【短評】メルセデス・マイバッハ、買うならやっぱりV12の「S 600」? それともV8の「S 550」?
マイバッハというバッジが醸し出す空気は特別だ。だが、それは単にグローブボックスの空気清浄機から吐き出される空気のためではない。ドイツ製最高級車から放たれる最上の香りなのだ。車内はまるで大群の牛がいる1エーカーの森林のようで、指先から伝わる質感は、プラスチックのつまらない感触とはまるで違う。ご期待どおり、静かで、滑らかで、堂々としている。メルセデス・マイバッハの最新モデル「S 550」は、「S 600」のV型12気筒エンジンに換えて、V型8気筒エンジンと4輪駆動を搭載するが、快適性は何も変わっていない。


そのサイズは、堂々たる存在感を見るものに感じさせる。横から眺めると、ホイールベースは隣の州までまたがるほど長く、運転手と乗客が会話をするためにはスピーカーとマイクの装備が必要だ。そう、マイバッハには常に乗客がいる。誰もマイバッハを運転するためには買わない。運転させるために買うのだ。座席は飛行機のビジネス・クラス並みに広々としている。そこに深く腰掛け、背もたれを倒し、ブラインドを閉めれば、2,200万円の繭に包まれた気分を味わえる。



しかし、そんな話は既にご存じだろう。あなたが本当に知りたいのは、さらに400万円多く支払って、4気筒増やし、最高出力を75ps、最大トルクを13.3kgmも上げる価値があるのか、ということだ。理屈の上では「ない」がその答えである。パフォーマンスに関して、両車はほぼ互角と言える。S 550はメルセデス・ベンツの4輪駆動システム「4MATIC」という利点を備え、それでもノーズヘビーなS 600より車両重量は30kgほど軽い。燃費も予想通り、S 550 4MATICの方が優れている。JC08モード燃費の数値は、S 550 4MATICが9km/Lであるのに対し、S 600は7.4km/Lだ。

視覚的にも、両車はいくつかのバッジを除けばほとんど同じだ。S600に付く「V12」というバッジが、S550では「4MATIC」になる。だが、物事はこの辺りからややこしくなってくる。1台のクルマに数千万円を投じようという時、人の判断は理屈より感情が優先されるからだ。確かに400万円は大金である。しかし、2,222万円(S 550 4MATIC)と2,626万円(S 600)の差なんて、200万円と600万円の違いに比べたら、大したことないとも言えるだろう。

前述の通り、これらのクルマは自分で運転するために買う物ではない。パフォーマンスは、ただ十分であればよいのだ。確かに滑らかで高トルクなV12エンジンは、野性的なV8よりも好ましく、洗練されているかもしれない。だが、そのエンジンはレッドゾーンまで回されることはまずない。乗客=オーナーがシャンパンを零してしまうからだ。

一方で、V12のバッジは、カントリー・クラブの会員証ほどの価値がある。確かにS 550は素晴らしいクルマだ。だが、何かの会合や催しにS 600で乗り付ける人物が現れたら、その素晴らしさも途端に色褪せてしまうだろう。マイバッハを購入するような人であれば、相手がどのくらいお金を持っているか、常に推し量りながら人付き合いするはずだから。



この場合、果たして燃費は重要だろうか? そもそも、オーナー自ら給油するなんてことがあるのかどうかも疑問だ。仮に年間走行距離が1万km(この種のクルマには少ないかもしれないが)だとして、JC08モード燃費を元に計算すれば、S 550のオーナーは年間1,111リッターのハイオク・ガソリンを購入することになる。S 600のオーナーは1,351リッターだ。ハイオク・ガソリンが1リッターあたり145円だとすると、燃料費の差額は年間3万4,500円。2,000万円を軽く超えるクルマを買う人にとって、節約したくなる額だろうか。もちろん、燃料費だけでなくメインテナンスの費用も、V12エンジンの方がV8エンジンより高くつく傾向はあるだろう。

燃費よりも重要なのは、4輪駆動が必要かどうかということだ。S 600は後輪駆動のみであり、4輪駆動の4MATICは選べない。もしあなたが、4輪に駆動力を発揮させることが必要だと感じる地域にお住まいなら、迷うことはない。S 550 4MATICを手に入れよう。

差額の400万円をオプションに使いたいと考える人はいるかもしれない。だが、S 550の方が価値があると説明したがる人はいないだろう。それは自慢ではなく自己正当化に過ぎない。V12エンジンのS 600なら、それを選んだ理由を誰かにわざわざ説明する必要なんてないことがお分かりだろう。クルマに大金を使うのであれば、S 600を買うべきだ。


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翻訳:日本映像翻訳アカデミー