スバル(富士重工業)のルーツが「中島飛行機」という航空機メーカーにあることは有名な話だ。現在は自動車生産をメインとする同社だが、今でも航空機に使われる部品の製造をおこなっていることはスバリストならご存じだろう。
しかし、その工場がメディアに登場することはきわめて少ない。秘密のベールに包まれた現場といっていいだろう。今回、そんな貴重な場所を取材することができたのでお伝えしよう。
足を踏み入れたのは愛知県半田市にある半田工場。同社航空宇宙部門が持つ3か所の拠点のうちのひとつで、「中央翼」と呼ばれる航空機の部品を組み立てている。敷地面積は5900㎡だから、東京ドームにたとえると約1.25個分。約1000人の従業員が携わっている。


中央翼というのは、飛行機の左右の主翼を飛行機の胴体の一部としてつなぐ巨大な部品のこと。翼を胴体に固定する「翼の根本」ともいえる部分だ。単に大きいだけでなく、重力を受けて下に引っ張られる胴体と揚力で浮き上がる主翼の荷重が交差する部分だけにとてつもなく大きな力がかかり、そのため高い強度も必要だ。また、内部は燃料タンクとして活用するので決して燃料が漏れることのないよう精密さまで要求される、製造するうえで非常に難易度の高い部品である。
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ここで作られた中央翼は、防衛省向け機体メーカーやボーイング社へ納入される。ボーイング社では富士重工製の中央翼を777と787のすべての機体に採用。いずれもフル稼働で生産が続き、787に至っては現在のペースで生産すると10年先までバックオーダーとなる大人気機種だ。またボーイング社の次世代機である777-Xへの採用も決まっていて、今年に入り777-X用組み立てラインの建物が完成し、取材時は生産設備の準備が急ピッチで進んでいた。


工場内を見学して見えてきたのは、その職人技だ。たとえば787に組み込まれる中央翼は全長約9m、全幅約6m、そして全高約4mという大きなものだ。しかしながら、何があっても落ちない万全の品質が必要とされ、要求される工作精度は誤差わずか3/1000インチ。たとえばボルト止めのために部材へ手作業で穴をあけるのだが、数メートルもある長い部材に寸分の狂いなく正確に開けられた位置の正確さはもちろん、エッジが鋭く残った精密なネジ穴の仕上がりは思わずため息が出るほどの美しさである。
穴をあけるためのドリルの刃先なども、この工場で開発されたものだという。


787の中央翼にはカーボンも使われていて、燃料の漏れを防ぐのと同時に静電気の発生による燃料の発火を防ぐために内部にはシーリングが施されるが「世界一美しいシーラー」とボーイング社から認定されているそうだ。
SUBARU Aircraft

大きな部品を作るのでありながら、まるで芸術品のような仕上がり。製造現場の見学ではそんな繊細かつ巧みな作業者の技に心を打たれた。
中央翼の生産は完全なトレーサビリティであり、誰が何を使ってどう製造したかはすべて記録に残る。「ひとりひとりが責任をもって制作するのはもちろん、作業者は自分の仕事が形になっていく喜びを感じられるのが航空機部品生産の現場」と同カンパニーのプレジデントである濱中康宏氏が言うのも頷ける。
現在、ボーイング社の次世代機に使われる中央翼の生産はすべてこの工場に任されている。あのボーイング社が認めた"ものづくり力"というのが富士重工宇宙航空カンパニーの技術力の高さを物語っている。
売り上げベースで考えると1528億円(2015年度)と富士重工業の連結売上高のわずか5%ほどに過ぎない航空宇宙産業だが、クルマとは異なるスバルの表情であると同時に中島飛行機のスピリットが脈々と受け継がれていることを深く実感した。
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