HONDA NSX
 それまでの、速いけれど扱いにくく、快適性も二の次というスポーツカーの常識を覆し、高性能を誰もが引き出しやすく、快適で実用性もあるという新しいスポーツカーの姿を提起した初代NSXの登場から、はや四半世紀。遂にローンチされた新しいNSXも、その思想を継承したと謳われている。すなわちハイパフォーマンスを誰もが容易に引き出し、楽しむことのできるスポーツカーとして、この世に生を受けたというわけである。

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 但し、それを具現化するための筋道は、完全に異なっていると言っていい。初代NSXがV型6気筒自然吸気エンジンを使ったミッドシップ後輪駆動レイアウトを採っていたのに対して、新型のそれは、同様にミッドマウントされたV型6気筒ターボエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドパワートレインで後輪を駆動し、加えて前輪を左右独立の2基の電気モーターで駆動する"スポーツハイブリッド・スーパーハンドリングAWD"を採用する。ボディがアルミ製とされることこそ共通だが、初代がモノコックだったのに対して、新型はスペースフレームと、構造はやはり完全に異なっている。

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 更に言えば、新型NSXが日本ではなく、アメリカはオハイオに開設されたPMC(パフォーマンス・マニュファクチャリング・センター)にて生産されるのも、初代との大きな、非常に大きな違いだ。

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ここでは熟練の職人がボディ/フレームの溶接、ペイント、そして組み立てに検査までを行なっている。エンジンは近隣のアンナ工場にて、やはりマイスタービルダーによって組み上げられ、浜松工場から送られてきたギアボックスと組み合わされる。

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 この工場、とりわけ印象的なのは、組み立て工程にベルトコンベアが無く、すべて手押しで、車体の移動が行なわれていることだ。今どきのスーパースポーツカーの工場では、きわめて異例と言える。但し、単にアナログなわけではない。ボルトの締め付けトルク等々のデータはすべてネットワークで管理されており、手元のトルクレンチに伝わる振動で、職人は間違いのない組み立てが可能になる。

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 完成車品質チェックも徹底している。生産品質だけではなく、車高やブレーキ踏力、コーナーウェイトにアライメントなども測定、調整され、即座にサーキットで全開にできる状態でラインオフされるのだ。
 アメリカ生産であることを危惧する声は、世界でもきっと少なくないだろう。ここまでの品質管理の徹底ぶりは、ホンダもそれはよく理解しているからこその話である。

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 そろそろ試乗といこう。今回ステアリングを握った新型アキュラNSX、内外装のデザインにもかつての面影は無い。しかしながら運転席に乗り込むと、低めのドライビングポジション、そして開けた視界にNSXらしさを感じて嬉しくなる。但し、小物の置き場がほとんどなく、脱着式のカップホルダーは使えば助手席の邪魔になり、バニティミラーも備わらないなど、使い勝手には疑問に残る部分も少なくない。スポーツカーだからこそ、スマートに乗りたいものなのに。

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 ともあれ走り出すことにする。走行モードの切換えを可能にしたIDS(Integrated Dynamics System)は、サイレント/スポーツ/スポーツ+/トラックの各モードから、通常時用のスポーツを選ぶ。

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 まず好印象なのがパワートレインのフィーリングだ。細かなアクセルワークに即応するレスポンスの良さはターボらしからぬという印象だし、トップエンドに向かっての回転上昇の速さ、サウンド含めた伸び感も申し分無く、思わずアクセルペダルを踏み込む右足に力が入る。ターボのネガを電気モーターがうまく打ち消してもいるのだろう。一方で、570psというスペックほどの刺激性は感じられないのも事実なのだが、とにかく軽快でスムーズなパワートレインであることは間違いない。

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 9速DCTの躾もバッチリ。まったくショックを感じさせることなくスパッと瞬間の変速を可能にしている。シフトパドルも用意されているが、速さを求めるならばオーバーレヴの心配の無いDレンジの方が確実だ。

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 尚、サイレントモードでは可能な限り、電気モーターだけでの走行が行なわれる。市街地などでは静かでクリーンなのが嬉しいし、加速感にも不足はない。こうなると、なぜPHVにしてくれなかったのかと思ってしまうが......。

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 ではフットワークはどうかと言えば、ボディ剛性がきわめて高いおかげで、走っていて動きに軽やかさがあり、乗り心地も上々。快適性は高い。しかしながらIDSをスポーツ+にセットして臨んだワインディングロードでは、不満が頭をもたげてくることになった。ステアリングフィールは決定的に足りないのだ。

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 2基の電気モーターによるトルクベクタリングで生じるステアリング反力の違和感を消すために、フロントサスペンションをダブルジョイント式のダブルウィッシュボーン式としたことや、ネガティブスクラブを採用したことなどの影響だろう。切り込んでも、まるでゲーム機のそれのように手応えに変化が無く、タイヤや路面の状況を掌で感じるのが難しい。

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 もっともトルクベクタリング自体の効果は明らかで、操舵した瞬間からヨーが立ち上がるようなシャープなターンインを味わえる。それよりも、挙動をすべて視界で判断しなければならないこともあり、どうにも一体感に乏しいのが問題だ。

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 それでも、アクセルを入れればイン側に引っ張り込んでくれると信じられれば、進入速度はどんどん上がっていくし、うまくターンインしていければ、あとは自分を中心に向きが変わっていくような旋回感、アクセルオンでのリアから蹴り出していくような感覚というミッドシップらしい切れ味を堪能できる。動きに不満はない。あくまでフィーリングの問題だけである。

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 サーキットでも基本的に同じような感覚だった。実は開発にも関わったという佐藤琢磨選手の運転する横にも乗り、とにかくスムーズな運転がキモだということは解ったのだが、レーシングドライバーではない我々は、動きを探りながら適度に足りなかったり行き過ぎたりを繰り返しつつ、おいしい領域を見つけていくのが楽しみでもある。ところが、それを指摘したところ、開発責任者のテッド・クラウスが「掌で得られるフィールが必要なのか?」と返してきたのには、正直なところ驚いてしまった...。

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 初代NSXのほぼ倍、最高出力570psというハイパフォーマンスを、大きなストレス無く引き出すことができるという意味では、確かに新型NSX、その名を引き継ぐ者としての資質を備えているようにも思える。確かに、走りの手応え、クルマからのフィードバックや対話性という意味では不満が残るが、一方で確かに、570psものパワーをもったミッドシップスポーツカーで、これだけ思い切り踏んでいけて、また容易に曲げていけるクルマが、そうそうあるわけではない。

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 更に言えば、半端無く手のかかった生産工程を見ると、日本円で2千万円近くにもなろうかという価格だって決して高くはないと感じられる。強豪ひしめく中で「買い」の要素は十分にある。

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 それだけに、すでにアメリカではデリバリーが始まっているのは承知で、ホンダNSXとしての日本上陸までの最後の煮詰めで、走りの質や手応えがどれだけ磨かれるかには期待したい。せっかくの伝統の名の復活である。目の肥えたユーザー達に響く1台として世に出てほしいと望むばかりだ。

■ホンダ 公式サイト
http://www.honda.co.jp