【試乗記】「他にはないリア・エンジンのハッチバック」 2014年型ルノー「トゥインゴ」
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すべてのものがそうであるように、クルマにおいても「あるかもしれないこと」と「ありそうなこと」の間には大きな隔たりがある。例えば、数年内に水素燃料を使う自動操縦の空飛ぶクルマが街を走り始めることは「あるかもしれない」。しかし当分の間、何世代も前からそうであったように、我々は内燃エンジンを搭載する4輪の乗り物に乗り、手をハンドルの10時と2時の位置に置いて運転している方が「ありそうなこと」だ。日頃我々が運転しているクルマのレイアウトについても同じことが言える。

自動車メーカーが彼らの好きな位置にエンジンを搭載することは「あるかもしれない」。キャビンの後ろにはエンジンが積めるだけの十分なスペースがある。しかし、それが実際に行われることは非常に珍しい。圧倒的に「ありそうなこと」は、あなたが次に購入するクルマも、あなたが通勤や買い物で使っていた前のクルマと同じように、エンジンはフロントに搭載されている可能性が高い。

だからこそ、ルノーの新型「トゥインゴ」には非常に興味をそそられる。フォルクスワーゲンフィアットのような競合他社は、かつてリア・エンジンだった自社のクルマを一般的なフロント・エンジンに変更して成功を収めたが、ルノーはトゥインゴのエンジンをこれまでのフロントから新型ではリアに移すという真逆の道を選んだのだ。リア・エンジンいとえばポルシェ「911」が思い浮かぶが、トゥインゴの方が、少なくとも欧州の顧客にとっては、はるかに入手しやすい。米国ではトゥインゴも含めルノーのクルマは販売されていないからだ。そこで、この旧くて新しいアプローチの採用が、トゥインゴにどのようなメリットをもたらしたのかを調べるために、筆者はフランス行きの便に乗り込んだ。




トゥインズィー」を除けば(あれはクルマというより明らかに4輪のスクーターに近い)、 トゥインゴはルノーのラインアップで最も小さなモデルだ。1993年に発売された初代は、愛嬌のあるデザインに一般的なFF(フロント・エンジン/フロント・ドライブ)レイアウトを採用し、3ドアのガラスは小さな車体に対して可能な限り大きく採られていた。1990年代後半には市場で25%ものシェアを獲得し、年間20万台を売り上げ(ポルシェの全車種を合計した年間販売台数を上回る)、セグメントを独占していたが、2006年には5万台にまで縮小してしまった。2007年に全て新しく生まれ変わった2代目が登場すると、2009年に販売台数は17万5,000台近くまで取り戻した。2011年にフェイスリフトが施されたが、シティカー市場での競争が激化し、近年ではトゥインゴの年間販売台数は10万台にまで落ち込んでいる。フィアットの「500」や「パンダ」、プジョー「108」シトロエン「C1」トヨタ「アイゴ」フォルクスワーゲン「up!」などのライバル車が競争の激しい市場で大きなシェアを占めるため、ルノーは何か急進的なことを行う必要があると感じた。 そこでダイムラーとパートナーを組み、新しいリア・エンジンのシティカーを共同で開発することになったのだ。こうして完成したのがダイムラーの新型スマート「フォーツー」と「フォーフォー」、そして今回ご紹介するルノーの3代目トゥインゴだ。

新型トゥインゴはパワートレインのレイアウトが最も目立つ特徴ではあるが、注目すべきはそのパッケー ジングだ。 映画『タッカー』を見たことのある人なら、リアにエンジンを設置すると荷室は必ずフロントに移す必要があると知っているだろう。しかし、ルノーはそれをいくつかの理由により無視した。まず1つ目の理由として、シャシーの扱いやすさを維持するため、エンジンを後ろに積んでも重量配分は最適化したかった。そこでルノーは45:55という前後重量配分を実現するため、フロントにラジエーターや液タンクのようなアイテムを詰め込んだのだ。もう1つの理由には歩行者衝突保護規制が関係している。フロントに広い収納スペースを確保しようとすれば、ボンネットが高くしなければならず、そうするとトゥインゴの優れた前方視界が損なわれてしまうことになる。また、フロントをエンジンとは関係ない機械類のために確保したことで、前輪の切れ角を45度まで拡大できる余裕が生まれた。これによってトゥインゴは、トヨタ「iQ」を上回るほど小回りが効く、街中では並外れて動きやすいクルマとなった。




フランスのナントで行われたプレゼンテーションで、ルノーのデザイン担当上級副社長取締役ローレン ス・ヴァン・デン・アッカー氏は、新型トゥインゴのレイアウトについて、これほど議論が持ち上がると分かっていたら、少なくとも小さなラゲッジルームをフロントに押し込んだだろうと述べた。しかし、実際にはそうしなかったので、トゥインゴの収納スペースは分割されることになった。エンジンの上に平らな荷物用フロア、後部座席の下にコンパートメントが設置され、運転席以外を除く全てのシートを折りたためば、身長が2mを超えるバスケットボール選手でも横になれるほど室内は十分なスペースが確保される。全長は3,620mmで、フィアット「500」(後部座席用ドアなし)と「パンダ」(後部座席用ドアあり)の中間に位置する。



この3代目には、トゥインゴで初となる後部座席用ドアが備わっているが、長さは先代の3ドア・モデルとそれほど変わらない。後部座席は2人掛けだが、ひじ周りに最大限のゆとりを持たせるために(そしてコストと重量を抑えるためにも)、ルノーは後部のサイド・ウインドウを上下巻き上げ式からポップアップ式(トヨタ「アイゴ」やフランスの従兄弟モデルと同様に)に変更する必要があった。全高を低めて全幅を広げるのではなく、全幅を狭めて全高を高くデザインしたのは、身体を起こしたドライビング・ポジションを提供しながら、空気抵抗係数を抑えるためだ。この形状であれば、近い将来フロア下に電動パワートレインを搭載することもできる。EV化はルノー(他のブランドよりも多くのEVを展開している)とダイムラー(「フォーツーed」が数少ないEVの1つ)の両社にって優先すべきことの1つなのだ。




トゥインゴの室内は質素だが、必要な機能は備えており安っぽさも感じない。プラスチックは触ってみると硬いが頑丈だ。用意されたオプションでコックピットを楽しい雰囲気にカスタマイズすることもできる。インテリアの装飾は高級な「iPhone 5s」というよりもカラフルな「iPhone 5c」といった感じで、エクステリアのサイズは、フルサイズのラジカセで埋め尽くされた道路の中に置かれた「iPod nano」のようだ。購入者は7インチのタッチスクリーン式インフォテインメントシステムを装備するか、それとも各自のスマートフォンをドッキングして使うか、どちらかを選べる。 ステアリング・ホイールとシートにもう少し調整機能が(そしてもっと多くの計器類も)欲しいところだが、筆者はフランスの大西洋岸を往復している間、オプションとして設定されているフランス風の布製サンルーフによる開放感を大いに楽しんだ。

試乗した感想を述べることにしよう。まず言っておきたいのは、新型トゥインゴがポルシェの廉価版のようなものかもしれないという先入観(あるいは期待)は、今すぐサンルーフから投げ捨てるべきということだ。 トゥインゴはお手軽な都市の移動手段であって、パフォーマンス重視のクルマではない。 そうは言っても、完璧に近い重量配分を持った小さな後輪駆動のハッチバックを運転するのは、一般的なノーズが重い前輪駆動車に慣れている人にとって、良い気分転換になる。ステアリングは軽く感じるが、ルノーはラックを重くするという良い仕事をしたので、 太いステアリング・ホイールを通して、十分な信頼感と直進安定性が伝わって来る。乗り心地は素晴らしい。パンダより上下の振動が少なく、安価なハッチバックとしては驚くほどスポーティな感覚だ。とはいえトゥインゴがエンスージアストよりも一般大衆向けであることは明らかだ。



トゥインゴは速度を落とす際にも何の問題も見せなかったが、減速に対する慣性はあまり働かない。後部座席の後ろに小さな3気筒のガソリン・エンジンが載っているからだ。エンジンは2種類が用意される。1.0リッターの排気量から最高出力71psと最大トルク9.3kgmを発生する自然吸気エンジンと、最高出力90ps、最大トルク13.8kgmを発揮する897ccのターボ付きエンジンだ。0-100km/h加速は前者が14.5秒で、後者は10.8秒。両方を乗り比べてみたらその違いがはっきりと感じられた。どちらも際立って「速い」とか「滑らか」と言えるわけではないが、車両重量が1,000kg前後に過ぎないので、エンジンに課せられる負担はそれほど大きくない。

いずれのエンジンにも節度のある5速マニュアル・トランスミッションと、6速デュアルクラッチ式トランスミッション「EDC」が組み合わされる。ルノーの担当者にしつこく尋ねた結果、さらにパワフルなバージョンを追加するかどうかはまだ決定していないと教えてくれた。先代トゥインゴには初めてルノー・スポール仕様が設定されたが、販売台数は少なく(これには多くの純粋主義者が気分を害した)、ルノーが再び同じ道を歩むことはなかった。これは少し残念だ。なぜならリア・エンジンのホットハッチが登場すれば非常に魅力的であり、ルノーだけがそれをやり通せる見込みがあるからだ。最終的にはよりスポーティなバージョンが登場するかもしれないが、それについて語るには時期尚早だろう。



日本版編集者追記:東京モーターショー2015に展示された新型トゥインゴは7月に日本導入が正式発表され、いよいよ9月15日に発売となる。現在ラインアップされている日本仕様は、自然吸気1.0リッター・エンジンに5速MTを組み合わせた「サンクS」(169万円)と、0.9リッターのターボ・エンジンと6速デュアルクラッチ式ATを搭載する「インテンス」(189万円)、それに米国版記者も気に入っていた電動布製サンルーフが装備された「インテンス キャンバストップ」(199万円)、エンジンは共通だけれどスポーティな外観と16インチにアップしたホイールを持つ「パックスポール」(199万円)の全4モデル。ただしサンクSとパックスポールは50台ずつの限定車であり、すでに予約注文のみで完売してしまったそうだ。ルノー・ジャポンによれば、5速MTモデルは2017年以降の導入を予定しているという。ターボ・エンジン+5速MTを希望するルノー・ファンも多いのではないかと思うのだが、これは今後「あるかもしれないこと」、いや「ありそうなこと」として期待しよう。


ルノー・ジャポン 公式サイト:トゥインゴ
http://www.renault.jp/car_lineup/twingo/




【試乗車の基本情報】
エンジン:898cc直列3気筒ターボ
最高出力90ps/最大トルク13.8kgm
トランスミッション:5速MT
0-100km/h加速:10.8秒
最高速度:165km/h
エンジン搭載位置:後部
駆動方式:後輪駆動
乗車定員:4名
荷室容量:975リッター(最大)
JC08モード燃費:21.7km/L(6速EDCの日本仕様)

By Noah Joseph
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
監修:日下部博一