PORSCHE 718 Boxster
前回はポルシェによる技術説明と同乗試乗のみに留まった「718ボクスター」に、とうとうポルトガルはエストリルの近郊で試乗することができた。飛行機を乗り継ぎ、片道半日以上を費やしてたどり着いたヨーロッパの最西端で、オープンロードからワインディング、そしてアーミーエアポートでの各種テストを行なったレポートをみなさんにお届けしよう。

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さていきなりだが、この718ボクスターについては、日本から試乗へ赴いた数名のジャーナリストの間でも、意見がまっぷたつに分かれている(だから市場でも反応は同じになるだろう)。その理由はいわずもがな、自然吸気の水平対向6気筒を、水平対向4気筒ターボ化したことによるものだ。

PORSCHE 718 Boxster
前回の寄稿を再読して頂ければ詳細はわかるが、そのラインナップは、ベーシックモデルであるボクスターが1988ccの排気量から300ps/380Nm、その高性能版であるボクスターSが2497ccの排気量から350ps/420Nmを発揮する。

PORSCHE 718 Boxster S
その発生回転数が最高出力は7500rpm、最大トルクは6500rpmと両者共通なのは、このエンジンが管理されたモジュラーユニットだからだろう。ちなみにそのボア×ストローク値はボクスターがφ91mm×76.4mmで兄貴分の911とまったく同じ。つまりボクスターは、911カレラ/911カレラSのエンジンを4気筒分にしたエンジンを搭載しているのである。
またボクスターSのボアはφ102mmで(ストロークは76.4mm)、スポーツポルシェとしては一番のビッグボアとなる。

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このように、つぶさに見ると新型ボクスターの新しい4気筒は、かなりの高性能なエンジンであることがわかる。にも関わらずマニアがこれにしかめっ面を決め込むのには、少なくともふたつの理由が挙げられるだろう。
ひとつはポルシェのアイコンであるボクサー6が"ヨンパツへと格下げされた"ように感じること。もうひとつは、その独特な"サウンド"である。

PORSCHE 718 Boxster
だが、たとえ"ヨンパツ"になろうとも、ボクスターまったく格下げなどされない。
なぜならボクスターは、そのエンジンフードを開けるのにも一苦労するクルマだからである。オイルの継ぎ足しさえ、トランクルームの給油口から行う。オーナーになっても一度もその水平対向ユニットを拝まむことなくそのライフを終える人が、実はほとんどだろう。
だからビジュアル面で"ヨンパツ"を意識することなど、ーーーーーこれが良いのことなのかどうかはわからないがーーーーまったくないのである。

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ではその性能からヨンパツのネガティブを意識できるかといえば、これは後述するが、むしろ過去最高の性能を発揮してしまっている。

PORSCHE 718 Boxster S
だとすれば問題は、そのサウンドだ。
そしてこれについては、好みがハッキリと分かれると筆者も思う。
ちなみに4気筒化された水平対向エンジンが、これまでとは違うサウンドになった理由は、その排気系を「等長排気」にできなかったことが直接の原因だ。
このエンジンは片バンクごとに爆発行程を行っているため、これをエキマニでつないで最後に両バンクの排気を集合させると、どうしても排気干渉が起きてしまう。
するとかつてのスバルのような......もっといえば、空冷時代の911のような、ボロボロとしたボクサーサウンドになってしまうのである。
ちなみに同じ水平対向4気筒ターボを採用するスバルは、現在はこのボクサーサウンドを消音している。前後ではなく左右の排気管を最初につなぎ、それを集合させることで等長排気にしているのだ。

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ではなぜボクスターがこれを実現できなかったのかといえば、エンジンコンパートメントにゆとりがなかったからである。2気筒分少なくなったスペースはタービンと触媒が占有し、排気管の自由度が得られなかったのだ。
ただポルシェにしてみれば、ウェストゲートバルブの緻密な制御や、ターボラグを減らす「プレコンディショニング」(スポーツ/スポーツプラス時)および「ダイナミックブースト機能」によって、この排気干渉による性能低下は十分以上に補えている、と自負していた。

PORSCHE 718 Boxster S
確かに文句をつける部分があるとすれば、ボクスターに搭載される2.0ターボの低速トルクぐらいなものだった。ターボ用に低圧縮化(圧縮比は9.5)されたエンジンは、過給圧がかからないアイドリング付近の極低回転域で発進加速が得にくかった。6速MTでは筆者をはじめほとんどのジャーナリストがエンストを体験したし(その瞬間にクラッチを踏み込めば、アイドリングストップ機能が再びエンジンを始動してくれるが)、エンストの心配がない7速PDKでも、発進加速に鈍さが見られた。

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だが走り出してしまえば、こうした問題はそれこそ"空の彼方"へと飛んで行く。
過給さえ掛かってしまえば瞬時に最大トルクを得られるその出力特性から、極めて快適なクルージング性能が得られるのである。ボクスター/ボクスターSに限らずその運転は自然とポンポンとギアを上げて行くショートシフトになり、速度は高まりながらもエンジン回転は低いまま保たれる。だから高速走行時は極めてエンジンサウンドも静かであり、幌を閉じていればロードノイズの方が大きいくらいだった。

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そしていざアクセルを床まで踏み込めば、自然吸気時代には得られなかった瞬発的な加速が得られ、これがトップエンドまできっちり持続する。
そのときに聞こえるボクサーサウンドは、前述した通りちょっと荒々しく、これがまた一興だと筆者は感じた。まるで空冷時代に"先祖返り"したかのような鼓動には、ちょっとしたカタルシスさえもが感じられた。ただし、オプション装着されるスポーツエキゾーストは、そのサウンドを誇張し過ぎていると感じたけれど。

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そして何より、こうしたエンジンの性能アップによって、ボクスターはシャシーの能力が先代モデルよりも数段スタビリティを増した。これこそがターボ化による最大のメリットだと筆者は考えている。

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とくに横方向へ部材を追加されたリア・サブフレームの剛性アップは、ボクスターの弱点であったリアサスペンションの接地性を大幅に向上させていた。ご存じの通りボクスターはリアサスペンションをストラット形式としており、ここに横力が加わると、ときおりナーバスな挙動を見せていた。
しかしシャシーの変形が少なくなったせいか、そのリアサスペンションは実にスムーズにストロークするようになった。またこれによって1/2インチ幅を広げられたリアホイールを履きこなせるようになり、そのコーナリングスピードやスタビリティは格段に向上した。

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ポルトガルのアーミーエアポートに設置さたパイロンスラロームでは、その鋭いノーズの入りに対してリアがガッチリと追従する様を体感できた。

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また時速100km/hから障害物をよけ、これを切り返し、再び元のレーンに戻る緊急回避のレーンチェンジテストでも、ボクスター/ボクスターSのリアタイヤは路面を捕らえ続け、仮にそれが若干のスライドを許したときでも、PSM(ポルシェ・スタビリティ・マネージメントシステム)がそのヨーモーメントを素早く収束させてくれた。

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だからボクスターをワインディングに連れ出せば、それはもう素晴らしく気持ちよい走りが堪能できた。
先代モデルよりも小径になったステアリング。10%早められたステアリングのギア比。こうした先鋭化に対してシャシーがきっちりと追従するから、安心してそのクイックネスを楽しめるのである。

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またスポーツクロノパッケージを選ぶことでPSMには「スポーツ」モードが追加され、リアタイヤのスライドに対する許容値が広げられた。これを積極的に活用すれば、最後の最後に安全を担保しながらも、理想的な走りが堪能できる。また完全にこれをオフにすることもできるようになった。
今回はこれを存分に楽しむステージは用意されなかったが、ワインディングでもその片鱗をつかむことはできた。


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つまり今回のポテンシャルアップによって、ボクスターはより本格的なスポーツカーへと進化したといえる。もはや悩むべきはそのサウンドへの固執よりも、ボクスターを買うべきか、ボクスターSにするべきかなのではないか? はたまた6MTにするべきか、7速PDKなのか? ということだと筆者は思う。

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個人的な感想としては、よりしなやかなサスペンション剛性を持つボクスターの方が、普段の行動を密にするにはちょうどよいバランス感覚を持っていると思う。しかしひとたびボクスターSのアクセルを踏み込めば、その性能差にうっとりしてしまうのも事実。

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オプションで20インチにもなるリアタイヤを履きこなし、可変ジオメトリーターボ(VGT)の全域レスポンスで脱兎のごとく駆け抜けるボクスターS。その最高速は、飛行場の1.5kmに及ぶストレートで、ゼロ発進から243km/hをマークした。ちなみにボクスターも235km/hとこれに肉薄しているが、最高速への到達スピードはボクスターSに軍配が上がる。つまり中間加速の鋭さが、509ccの排気量差やVGTの有無に現れているのである。
またアクセルをオフしたときに聞こえる、パンッ! パンッ! ヴァララ...と弾けるアンチラグサウンド(ダイナミックブースト機能によるものだ)も、ボクスターSの方がより声高で魅力的だ。

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6MTか7速PDKかについては完全に好みといえるが、筆者は7速PDKを推す。
確かに6MTにはクルマを操る呼吸感やダイレクト感があり、オープンカーであるボクスターをスピードに捕らわれず楽しむのにはよい選択だと言える。ステアリングに備え付けられたダイヤルを「スポーツ」以上にすれば、ヒール&トゥを行う際にもオートブリッパーがこれを補助してくれるから、古式ゆかしいスポーツカー乗りとしてのしきたりを、ミスなくイージーに楽しむこともできる。

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しかしこの先進的なシャシーとエンジンをしゃぶりつくすなら、PDKの変速レスポンスは外し難い。途切れない加速感、素早いダウンシフト。いざとなれば左足ブレーキとの連携もしやすく、ステアリング操作に集中しながらボクスターをトコトン走らせることができる。もはやトランスミッションは、エンジンの性能さえも左右する重要なパーツなのだ。

PORSCHE 718 Boxster S
ボクスターが4気筒ターボ化されたのは、ポルシェの都合だ。企業的にCO2排出量を減らしてメインマーケットである北米でのペナルティを減らすための、苦肉の策以外の何者でもない。
しかしこの不可避を開発陣は、みごとに技術で乗り越えたと筆者は思う。そもそもポルシェはエンジンの官能性ではなく、シャシー性能の高さで勝負をしてきたメーカーだ。そして今回のユニットも、ポルシェを名乗るに相応しい性能とレスポンスを備え、そのシャシーの一部として立派に機能していた。

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もし新型ボクスターに乗ってそのサウンドばかりに気持ちを捕らわれてしまうとすれば、それはボクスターがもたらす走りの方に、耳を傾けていないからだと思う。
その完成度は間違いなく歴代随一であり、その質感の高さは入門編の域を超えた。
そしてこの気持ち良さは、速度の速い遅いに支配されない。本当に走りが好きなヤツなら、この素晴らしさをわかってくれると筆者は思うのだが。
先進性よりもノスタルジーに意見が支配されがちなのは、ボクスターが速くなりすぎたせいなのかもしれない。




■ポルシェ 公式サイト