アメリカン・ラグジュアリーのソフトな一面を感じさせる、キャデラック「エスカーラ コンセプト」
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キャデラックが度肝を抜くような新しいコンセプト・モデルを引っ提げてモントレー・カー・ウィーク・に登場するという発表を聞いたとき、すっかり頭に血が上ってしまった。それは「CT6」 のクーペか? それとも「Vシリーズ」の新型? あるいは、思わず見とれてしまう「エルミラージ コンセプト」の後継だろうか?

19日(現地時間)夜、待ちわびた自動車愛好家達の祭典が始まる週末のはじめに、キャデラックは前述のどれでもない、4ドアクーペの「エスカーラ コンセプト」を公開した。のっぺりした白いボードの前ではなく、丘陵に建つ未来的だがモダンな邸宅に置かれたこのコンセプトカーは、キャデラックのヨハン・デ・ナイシェン社長によって、ブランドの「転換点」を担うクルマであると紹介された。

勘が鋭い人なら「エスカーラ」と「エスカレード」がよく似た名前であることを指摘するだろうが、両車の類似点はそれだけだ。デ・ナイシェン社長は「キャデラック・ブランドをプレミアム・セグメントの頂点に返り咲かせる」ことがエスカーラの使命であると語り、「それ以外あり得ない」と力説する。



エスカーラは、最近発表された多くのキャデラック車とは異なり、ゴツくもなければハデでもない。離れて見ると、ワイドで筋肉質のボディが仕立ての良いスーツをまとっているようだ。至近距離では、まるで4ドアになった「カマロ」のようにも感じられることから、これは恐らく、以前はゼネラルモーターズ(GM)傘下のホールデンでデザインチーフを務め、GMの新デザインリーダーに就任したマイケル・シムコー氏が手がけた仕事が評価されているということだろう。デ・ナイシェン社長はエスカーラ・プロジェクトについて、「デザイナーにとってクリエイティブな手腕を発揮する機会」と説明した。エスカーラのスタイルはメルセデス・ベンツ「CLSクラス」との近似性を感じさせるが、それと同時にもっとワイドで小さいようにも思える。



では、このスタイルは独自性に欠けるということだろうか? そうかもしれない。だが、それは未来のキャデラックは匿名性が強まるということを表しているわけではなく、むしろ同ブランドにとってすぐさまアイコンとなり得るディテールを披露するチャンスであると捉えているのだろう。エスカーラの形状は、あっと驚くほど他とは違うものではないかもしれないが、真実はそのディテールの中に存在する。

サイド・ミラーはデザイナーが掛ける眼鏡のように薄く、Cピラーには最新型キャデラックに見られる"ホフマイスター・キンク"(かつてBMWでこのデザインを描いたヴィルヘルム・ホフマイスターに由来してこう呼ばれる)を取り入れていることが分かる。そして、ガラスルーフは視覚的な空間の広がりを感じさせる。サイドドアの下には、このエスカーラを作り上げたデザイナーたちに敬意を表すために、シンプルな「GM DESIGN」のバッジが添えられている。



このコンセプトカーで最も目を引く要素は灯火類の使い方だ。決して目立つ形状をしているわけではないのだが、それに注目すると独特の雰囲気が感じられる。LEDテールライトはサイドまで深く回り込んでおり、ボディの見た目に奥行きを与えている。ここがキャデラックのデザイナーたちの最も重要視していたポイントだ。コントラストと美しさを同時に生み出している。調和のとれた赤い閃光を放つ両側のラインには、ブラッシュド・アルミニウムとガラス、プラスチックの3つの素材が組み合わされており、実に魅力的だ。

エクステリア・デザインのシンプルさは、ミッドセンチュリー・モダニズムを標榜するインテリアを反映したものだ。おそらく、まずは曲線的なOLED式スクリーンに目を奪われるだろうが、布とレザーを組み合わせたシートやダッシュボードこそが本当に注目すべき点である。ここには快適性と高級感が兼ね備えられている。そしてインテリアに貼られた木目のトリムは、キャデラックのエンブレムである「月桂冠と紋章」に倣っているそうだ。



少しだけ明らかにされたパワートレインにも、キャデラックの新時代が見て取れる。気筒休止機能を搭載した4.2リッターV8ツインターボ・エンジンは、今後、キャデラックの市販車に搭載されるパワートレインのヒントを感じさせるものだ。また、V8ツインターボが「CT6」にいつの日か搭載されるということを暗示しているのかもしれない。この夜、涼やかな気候のなかで熱心にプレゼンをしたデ・ナイシェン社長によると、V8エンジンは「この性能のクルマには絶対に搭載する価値のあるもの」だという。

キャデラックが高級車ブランドとしての地位を再び築き上げようとする新戦略の中で、エスカーラが即戦力として導入されることは期待できないが、まったく新しい一面を垣間見ることはできた。ラグジュアリーの概念を変えるという心意気、そして、キャデラックがデザイン・フィロソフィーとして掲げる「アート&サイエンス」から、アートへと転換する予兆として受け止めておこう。こういったモデルをさらに期待したいものだ。


By Jeff Jablansky
翻訳:日本映像翻訳アカデミー