海外に出かけたことがあるといっても、おそらくアメリカや欧州しか見たことのない人には信じられない話だろう。世界には日本並みに日本車率の高い国があるのだ。


 日本車率が世界最高と言われているのはインドネシアで日本車率は約97%。日本全体での日本車率は95%程度なので、実はインドネシアは日本よりも日本車率が高いのである。さすがにそんな状況であれば、もし筆者がフォード社長だったとしてもインドネシア市場からは撤退という決断をするだろう(フォードは昨年インドネシアから撤退した)。


 もうひとつ、日本車の高い国として知られるのがタイランドだ。ここは日本車比率が85%を超えているといわれ、道路を見て日本車を見かける頻度は東京23区内(日本で最も日本車比率が低い地域)と同じかそれ以上。コンパクトカーからピックアップトラック、そして大型バスやトラックまで新旧たくさんの日本車の走る姿を見ることができる。


 この春、筆者はバンコクモーターショーを取材するために、タイの首都であるバンコクを訪れた。その際にバンコクの中心と言える「アソーク交差点」で走るクルマをウォッチングしたのでその様子を報告しよう。
 ちなみにアソーク交差点とは、東京でいえば渋谷ハチ公前交差点に相当する商業地域の中心部。渋谷が日本の平均的な街とは言い難いようにアソーク交差点もタイの日常とは言い難いが、タイのトレンドを見るには最適な場所だ。


 まず気が付くのは、プレミアムカーの多さだ。「日本車が多い」と煽っておいてなんだが、メルセデス・ベンツがあまりに多いことに驚かずにはいられない。この国の物価は日本の1/3程度と言われているけれど、タイでクルマを買うとなると物品税(35~48%)+地方税10%+付加価値税7%、そしてASEAN外からの輸入車は関税が80%(!!)もかけられるから、ベンツなんて日本で買うのに比べて2倍くらいの購入金額となる。そんな状況なのにこれだけの台数(六本木交差点と同じくらいのベンツ濃度)が走っているのだから信じられない。


フェラーリアウディR8は日本円換算だと「億」に近いだろう。


 トヨタ・カローラの多さも尋常ではない。なぜなら、タクシーのほとんどがカローラだからだ。とはいっても日本で売っているカローラとは違い、ひとまわり大きな「カローラ・アルティス」で、通称「グローバルカローラ―」と呼ばれる世界サイズのカローラだ。タイ仕様はアジア向けのフロントマスクなので、同じアルティスでも北米向けなどに比べるとフロントマスクが煌びやかだ。


 タイでも現地生産されていて、車両価格は日本円にして約260万円から350万円。なんとも高級車なのだ。そんな高級車なのに、タイのタクシー代は物価を考えても激安。初乗り約100円という信じられない金額で乗れてしまうのだから、不満のたまったタクシー運転手がいつ暴動を起こさないか不安だ。


 ハイエースが日本専売車両と思ったら大間違いで、もしかしたらバンコクの街は日本で見かける以上にハイエースを見かける頻度が高いかもしれない。ボディは「スーパーロング」が定番(ときどきロングのミドルルーフもある)。バンコクではミニバス的な使われ方も多く、インテリアをゴージャスにカスタマイズされた車両が「タイエース」と呼ばれることもある。
honda civic
 最近増えているのは、ホンダ・シビックだ。かつて長きにわたってタイでの乗用車売り上げナンバーワンを誇ったブランドはトヨタだが、2015年にはホンダが奪回。引き続き2016年も連続してホンダがシェアのトップをキープしている。その立役者の1台が新型シビックというわけだ。新型にバトンタッチした2016年、シビックは通年で前年比3倍以上となる2万2385台を販売と大ヒット。今年の夏に販売が始まる日本でもこの勢いに乗れれば、多くのメディアの心配は杞憂だったということになるだろう。


 驚くことに、アルファードやヴェルファイアも珍しくない。多いなんてもんじゃなくて、信じられないほどたくさん見かける。
 両者とも正規販売されているものの現地生産はされておらず、日本からの完成車輸入となる。そのため販売価格はなんと、約1200~1700万円という驚きの超高級車。大事なのでもう一度書いておこう、イッセン二百万円からイッセン七百万円だ。感覚としては、日本でマイバッハを買うようなものだろうか。日本人としては信じられないが、これがタイの現実なのだ。


 並行輸入された車両も多いようで、リヤウインドウに日本の排ガス基準や燃費基準のステッカーが貼られたまま走っている車両も少なくない。日本人から見るとちょっとカッコ悪い気もするが、もしかしたら「日本から入れている」というアピールなのかもしれない。

それにしても最低1200万円を出してアルファードを買うとは......ツワモノだ。
多くは富裕層が運転手付きで乗るショーファーだろう。それにしても富裕層が多すぎやしないだろうかここは?


 いっぽうで日本ではほぼ見かけないけれどバンコクの渋谷ハチ公前交差点ではたくさん走っているのがピックアップトラック。もちろん便利という実用面もあるが、実は購入や維持にあたり税金が安いので、定番的な庶民の足なのだ。大きさやパッケージングはずいぶん違うけれど、日本で軽自動車に乗るような感覚といえなくもない。荷台にたくさん人を乗せていることもあるけれど......郷に入れば郷に従えだ(でも合法ではない)。


 ずいぶんとボロいバスが走っているなあ、なんて思いながら見たら暑いタイなのになぜか窓が全開。現地の人に聞いてみたら「エアコンがついていないから」とのこと。じゃあどうしてエアコン付きのバスに乗らないかといえば、「乗車賃が安いから」と即答された。


 日本の倍以上の値段で売っているベンツやアルファードがバンバン走っているかと思えば、その脇を通り過ぎるのはエアコンのないバスや大量のバイク。クルマを買える層というだけで恵まれている環境ともいえる街で、どうしてこんなに高級車が多いのか。同じお金を出せば手に入るベンツを買わないアルファードを選ぶのはどんな心境なのか? エアコンのないバスはいつになったらエアコン付きバスに入れ替わるのか。
混沌としたバンコクのアソーク交差点の中心で通るクルマを見ているだけで、いろんなことを考えさせられた。


 ちなみにこの国でもっともおもしろいのはムエタイ観戦でもゴーゴーバーでもなく、政治が不安定となってクーデターにより軍が力で政治の実権を握った「軍政」という特殊な状況がここ数年続いているにもかかわらず人々が平穏に暮らしている状況だ。しかも多くの人は「以前(民主政治だったころ)より暮らしやすい」というのだから、実に不思議である。
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