Audi R8
AudiのフラッグシップスポーツであるR8を、公道とサーキットというふたつのシチュエーションで乗り比べることができた。


R8に乗って、まっさきに思い出したのは双子のウラカンでも、ポルシェ911ターボでも、日産GT-Rでもなくて、HONDA NSXだ。

Audi R8
この二台、ミドシップ4WDという成り立ちもそっくりなら、「日常で快適に乗れるスーパースポーツ」というコンセプトまで同じ。しかしその乗り味は、しっかりとドイツと日本・・・もといドイツと北米の、好みの違いが現れているから面白い。

Audi R8 Audi R8
今回試乗したのは、R8でも最もハイパワーなモデルとなるR8 V10プラス。5.2リッターの排気量から610ps/8250rpmの最高出力と560Nm/6500rpmを発生するV型10気筒エンジンを車体中央に縦置き配置し、前述の通りクワトロシステムで4輪を駆動する。ちなみにノーマルモデル(?)の5.2TSFIは最高出力が540ps/7800rpm、最大トルクは540Nm6500rpmとなっており、プラスがより高回転で高い出力を得る、コンベンショナルなNAエンジンであるということがわかる。


もはや絶滅種となりつつあるノンターボエンジン。これがV型10気筒という形で現在に残っている価値は大きい。大排気量ゆえに低速からのトルク不足を感じることなどまったくないし、何よりその鼓動が乗り手を興奮させてくれる。はっきり言って日本の公道ではその実力など片鱗すら味わうことはできないのだが、常に低く唸るエンジンがコクピットの背後に居座っている印象は、見事に"タダモノではない感"を演出している。


そんなわけで、公道で乗り手にR8のアウディ・クオリティを感じさせるのは、主にハンドリングだ。それも極めて低い速度域から「私はアウディである」という主張を、はっきりと感じることができるのが嬉しい。
アウディの美点は、直進状態でステアリングがビシッと座っていること。剛性が高いステアリングコラム、そのまま手を離していても真っ直ぐ突き進みそうなEPS(電動パワステ)の抑えはR8にも受け継がれていて、そこからステアリングを切ると、極めて角度が浅い段階からサスペンションがしなやかに伸縮し、ジワッとタイヤへ荷重をかけて行く。


小さなステアリングを握ったときに肩を包み込むようにしてホールドしてくれるシート。適度に寝そべったシートポジション。この全てが直進からコーナリングまで豊にインフォメーションを発信し続け、しかしながらその乗り心地がドタバタと不快ではないところに「オレは上質なスポーツカーに乗っているんだ」という満足感を与えてくれる。

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もちろんその足下には20インチにもなる大きなタイヤを履かせているから、路面の状況によってはハーシュネスだって伝えてくる。しかしその全てを消してしまうと、あまりに安楽過ぎて、それはそれですごいことなのだがそのありがたみまでもが失われる。そう、NSXはこういった味付けになっているわけだが、R8そのバランスを取るのがうまいのである。


そしてここらへんのさじ加減は、これからスーパースポーツたちが抱える贅沢かつ大きな悩みとなるだろう。超高性能を有するはいいが、その力を発揮させる場所はもはや公道にはどこにもなく(アウトバーンは別だ)、溜まるばかりのフラストレーションをどう解放させるか。現状これがもっともうまく行ってるのは、ポルシェ911ターボ・カブリオレだと筆者は思う。その重厚感、低重心感、ハイパワー感を"風を切る"ことで身の丈に納めることができるからである。

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フラストレーションという意味では、R8 V10プラスも、煎じ詰めれば実は一緒。結局は「このエンジンとシャシーをしゃぶりつくしたい!」という衝動に駆られてしまうからだが、それだけにアウディ・ジャパンが今回富士スピードウェイという舞台を用意してくれたのは本当によかった。


全ての始まりは、そのステアリングホイールから。スターターボタンを押せばV10は弾けるように目覚める。そしてその走りを先鋭化させるために、ドライブセレクトのモードは「ダイナミック」に。さらにESCの制御を最小限にするために、その隣にあるチェッカードフラッグマークの「パフォーマンスダイヤル」を回して「ドライ」を選択(この他にスノー/ウェットがある)。これらの儀式は最初は面倒だが、慣れるとまるで自分のクルマのように思えてくるから面白い。


長いピットレーンを抜けて、2コーナーを駆け下りるあたりからアクセルをグイーッ!と踏み込む。公道ではなりを潜めていたV10が空気を大量に吸い込み出し、それと同時にV型エンジンの排気脈動をフロロロロロロッ!! とまき散らす。......いいぞ!

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12気筒よりも粒は粗いが、V8よりも緻密な、まさにV10らしい吹け上がり感。強烈な中速トルクでマシンを猛烈に加速させるけれど、いわゆるターボ的な粗雑さがなく、人間の気持ちとシンクロするかのようにパワーが盛り上がって行く。
アウディはRSシリーズに搭載するターボでその雑味を完璧に取り払っているけれど、NAエンジンになるとここに高揚感が加わる。まるで濃厚な赤ワインをガブ飲みするかのような、ちょっと野蛮だがやめられない背徳がそこにはある。

Audi R8
そしてレッドゾーンまできっちりとエンジンを回しきったあとにパドルをクリックすると、7速Sトロニックがスパッ!とその回転上昇を断ち切り、タイムラグなく次のギアへ駆動をドシッと伝える。その変則行程は、もはや快感以外の何者でもない。


対してコーナーのアプローチでは、フロントサスペンションの剛性がややソフトだと感じた。この動力性に対して、ターンインがダルいのだ。コーナーを華麗に駆け抜けたいといえば聞こえはいいが、その反応はこの後乗ったRS3やRSQ3の方がダイレクトであり、やる気マンマン。弾けるように走るボディをサスペンションが力強く押さえ込み、遠心力に抗いながらその姿勢をニュートラルステア一歩手前でなんとか留めようと格闘してくれる。
確かにこれをミドシップでやってしまうと、多くのオーナーが手を焼くかもしれない。だがそのための4WDであり、クワトロの駆動制御だろう? と思わなくもない。


重量バランスは非常によい。ドライサンプ化したエンジンを車体中央に低くマウントするという手法が物理の法則に一番従順なのは間違いなく、ターンミドルでヨーモーメントが高まり、リアタイヤが滑り出したとしてもその動きは極めて穏やか。そしてアクセルで駆動をかければ、滑りながらもトラクションを回復して行く。911GT3ほど足を固めずともこの動きを御せる様子に「あぁいいクルマだな」と心から思える。


それだけに、やはりもう少しだけダンパー&スプリングやスタビ、ブッシュといったサスペンションの剛性は上げて欲しい。公道とサーキットを比べれば、間違いなく公道での使用頻度の方が高いのはわかる。これだけのエンジン性能をして、これをコンフォートに両立するのは恐ろしく難しいのも。だとすればR8にも、911で言えば「GT3」、日産GT-Rで言えば「NISMO」のようなピュア・バージョンが必要だ。それをしてこそ、R8が持つ素晴らしい実力ーーーー本物のミドシップスポーツをコマーシャルできると思うのだ(そしてこれはNSXにも言えることなのだが、NSXにはきっとタイプRが待っている)。


もうひとつR8に足りないものがあるとすれば、それは未来に生き残る先進性。NSXはそこにモーターという武器を実用化していち早く着手した。ただ前述したように、R8は珠玉の自然吸気エンジンを持っている。今はその、いずれはなくなってしまうであろう前時代的な遺産を謳歌して、有終の美を飾るべきである。それだけに、公道ではあるが裕福層にキッチリとスポーツカーらしさを印象づけるハンドリングとエンジンの咆哮を与え、スポーツカーとして存在を示したことをまずは賞賛したい。

Audi R8
ボクにはとっても無理だけれど、「なくならないウチにこのビンテージワインを買っておけ」という言葉がR8には一番相応しい。

■アウディ 公式サイト
http://www.audi.co.jp/