることを、ボクはとっても嬉しく思う。
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