【試乗記】「未体験の加速!」 「GT-R」を1115psに怪物チューンしたAMS「ALPHA 12」
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愛車が軽自動車であろうが、647psのシボレー「コルベットZR1」であろうが、ステアリングを握る度、もっとスピードが欲しいと思うのは車好きなら当然のことだろう。しかし、持て余すほどのパワーを備えた愛車を所有していたら、その欲求は治まるのだろうか? この疑問に答えを出すべく、米シカゴを本拠地とするチューニング・ハウス「AMSパフォーマンス」がR35型日産「GT-R」をベースにチューンした「ALPHA 12」に試乗したので、今回はその詳細をたっぷりお届けしよう。

ALPHA 12の0-1/4マイルは8.975秒で、その時の速度は272.6km/h。そんな怪物のような車を生み出したのは、2001年にシカゴ郊外のアーリントンハイツに開業したチューニング・ハウス「AMSパフォーマンス」だ。同社が初めて手掛けた車の1つは、2.3リッター・ターボ・エンジンを搭載したフォード「メイクールXR4Ti」。それ以降は三菱「ランサーエボリューションVIII」日産「240SX」など、次々とチューンドカーを世に送り出した。2007年には本社をアーリントンハイツからウエストシカゴへ移転。同年、AMSがチューンしたランエボがドラッグレースで新記録を打ち立て、「世界最速のエボVIII」と呼ばれるようになった。

【試乗記】「未体験の加速!」 「GT-R」を1115psに怪物チューンしたAMS「ALPHA 12」
【試乗記】「未体験の加速!」 「GT-R」を1115psに怪物チューンしたAMS「ALPHA 12」

2009年になると同社は、ポルシェBMWヒュンダイなどチューンする車種の幅を広げていくが、中でもアメリカで「ゴジラ」の愛称で呼ばれていたR35型日産「GT-R」に強く魅せられたという。彼らはGT-Rのチューンを続け、「ALPHA 6」、「ALPHA 9」、「ALPHA 10」のモデル名で次々と送り出し、ドラッグレースやサーキットなどで記録を塗り替えた。そして今回、我々が試乗したのが最新モデルのALPHA 12というわけだ。

ここで、ALPHA 12が完成するまでの過程を説明しよう。ベースとなるのはR35型日産GT-R。最初に着手するのはパワートレインの改造だ。3.8リッターの「VR38DETT」V6エンジンを4.0リッターへとボアアップ。その後、Alphaシリーズのカムシャフト付きAMS Alpha CNC レースポート・シリンダーヘッド、AMSインジェクター、AMSマップセンサーなどを取り付ける。次はパワーアップのカギとなるターボチャージャー。もともと付いていたターボはAMS Alpha 12のターボキットに取り替えられ、AMS製インタークーラーも装着。排気系もダウンパイプからマフラーに至るまで変更される。最後にギアボックスをPPGとDodson製にアップグレード。こちらも大容量のオイルクーラーに適合させるためだ。部品は熟練技術者の手で1つ1つ付け替えられ、ついに完璧な4.0リッターのAMS Alphaレースエンジンが完成する。


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こうしてチューンアップされたALPHA 12は、ダイナモメーターで93オクタン無鉛ガソリンを使用した場合、最高出力1100hp、最大トルク124kgmを発揮。さらにレース用ガソリンを使用すると、なんと最高出力は約1500hp、最大トルク145kgmという驚きの数字を叩き出す。0-60mph(約96.6km/h)加速は2.48秒。特筆すべきは60mphから130mphへの加速力だ。ALPHA 12は、これをたったの3.31秒でやってのけるのだ。この数字がどれほど驚異的かというと、0-1/4マイルで市販車最速のブガッティ「ヴェイロン」さえ、砂埃の中に置き去りにできるのだ。

このタイプの車を走らせるには、当然、交通量のない広い道路が理想的だ。しかし悲しいことに、ここはLAのサンタニカ。しかもひどい渋滞だ。とにかく渋滞から抜け出すためにパシフィック・コースト・ハイウェイを目指して北上を試みた。




助手席にはAMSの技術者イヴァン・フィップスが座っている。多彩な才能の持ち主である彼は、熟練技術者としてだけではなく、0-1/4マイルテストのドライバーでもある。助手席に座る人間としては、これほど理想的な人はいないだろう。

まず、室内についてお伝えしよう。基本的にはほとんど手が加えられていない。もちろん、顧客の要望次第でレース用バケット・シート、ハーネス・シートベルト、ロールケージなどの装着は可能だ。残念ながら、インジェクションやエンジンマッピングを改造したために、センターコンソールに表示されるデジタル・メーターのいくつかは正常に作動しないのだが、エアコンなどの装備類はすべて問題なく作動していた。

"スタート"ボタンを押すと、4.0リッターV6が奏でるエンジンサウンドが駐車場の壁面に反響して鳴り響く。アイドリングはスムーズだが、太いテールパイプから吐き出されるその爆音は、すべてが特別なのだと物語っている。ALPHA 12はチューン前のGT-R同様、オートマチックでも運転が可能。助手席のイヴァンはマニュアルモードでのドライブを勧めてくれたが、まずはATモードで駐車場を後にした。

わずか400メートルを走行しただけでイヴァンが発した言葉の意味が理解できた。強大なトルクを生むこの車は、やはりATではしっくりこないのだ。すぐにイヴァンの忠告どおりマニュアルモードに切り替えたが、感触は想像以上だった。初めはギアチェンジのたびに巨大な重機でオカマを掘られているように、後ろから「ドンッ」と凄いパワーで押されるのにびっくりしたが、ギアチェンジのときにアクセルを少し戻すと(マニュアルのクルマでクラッチ操作をするときのように)スムーズに走れることが分かった。

とはいえ、ALPHA 12は決して従順で乗りやすいクルマではない。全てがノーマルのGT-Rより荒々しい。怪物並みのパワーを扱うために、いくつかの部品は耐久性の非常に高いものに交換されている。ほとんどがボディ内部に収められているので確認はできないが、太いエキゾーストパイプから発せられる大音量のエンジン音を聞くだけでもそれは納得できるはずだ。腹の底までズンズンと鳴り響くエンジン音は、本物のカーマニアなら不快に思うどころか、逆に元気づけられるに違いない。

ブレンボ製ブレーキやマルチモード式電子制御サスペンションはそのまま残されているため、公道における乗り心地はノーマルのGT-Rと同様に快適だ。ただし、サーキット走行を予定しているのであれば、ブレーキパッドのアップグレードは必要かもしれない。




ようやく道路がすいてきたので、警察がいないかミラーで何度もチェックした後、アクセルを踏み込んだ。4分の3まで踏み込むと、2つのターボチャージャーが離陸直前のジェットエンジンのように回転し始めた。反応するまでに若干のタイムラグがあるものの、その後は一気にタイヤがフル回転して加速した。

ところがその直後、4つのタイヤは路面の接地を失い、車体が対向車線にはみ出しながら暴れた。恐怖心のためシフトアップのタイミングを誤り、エンジンの回転計がレッドゾーンに届く。燃焼できなかった燃料が黒煙となってテールパイプから吐き出され、クルマが怒りの声を上げた。並走していたカメラカーがリアビュー・ミラーの中でかすむ。イヴァンは笑って首を振りながら「アクセルを全開にしたら、こんなものじゃない」と言う。



二度と同じ失敗はしないと決意し、右手の指をシフトパドルに置いたまま、アクセルをぐっと踏み込んだ。再びターボチャージャーが深く息を吸い込んでパワーが解き放たれる。それは今まで経験したことのない、度肝が抜かれるような物凄い加速力だった。慌ててパドルを引きシフトアップする。馬鹿みたいに速いかって? いや、それ以上だ。

この後、ステアリングをイヴァンに譲り、彼による"加速の解釈"とローンチコントロールのデモンストレーションをやってもらう。彼は私が望んだ以上のことをやってみせた。ブロックからブロックへ、0-100km/h加速を繰り返し、タイヤとアスファルトを磨り減らした。老朽化した路面では本来のグリップ力を発揮できなかったものの、これぞALPHA 12という走りを堪能できた。



ここで、なぜ名の知られたスーパーカーではなくALPHA12を今回試乗車に選んだのかを説明したい。

まずは価格だ。この驚異的なパフォーマンスに対して、ALPHA 12は非常にリーズナブルと言えるだろう。GT-RをALPHA 12にチューンアップするには、現金で約770万円とGT-Rを持ち込む必要がある。GT-Rの値段をオークションサイト『eBay』で検索すると、総走行距離が少ない2009年型で約470万円、2013年型の新車だと780万円以上となっている(注:試乗が行われた2012年当時の価格相場)。つまり、ALPHA12の値段は約1,240万~1,550万円ということだ。ちなみに写真のモデルは2010年型 GT-Rで、カーボンファイバー製のボディパネルと特注のタイヤという約156万円分のアップグレードが施されている。

次は、この車がレースにはもちろん、公道でも使えることだ。信号グランプリからロシアの飛行場で行われるドラッグレースまで、勝てるだけの圧倒的な動力性能を持っていながら、エアバッグ、本皮シート、そしてオートエアコンといった快適な設備も充実している。他にこんな車を開発するのは至難の技だろう。

これほどまでに気持ちが高ぶる車には、そうめったに出逢えるものではない。速さは期待以上であったし、同時に今まで試乗したどのチューンドカーよりも洗練されていた。このALPHA 12がすでに75台以上が売れているという事実は、何ともうれしい驚きだ。前述した6、9、10シリーズを含めると、AMSがチューンアップしたGT-Rは世界に300台以上あるという。フェラーリ「458イタリア」やランボルギーニ「アヴェンタドール」といったスーパーカーを手に入れたいと思っている方は、ぜひALPHA 12も検討してみるべきだ。



今回の試乗を終えるにあたり痛感したことがある。パワーが有り余るクルマは手に負えないということと、しかし一度それを経験してしまうとパワーのない車では欲求不満を感じずにはいられないということ。つまるところ、「パワフルな車というのは常に魅力的だ」という当然の結論に至ったことを読者の皆さんにお伝えておこう。

基本情報
エンジン:4.0リッターV型6気筒ツインターボ
パワー:最高出力1500hp / 最大トルク145kgm
トランスミッション:6速デュアルクラッチ
0-100km/h加速:2.48秒
最高速度:370km/h
駆動方式:AWD
車両重量:1685kg
座席:2+2シーター
価格:推定約1,500万円

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By Michael Harley
翻訳:日本映像翻訳アカデミー

※こちらは2012年9月の記事を改めて掲載したものです