Yamaha MT-10/SP
 スーパースポーツのカウルを脱ぎ去り、ネイキッドバージョンとしたモデルは昔から数多く存在してきたが、『MT-10』はそんな容易いものじゃない。開発プロジェクトリーダーの平野啓典氏は言い切る。「MT-10 is not a neked R1。YZF-R1のネイキッドではない!」と。


 現行型R1譲りの並列4気筒をベースエンジンとしているが、クランク、ピストン、コンロッドを一新し、クランクの慣性マスを増やしたほか、吸気系やシリンダーヘッドまわりなど約40%のパーツを変更することによって、R1を上回る日常域でのパフォーマンスを発揮している。1万回転以上という高回転の領域こそR1に敵わないが、公道で使うレンジではMT-10が上というわけだ。


 シャシーもアルミデルタボックスフレームを骨格とするR1を踏襲するものの60%ものパーツが見直され、ツーリング時に荷物を積むことやパニアケースの装備などを考慮し、マグネシウム製だったリアフレームはスチール製に変更されている。

 メディア向け試乗会は、伊豆・修善寺にある日本サイクルスポーツセンターのクローズドコースにて開催されたが、あいにくの雨。「これは難儀だな......」と思ったが、ツーリングを視野に入れたモデルなのだから雨天ももちろん想定内。このウェットな状況で、どれだけ楽しめるのかを試すことにした。


 SF映画に出てきそうなロボットフェイスの車体は、MTシリーズの最上級モデルらしく迫力満点。車体が大きいからではなく、重量物を重心近くに集中させ、ギュッと詰まった感じが見るからにたくましい。デザイナーは車体の内側から溢れるパワー感を見る者に感じさせるため、吸気 爆発 排気という内燃機関の行程を"Zシェイプ"を採用することで視覚化したというが、いまにも変形して飛んだり歩いたりしそうだ。


 人が乗ったら振り落とされそうな凶暴な車体だが、着座するとシートやタンク、フレームの下半身が接する部分が見事に絞り込まれ、ニーグリップがしっかり決まる。シート高はR1の855mmに対し、825mmまで下げられ足つき性が良いのもありがたい。 加えて幅広なテーパーハンドルがアップライトなライディングポジションを生み出していて、思いのほかフレンドリーな印象。眼下にはエアダクトが埋め込まれたマッチョなタンクまわりがあふれんばかりのボリューム感で張り出しているが、視覚的なイメージとは裏腹に気軽に乗り降りできる扱いやすさのある車体だ。


 雨の中で、R1譲りのモンスターエンジンは手強いだろうと身構えていたが、アクセルを臆せず開けていけるから面白い。トラクションコントロールの介入度がもっとも高い「3」にセットしておいた恩恵もあるはずだが、低いギヤのまま高回転まで引っ張り上げてもタイヤはしっかり路面を捉え、エンジンはギクシャクすることなくスムーズに回っていく。もちろん加速は強烈で、あっという間に100km/hを超えていくからパワーが凄まじいのは言うまでもない。

YAMAHA MT-10 / SP
 不等間隔爆発が良好なトラクション性能を生むクロスプレーンクランクの並列4気筒エンジンは、低中回転域のまま高いギヤを使っても、心地良い鼓動感が味わえるのがいい。最大トルクは9000回転で発揮するのだが、3〜4000回転でノンビリ走っていても退屈ではなく、街乗りやツーリングでの常用速度域での気持ち良さがしっかりとある。


 濡れた路面では、スロットル操作は恐る恐るかと走行前は想像していたが、そんな心配はよそにもっとシャープなエンジンレスポンスも味わってみたいと、「3」に設定したD-MODE(走行モード)をよりスポーティな「2」、そして最もレスポンスの鋭い「1」も試したくなる。雨だろうが、トラクションコントロールを効かせておけば「1」でも何ら問題ない。


 3段階あるD-MODEは、その差は明確にあるのだが、いずれもエンジンフィールが大きく異なるというものではなく、もっともソフトな「1」であっても、スロットルレスポンスが急激に落ちたりはせず嫌にならないのがいい。3段階それぞれが、ちゃんと「使える!」味付けになっている。


 もっとも感心するのはスロットルを開け始めたところで、ここが乱暴すぎず、かといって物足りないなんてことがなく絶妙。このアクセル開度1/4あたりまでのツキがちょうど良く作り込まれているものだから、アクセルを開けるのがこんなにも楽しいのだろう。 そして荒々しいほどのトルクは、ライダーの尾てい骨を支えるストッパーによって身体をしっかり受け止めてくれる。こうした細かいところからも、ストップ&ゴーを繰り返すストリートでの走りを開発陣が徹底的に追求してきたことが読み取れる。

YAMAHA MT-10 / SP
 ヘッドライトパーツをフレームマウントしたことで、ハンドリングはより軽快で、フロントからグイグイ曲がっていく。俊敏なステアリングフィールは1405mmというR1のショートホイールベースをさらに5mm短縮し、リッターバイクとしては驚異的ともいえる1400mmとしていることからも合点がいく。ドライだったらさぞかしペースの速い過激な試乗会となったことだろう。


YAMAHA MT-10 / SP
 なお写真はMT-10SPで、オーリンズ製電子制御サスペンションをはじめ、フルカラーTFT液晶メーターやバフ仕上げのリアアーム、走行モードを自在に選択できるYRC(ヤマハ・ライド・コントロール)セッティング、専用アルカンターラ調シート表皮を採用した上級仕様。KYB製ショックのスタンダードより前後サスの動きに上質さを感じるが、スタンダードでも不満はなかった。これもドライ路面で乗ったら、また印象が違ってくるのかもしれない。


 MT-10はこの手のモデルでは珍しくクルーズコントロールを備えていて、さらにネイキッドながらウインドプロテクションにも配慮したと開発陣は言うから、こんどは高速道路を使ったツーリングに出掛けてみたい。そのときはもちろん、雨の降っていない日に!!
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