Honda NSX
 とうとう新型NSXへの試乗が叶った。しかもこれを許された場所は、ホンダの聖地である鈴鹿サーキット。天候が危ぶまれたなかでの試乗ではあったが、午前中は図らずもドライ。そして午後はウェット路面と、短い時間ながら超濃密に、その性能を確かめることができた。

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新型NSXの美点は数あれど、その中で最も光るのはハンドリングだ。
こう聞くと、初代NSXのカミソリのような挙動を思い起こす人も多いだろうが、レベルがまったく違う。ボクがいうハンドリングとは、ハンドルを切って感じるフロントタイヤのゲインや、リアの不安定さではなくて、クルマ全体の身のこなし。これが新型NSXは、抜群に素晴らしい。それはポルシェ911ターボSや、ランボルギーニ・ウラカンといった直接のライバルたちにもまったく負けない。フェラーリマクラーレンを持ち出すと、そこにはレーシングの世界観が絡んで来るし、それは真剣勝負として"ガチ"に比べねばならないから、"R"が出るまでひとまず置いておきたい。


Honda NSX
NSXが人間でいうところの、優れた"体幹"を持つ理由は、そのエンジンが車体の一番低いところに搭載されているからだ。いわゆる重心位置が、極めて低い。間違いなく国産スポーツの中では、一番だと思う。
これを実現するために、ホンダは一番の重量物であるエンジンを磨き上げた。


3.5リッターの直噴ツインターボは、汎用性のある60度ではなく、75度のバンク角で新設計。そしてヘッドは、少しでもその慣性重量を減らす為に、かつての代名詞であるV-TECを捨て去り、スイングアーム式のバルブトレインを採用した連続可変バルタイ機構(VTC)に変更した。
極めつけは、ドライサンプユニットの採用だ。これはオイルの潤滑システムで、エンジンブロックの下にオイルパンを持たないことから、高いコーナリングG領域でも常時オイルを吸い上げることが可能になる。そして何より、オイルパンが無くなった分だけ、エンジンの搭載位置が60mmも下がったのだ。
ドライサンプユニットはコストが掛かり、「市販車ではとても採用できない」という声をメーカーエンジニアからはよく耳にする。しかし世界のスーパースポーツは、みなこの形式を採用している。NSXは、ようやくここにたどり着けた。

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こうしてできあがったエンジンを、ホンダは縦置きに配置した。こうすることで排気管は左右均等となり、タービンの配置もしやすくなった。またオーバーハング部分にはみ出したトランスミッションも、9速という段数を持ちながら、じつに小さくまとめられている。

Honda NSX
さらに言うとハイブリッドスポーツカーであるNSXは、3つのモーターを制御するパワードライブユニット(PDU)と、DC-DCコンバーター及びリチウムイオンバッテリーを集約したインテリジェントパワーユニット(IPU)を備えるが、前者は床下、後者はシートの後ろ側と、ホイルベース内の低い位置にマウントしている。


こうした配置はまさにレーシングカーそのもの。そしてこのレイアウトを量産車メーカーが実現するのは、本当に至難の業なのだ。これはF1やスーパーGTを闘うたホンダだからこそできたウルトラC。でも本当は、初代NSXのときにやって欲しかった!

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そしてこのピュア・ミドシップなレイアウトは、驚くほどに運転がしやすい。
ミドシップというと誰もがピーキーな挙動を思い浮かべ、「レーサーぐらいしか運転できない」と思うはずだが、まったくそんなことはない。車体中央の低い位置に重量物が納まるとクルマは、信じられないほど素直に曲がるようになる。それは「よくできたレーシングカーほど乗りやすい」といわれるのと同じ。速く走らなければ、この世で一番思い通りに動かせるのはフォーミュラカーである。


Honda NSX
だから鈴鹿を走ったときは、空が曇天模様なのにもかかわらず、気持ちがパァッ!と明るくなった。三連続のS字カーブをリズミカルにこなし、先の見えない逆バンクにも臆せず、高いGが続くダンロップにチャレンジできた。あの鈴鹿を、恐怖感に支配されず走れたのである!
たとえリアタイヤが滑り出しても、その挙動はじつに穏やか。滑り出しがわかりやすいのは、これこそが重心の低さによるものだ。


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ただNSXには、ひとつだけクセがあった。それはフロントタイヤに働く「トルクベクタリング」の制御だ。これはコーナリング時、内輪側に逆方向のトルクをモーターが与えることで、より旋回性能を高める機能である。


サーキット走行ということもあり、制御モードは「Track」。もともとトルクベクタリング機能は公道での曲がりやすさを際立たせるべく、速度域が低い状態が一番強く働くらしいのだが、これが限界領域では、特徴的な挙動を示した。

Honda NSX
よくFWDや4WDのレース車両で走るとき、「カウンターは切らないで走れ」と言われる。それは機械式LSDを入れた前輪の駆動力が強く、カウンターを切った方向にクルマがすっ飛ぶからである。
同様にNSXも、オーバーステアが出た際にカウンターを切ると、そちらにノーズがグイッ!と引き込まれる。そして車両安定機能であるVSAをオフにすると、この症状がさらに強くなる。
この対処方としては、常に4輪の滑る様子を意識しながら走ることで、リアが流れ出したらその分だけアクセルを踏み足してやる。するとNSXはミドシップによるトラクションの良さに加え、フロントに掛かったトルクが車体を引っ張り、行きたい方向へ進んでくれる。


Honda NSX
カウンターを最小限に挙動をコントロールする走りは、まさにフォーミュラ的。フロントにトルクが掛かっていれば、カウンターを当てていてもNSXは前へ前へと進もうとしてくれた。
ここでは左足ブレーキが有効だった。それならブレーキングからのターンイン、またはターンミドルで車体が滑り出しても、すぐにアクセルを入れられるからだ。右足ブレーキはバランス・スロットルに遅れが生じがちで、なおかつ踏み替えによって操作がラフになる場合も多い。
今回はウェット路面というのもあったし、またこれは限界領域の話ではあるけれど、ボク的にはその本格的な挙動に、ちょっとスリリングだけど夢中になれる面白さを覚えた。


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ただこうした極めてマニアックな挙動を味わってしまうと、それまで乗りやすさを覚えていたハンドリングにも、ややレスポンスの鈍さを感じるようになったのも事実。またDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のレスポンスも緩慢だ。ここはクラッチを労るためにミートを穏やかにしているのかもしれないが、Trackモードではもう少しシャープな反応が欲しいと感じた。
Honda NSX
エンジンとモーターのパワーを合算したユニット出力は581ps。これだけ見ると恐ろしいほどの馬力だが、いちスポーツカーバカとしてわがままを言えばその出力は物足りない。これは、ふたつのモーターとIPUの重量が160kgと重たく、そのパワーウェイトレシオを大きく下げているからだと思われる。
Honda NSX
またこの重量増を補うべき9段DCTのギア比がワイド過ぎるのも残念だ。ただしギアレシオに関しては「世界中のサーキットをひとつのファイナルギアで走れるようにしたかった」とエンジニアがコメントしている。NSXはトランスミッションにLSDを内蔵しているため、その交換が容易ではないのだ。また世界中のサーキットで最も長いコースは、ニュルブルクリンクだという。

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エンジンそのものは頑張っている。社会的なモラルから快音をまき散らせなくなった現代で、その吸気サウンドで乗り手を楽しませてくれるし、その雑味の少ない吹け上がり方には好感が持てる。
そしてTrackモードだと"電欠"しないのにも感心した。エンジンが発電側に少しだけ出力を振り分け、バッテリーは常にパワーを発揮できるのだ。
90年代のV-TECを知る者にとってみれば、もっと突き抜けるようなエンジンの感動が欲しいとも思うが、それは短絡的な回答でもある。時代的にはフェラーリでさえターボを積む世の中で、内燃機関の行く先はどんどん狭くなって行く。
そんな状況で、NSXはいちはやくモーターをスーパースポーツの世界に持ち込んだ。これがジャーナリスト的には、一番評価してあげたい部分だった。

Honda NSX
NSXのことを「極めて日本的なスポーツカー」とか「刺激が足りない」と評するジャーナリストはいる。またアナタが根っからのスーパーカー好きならば、その声に賛同するとも思う。
しかしそのドライビング・ファンは極めて緻密で、かつ大胆で、本物である。


Honda NSX
ボクはNSXが、この新しい世界観に挑んだことを評価してあげたい。けれど、これがどれだけの好事家の心をつかむかは未知数だ。ドライビング・ファンと刺激を図りにかければ、刺激の方が圧倒的にわかりやすいからだ。本来であればその両方を兼ね備えることが理想だが、それにはEVのシステム重量を減らして行かねばならない。
だからこそ、NSXにはこれで終わって欲しくない。その真意が伝わるまで、つまりEV性能がどんどん先鋭化して行くまで、これを作り続けて欲しい。
ホンダはその先見の明を、自らが彼を育てることで証明しなくてはならない。
NSXは生まれたてのベイビーなのだ。

■ホンダ 公式サイト
http://www.honda.co.jp