2014年末に発表された8代目スズキ「アルト」は、驚異的な軽量構造とクリーンなボディ・スタイルで大きな注目を集めた。そのとき既にターボ・エンジンを積む「ターボRS」の追加が予告され、さらに3ペダルのマニュアル・トランスミッションと共に往年のマイクロホットハッチの名前を復活させた「ワークス」の誕生で、筆者をはじめとする庶民派クルマ好きの関心はさらに高まった。Autoblog Japanではその前輪駆動モデルを筑波サーキットに持ち込み、スーパー耐久シリーズなどで活躍するレーシング・ドライバーの菊地 靖選手に試乗をお願いした。

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昨年惜しまれつつ生産終了した三菱の名車「ランサーエボリューションX」でレースを戦う菊地選手だが、この日はモータースポーツやサーキット走行をサポートする東京都足立区のショップ「ディーランゲージ」が筑波サーキットで主催している走行会「走郎」に、インストラクターとして参加。そこに押しかけて事前の打ち合わせもなく、いきなり「軽自動車に乗ってください」と頼んだわけだが、菊地選手は笑顔で応えてくださった。




軽乗用車アルトをベースにスポーツ・モデルとして仕立てられたアルト ワークスは、規定された660cc(正確には658cc)の排気量から、これも規制された最高出力64ps/6,000rpmと、ターボRSからさらに向上した最大トルク10.2kgm/3,000rpmを発生する直列3気筒「R06A」型ツインカム・ターボを搭載。加えてショート・ストロークが気持ち良い5速マニュアル・トランスミッションと、KYB製ショックアブソーバーを採用した専用チューンのサスペンション、そして165/55R15サイズのブリヂストン「ポテンザRE 050A」タイヤを装備する。さらに注目すべきは、前輪駆動モデルなら670kgというその軽い車両重量だ。今回の企画のためにスズキから広報車をお借りした記者も、クラッチを繋いでハンドルを切りながら路上に出た瞬間に思わず笑みがこぼれた。とはいえ、もちろん軽さから生じる不安感のようなものは特になく、高速道路でも軽自動車らしからぬ余裕を持った気分でドライブできる。しかも、スズキに返却するときにインパネの平均燃費計は20km/Lを楽に超えていた。そして価格は手頃な150万9,840円。

そんなアルト ワークスをサーキットで走らせ、菊地選手はどのように感じたのだろうか?



今日はアルトワークスに乗ってほしいといきなりお願いしたわけですが、そのときはどう思われました?

「現代の軽自動車で"ワークス"が復活して、しかもマニュアル(トランスミッション)ということで、自分の中ではすごく興味のあるクルマでした」

実際に乗られてみて、第一印象はいかがでしたか?

「まず加速感が想像よりもあって。例えば2速でコースインしたときとか、下からしっかりパワーが出て、上まできれいに回転が上がっていく。そのときちょっとホイールスピンするほどのパワー感があったので、"ああ、しっかり(パワーが)あるな"と感じました」





他のクルマと比較するといかがでしょう? まあ、あのクルマには直接ライバルになるモデルはありませんが...。

「そうですね、軽自動車というよりはもう少し上のクラスのクルマと感じが似ているような。だけどやっぱりターボなので、瞬発力というのがすごくあるし、"あれっ?"ってびっくりしました、良い意味で(笑)」

例えばタイヤやブレーキを替えれば、かなりラップタイムが上がりそうな感じはありますか?

「そりゃもう、全然ありますね。色々な材料があるんで。今日乗ったのはほんとに"どノーマル"なので、タイヤもそうですし、ブレーキ、あと一番はデフですね。その辺をカスタマイズしていったら、どんどん速くなるし、そういう意味では本当に良い素材ですよね」



エンジンの方は?

「というよりも、エンジンの方が逆にパワーがあり過ぎて、立ち上がりでアクセルを踏むと前輪が空転しちゃうので、その辺をもっと、あのパワーを上手く伝えてあげられるように、デフとかタイヤとか、その辺りをやってあげたら、もっともっと、そりゃもう全然速くなる。筑波サーキットで言ったらラップタイムは秒単位で速くなると思います。そういう良い"ベース車"というのは最近なかったので、ああいうクルマは非常に面白いと思いますね」



逆に残念に感じた部分はありますか? 軽自動車という制約の中で作られているわけですが。

「うーんそうですね、残念な部分というか...。(ちょっと考えて)まあ、やっぱりあの形状(ベースが普通のハッチバックであるアルトということ)から、ちょっと腰高感があるんで、コーナリングはちょっとドッコイショというか、サスペンションもノーマルなんで、ちょっとロール感が大きかったり、動きが全体的に大きいというのは確かにあるんですけど。でも、そのボディ自体はすっごくしっかりしています。ボディ剛性というのは凄く高いから、サスペンションを替えてあげれば、もっともっと良くなりますし。というのは、ボディとかシャシー自体がコーナーに対して曲がろうとするんですよね。まあ結局はタイヤもノーマルなんでちょっと厳しい部分はあるんですけど、それでもクルマ自体は曲がろう、曲がろうっていうような旋回性能を見せてくれる」

じゃあ購入してからも色々と楽しみですね。

「いやいや、本当にそうですね。せっかくマニュアルで出たんでサーキットで、まあそのままでも普通に遊べますけど、ちょっとずつカスタマイズしていったら、よりどんどん速くなるし、最終的にはターボ車なんでブーストアップとかそういうパワーアップ的なものも望めるかなと思うので。タイム的にもノーマルで1分20秒を切って18秒くらい(この日のベストは1分18秒202)だったので、これは多分、ホンダのS660といい勝負になりますね」



車両重量が軽いということで話題になっていますが、やはりその辺の効果は大きいですか?

「そりゃもうコーナリングやブレーキングで当然軽さは感じますよね。ボディの形が違うんで一概には比べられませんが、ノーマル状態だと、S660よりもワークスの方が軽快に曲がっていきます」

あの標準装備のレカロシートはいかがですか?

「やっぱり正直言ってサーキットを走っちゃうとあれでもホールド性はちょっと厳しいかなっていう感じはあるし、着座位置もちょっと高いので、(サーキットを走るなら)もうちょっと低く座れてホールド感のあるスポーティなシートに替えてもいいかなとは思います」



なるほど、今日はありがとうございました。軽自動車でもサーキットで楽しめそうだというのがよく分かりました。

「なんかね、やっぱり昔のアルト ワークスを思い出すような、ちょっとジャジャ馬系のパワーもあって。似ているんだけれど、でもボディやシャシーはずっと進化しているんで」

購入を考えている人は安心すると思います(笑)。



というわけで、スペックと名前と値段に惹かれて購入を検討されている方は、きっとがっかりしないと思われる。まずは販売店で少し試乗しただけでも必ず実感できる、その軽快感とトルク感の織りなす独特の豊潤さを、是非とも味わってみていただきたい。菊地選手をはじめとするプロ・ドライバーの指導を受けながらサーキットを走ってみたいと思われた方は、文末のリンクから「ディーランゲージ」のサイトを訪ねてみよう。これまで一度もサーキットを走ったことがない人限定のコースも用意されているので、初心者でも安心して参加できるはずだ。


スズキ 公式サイト:アルト ワークス
http://www.suzuki.co.jp/car/alto_works/


取材協力:株式会社ディーランゲージ
http://dlanguage-z.com/