ホンダが、米国のゴーストタウンで自動運転車の走行試験を行う理由とは?
米国カリフォルニア州サンフランシスコ郊外コンコードにあるゴーストタウン、ここにホンダの謎めいた研究施設がある。雑草が生い茂り、建物は荒廃し、道路はひび割れ、道路標識は少し傾いているこの5エーカー(約2万平方メートル)の敷地は、かつてコンコード海軍武器基地として使用され、軍事関係者とその家族が暮らしていた。今では、リスやノウサギ、野生のシチメンチョウが暮らしているが、そこでホンダが自動運転車の走行テストを行っているのだ。

「ゴーメンタム・ステーション」(GoMentum Station)と呼ばれているこの旧海軍基地内にある"町"は、ホンダが自動運転車の走行テストを行うのにまさにうってつけの場所であり、もはや都会で自動運転車の走行が許可される場所を見つける必要はないだろう。のべ20マイル(約32.2km)に及ぶ様々なタイプの道路、そして交差点やインフラ設備などは、人が居ないだけで普通の町と変わらない。ただ、消えかけた区画線やアスファルトのひび割れは、自動運転車が状況を判断するのに初めは困難が生じるかもしれない。しかし、実はこれが自動運転システムの精度を上げるために必要なのだ。



実社会の道路は維持管理が不可欠だが、自動運転車が市販化されたからと言って、道路にできた穴や消えかけた区画線を修復する資金がどこからともなく湧き出るようになる訳ではない。将来、ロボットカーが我々の通勤時のストレスを軽減するようになった時にも、それを念頭に置く必要があるのだ。加えて、自動運転車に時速80マイル(約129km/h)で高速道路を疾走させるよりも、街中で走行を訓練する方が難しいのである。自動運転車を開発する企業としては、できる限り多くのテスト走行を実施したいはずだ。

全てのクルマが同じ方向に一定の速度で進行する高速道路を走行できる半自動運転車はすでに現実のものになっているが、都市環境でクルマを走行させるのは、それよりもはるかに複雑である。ロサンゼルスやサンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴ、シアトルなどの都会で運転したことのある人なら、ハイウェイを走行するよりも繁華街を運転する方がずっと集中力が必要なことをご存じだろう。

それらを踏まえると、この自動運転技術が満載されたホンダのアキュラ「RLX」は、(かなり管理された環境下ではあったが)ハンズフリーデモを上手くやってのけたと言えるだろう。テスト走行を車載カメラで撮影したビデオでは、道路を横断する歩行者2人の"どちらも"はねなかったし、「一時停止」の標識ではきちんと停まり、道路の真ん中に置かれたマネキンに出くわしても、うまく回避していた。

しかし実のところ、自動運転車とは言え単にクルマが近所を1周したり、安全に障害物を避けるのを見るのは退屈である。すでにGoogleが公道で自動運転車を走らせていることは皆さんご存知だろう。誰かがクルマの前に飛び出してみたらどうか、とジョークを言う人もいるが、ホンダは当然ながらそのアイデアに乗り気ではないようだ。

ホンダが、米国のゴーストタウンで自動運転車の走行試験を行う理由とは?

だが、自動運転車にとって、何も起こらないというのは良いことである。見ていて退屈ということは、安全に走行している証なのだ。確かにこのアキュラが走行する様子は、過度に慎重な教習所の教官が衝突の避け方を教えているのを見ているようだが、このクルマの操作には人間が関わっていないということを思い出していただきたい。クルマに搭載されたセンサーやカメラ、GPU、歩行者と衝突せずに走り続けるために開発された技術は、実は物凄いものなのである。

米国ホンダの研究・開発機関、ホンダR&Dアメリカズでチーフ・エンジニアを務めるジム・ケラー氏は、同社が将来もこの施設を使用していくと語っている。使用するにあたっては、この"町"の維持管理が条件となっており、ゆくゆくはホンダが道路の白線を引き直し、新たな標識も増やすことになるだろう。欧州や日本の公道における運転状況も再現される予定だ。同社は2020年をめどに自動運転車の実用化を目指しているので、今は雑草がはびこる風変わりなこの町も、やがてテスト走行中のクルマで賑わう小さな都会へと変貌を遂げることだろう。まだリスたちには内緒にしておいた方がいいかもしれない。



注:この記事は米国版『Engadget』に掲載されたRoberto Baldwin記者による記事を転載したもの。

By Engadget
翻訳:日本映像翻訳アカデミー