Arch Motorcycle Company
 トム・クルーズ、ブラッド・ピット、ユアン・マクレガー、アーノルド・シュワルツネッガー、ジョージ・クルーニーなど、バイク愛好家として知られるハリウッドスターは多い。しかしその中でもキアヌ・リーブスは別格のエンスージアストだ。なぜなら彼は「理想のモーターサイクル」を追求するべくカスタムを施し、究極の一台を作り上げてしまったからだ。

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 もっともバイクのカスタマイズは誰もがやることで、とくに珍しいことではないし、ハリウッドスターならずとも世界中のバイク好きがやっている。しかし作り上げたカスタムバイクが「最高のバイク」だからといって、メーカーを立ち上げて市販化してしまったのはキアヌ・リーブスだけである。それが「アーチモーターサイクル」だ。

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 アーチモーターサイクルを取材することになったのはひょんなきっかけだった。アメリカ・コロラドで開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」の取材ついでにロサンゼルスに立ち寄ることになり、ロスで何かできることはないかと知人を頼ったところ紹介してもらえることになったのだ。

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 取材オーケーの返事をもらえたときは、スケジュールの都合でキアヌ・リーブスは同席できず、共同経営者でありビルダーであるガード・ホリンガーがインタビューに応じてくれるとのことだった。
 しかしいざ行ってみると、キアヌがひょいと現れ、「ちょっと走ってくる」と言い残すとバイクにまたがって走り去ってしまった。しかし10分くらいで戻ってくると、「ドゥーユードリンクワラー? ミズ?」と汗だくな顔に満面の笑みを浮かべて気さくに話しかけてきたばかりか、ボトル入りミネラルウォーターを持ってきてくれたのだ。そんな感じで、ハリウッドのトップスターへのインタビューというよりは、バイク好きが集まってバイクについて話をする、といった趣きでインタビューがはじまった。

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「ハーレーの05年式ダイナでタンデムツーリングを楽しめるよう、僕はシーシーバーをつけてほしかったんだ」
 アーチモーターサイクルが設立されたきっかけは、カスタムというにはあまりに簡単すぎる、そんな要望から始まったのだという。シーシーバーとはパッセンジャー(同乗者)が使う背もたれで、これがあるととくに加速時の安定性が高まるため、パッセンジャーにとっては落車の不安なくツーリングを楽しめる。タンデムツーリングをするなら必須装備ともいえるパーツだ。
 しかしキアヌの依頼を聞いたガードは「そんなつまらないことなら他を当たってくれ」と断った。そもそもガードは「L.A. カウンティ・チョップロッズ」というバイクカスタムショップを手がけるビルダーだから、パーツさえあれば誰でも装着できる仕事に興味などなかったのだ。

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「それならどんなカスタムなら作ってくれるんだ?」
と聞いたキアヌに、ガードは自分が作ったカスタムバイクを見せた。
「それを見て興味がわいて、僕のバイクがどんなふうにカスタムされて、変わっていくのかを見てみたくなったんだ。それで僕は、オーケー、それならロサンゼルスからサンフランシスコまで、パシフィック・コースト・ハイウェイを二人乗りで楽しく走れるバイクを作ってほしいと言ったんだ」

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 パシフィック・コースト・ハイウェイとは、その名のとおり太平洋沿岸を走るカリフォルニア州道1号線で、その略称からPCHと呼ばれる。アメリカ大陸らしさに溢れるストレート区間もあれば、断崖絶壁を縫って走るワインディングもあるし、急峻なアップダウンもある。ロサンゼルスとサンフランシスコを移動するだけならインターステート(高速道路)があるため、旅好きなドライバーやバイカーで賑わう観光ツーリングロードだ。

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「タンデムで楽しく走るだけなら、すばらしいバイクはいくらでもある。でもそれだけじゃダメなんだ。僕は"走るだけのバイク"と"美しいバイク"をセパレートしたくない。どんなに楽しく走れるバイクでも格好悪ければダメだし、いくら格好よくても楽しく走れないバイクはやっぱりダメ。美しいカタチをした楽しく走れるバイクが理想なんだ」

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 ファンライドとエレガント。この両立は難しい。なぜならどちらも主観が左右するから、なおのこと市販車としては成立しにくい。だからこそ世界中のバイク乗りは愛車をカスタマイズするのだが、完成までに4万キロ以上もの距離をテストライドするオーナーはまずいない。さらにいえば、キアヌ・リーブスが発注した「自分のためのカスタムバイク」が完成するまでに4年もの年月をかけている。

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「完成したバイクを見たとき、これに乗れるのは僕だけなんてもったいないことだと思ったんだ。こんなにすばらしいバイクはもっと多くの人に乗ってもらいたいし、味わってもらいたい。そう思ったから、ガードにそう伝えた。でも彼は、またそんな無茶をいうと笑ってたから、僕はこう言ったんだ。僕たちは好きなことをやりながらこうして生きている。でもいつかは死ぬし、それがいつかもわからない。だからこそ生きている今、好きなことをしなくちゃいけない、とね」

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 キアヌの言葉を聞いたガードはそれ以上彼に質問するのをやめ、市販化を決めたそうだ。しかしワンオフパーツを多用した世界に一台しか存在しないバイクをそのまま量産することはできない。セッティングやパーツの質と性能を含め、全面的な見直しが行われた。

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「フロントタイヤサイズ以外はすべて見直したから、どこで苦労したかと聞かれたら答えは"全部"だ(笑)。最初に描いたスケッチと比べるとスタイルもディテールもずいぶんと違うものになったけど、大排気量Vツインエンジンのパワーを高性能サスペンションで軽快に走らすことができて、長いホイールベースを持つ美しいフォルム、というコンセプトは変わっていない」
 そのようにして、「キアヌのカスタムバイク」は、それが完成した段階で市販に向けたプロトタイプとなった。それから3年を費やした末に市販車となる「KRGT-1」が完成した。

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「僕たちが作ったバイクをツイスティロードに持ち込んでも、スーパースポーツのように速いわけではないし、BMW-GSのようにラクチンなわけでもない。でも、こうやってスッとバイクをリーンさせてギュギュギューとコーナーを曲がっていって、ブワっとスロットルをひねると、ぶっといトルクに背中を蹴飛ばされたみたいにドォドドドーって加速していく。その瞬間ひとつひとつが楽しいし、魂を震わされるんだ」

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 バイクのことを話しはじめると、キアヌの言葉には擬音が増える。そして上半身を屈めるように身構えて、両腕はハンドルを握るように前へと突き出す。スロットルを捻るように右手を動かし、クラッチを切るように左手を握る。左足でギアをチェンジするし、右足でブレーキも踏む。すっと腰を落としてリーンインでコーナーを曲がっていく...。彼はソファに腰かけてインタビューに応じているのだが、彼の表情と体の動きを見ているとまるでKRGT-1の車体が見えてくるようだった。さすがは超一流の俳優だと思ってしまうが、それは演技であって演技ではなかった。バイクに対する情熱のあまり、思わず体が動いてしまう無意識の行動に見えた。それが錯覚や思い込みでないことは、キアヌのこんな言葉に裏打ちされている。

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「ふたつの車輪を持つ乗り物を走らせるという行為は、僕にとって肉体的でもあり精神的でもあるんだ。バイクをコントロールしていてすべてが手の内にある感覚は楽しいし、物理的な移動をするというだけじゃなく、魂を一緒にどこかへ連れていってくれるんだ。バイクに乗っていないと僕自身が消えてしまう」
 
モーターサイクルという単語をあえて使わないその話しぶりは、どこか哲学的でもある。キアヌにとって、バイクは便利な道具や楽しい乗り物というだけではなく、人生と切り離せない存在なのだろう。

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 KRGT-1は、S&S製2032ccVツインエンジンを中心に、独自設計のスチール製ダブルクレードルフレームと削り出しアルミ製スイングアーム、オーリンズ製サスペンション、ISR製ブレーキシステム、BST製カーボンホイールという高性能パーツを用いることで、アメリカらしいクルーザースタイルながらもスポーツ性を持つマシンに仕上げられている。毎年11月にイタリア・ミラノで開催されるショーに向けて、さらにスポーツ性を高めたモデル「KRGT-1S」を開発中だという。

「KRGT-1を作り上げたことで、ひとつの夢が叶った。バイクに乗ることはもちろん楽しいけど、この夢を継続させていくために皆でがんばっていくことも楽しい」

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2015年の鈴鹿8耐にゲストとして招かれたキアヌは、憧れの鈴鹿サーキットをKRGT-1で走った。
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 開発中のKRGT-1Sが完成したそのときには、ぜひまた鈴鹿でその姿を見せてもらいたい。

アーチモーターサイクルのストーリー

ARCH "The Story" from arch motorcycle company on Vimeo.

■アーチモーターサイクル・カンパニー公式サイト
http://www.archmotorcycle.com/