プロヴァンス空港からバスでひと走り。ほどなく着いたミシュランタイヤのテストコース「フォンタンジュ」で、4世代目を迎える新型ボクスターに対面した。
正式名称は「718ボクスターボクスターS」。初めてその名に冠を抱いたボクスターに、ポルシェの気持ちが見え隠れする気がした。

ポルシェ718といえば、往年のレーシングカー。麗しの550スパイダーをベースに水平対向4気筒エンジンを磨き上げ、タルガ・フローリオ、セブリング耐久、そしてル・マン24hと、伝説の耐久レースで活躍したミドシップマシンである。
しかしなぜポルシェが、今さらこの名車を担ぎ上げたのか?


それは718ボクスターが "4気筒エンジン" を搭載したからに他ならない。

確かにこれまでもポルシェは「550スパイダーエディション」を登場させたりして、ボクスターにレーシングミッドシップとの血縁関係をアピールしてきた。だがそれは、あくまで550スパイダーがデビュー50周年を飾ったことに便乗し、986ボクスターの販売を小粋に促進しただけの話である。

しかし今回は、レギュラーモデルに過去の栄光、その後光を借りた。それにしては話がいささか古すぎて(なんせ1950年代の話だ!)、いまひとつピンと来ないというのが正直なところだが、他に適任もなかったのだろう。
それだけ経営陣は、ポルシェというブランドが4気筒エンジンを積むことに対し、心配している。"世間がどう反応するか"を危惧していたのだと思う。
さらにはこの4気筒をして、914と重ねられることに気を揉んだのではないかと思う。


914といえば1970年に登場したカジュアル・ポルシェ。
シャシーはポルシェが開発し、フォルクスワーゲン製の水平対向4気筒エンジンを搭載したエントリーモデルである。

その販売台数は当時911を大きく上回ったが、フォルクスワーゲンが求めたほどではなかったのかもしれない。またフォルクスワーゲンの部品を共用しながらも、ポルシェクオリティによって作られた結果、コストパフォーマンスが悪かった。作り手側からしてみれば、端正込めた意欲作。しかし市場からは「ワーゲン・ポルシェ」とクチ悪く言われ、商業的には成功とは言えなかったらしい。
いわばそれは、ダウンサイジングターボとなって新しい門出を飾る新型ボクスターにとって、ちょっとした黒歴史だったわけである。


弁護するわけではないが、914はとても洒落たクルマだった。当時まだ小学校にも上がる前だった筆者は、ひとまわり年の離れた兄が喜々として運転する"ワーゲン・ポルシェ"に乗るのが大好きだった。助手席にはその彼女が座る関係から、筆者はそのひざにちょこんと座る。交番が見えると兄に頭を抑えられ、グローブボックスの下に隠れるというスリルも加え、青空天井に響く空冷エンジンの音を聞きながらドライブするのは最高だった。こうした使い方こそはボクスターが目指すシーンそのものであり(三人乗りは御法度だが!)、1970年代のディスコティックな空気感のなか、大きく時代を先取りしていたと筆者は思う。

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話がそれたので軌道を修正しよう。


それだけポルシェは、718ボクスターのマーケティングに慎重なのだと思うが、逆にエンジニア陣のこの4気筒ターボ化にかけた意気込みは、気持ちが良いほど自信に満ちあふれるものだった。
環境性能をクリアしながらも、これまでよりも優れた出力性能を。そのためにエンジンは、これまでの水平対向6気筒の自然吸気ユニットから、水平対向4気筒の直噴ターボとなった。
ボクスターには300ps/380Nmを発揮する2リッターターボが、高性能版であるボクスターSには350ps/420Nmを発揮する2.5リッターターボが搭載される。


ターボはシングルタービン方式。スペース効率的な問題もあるが、この4気筒エンジンの爆発形式は片バンクごとであり、エンジニアによれば「540度までクランクが回転しないかぎり対向バンクが仕事をしない」から、ツインターボは非効率ということだった。そしてエンジン上部には、ラジエターと冷却水を共用する水冷機能付きのインタークーラーを備える。


このターボが、13%の燃費改善を達成した環境性能エンジンとは思えないほどよく回る。NAエンジン時代にはなかった低速域からの加速力。流行りのダウンサイジングターボのような、高回転での頭打ち感(エンジン回転が上がらず、横ばいの加速感が続く)のなさ。


オープンエアの体感速度も加わって、素直にこれを速い! そして気持ち良い! と感じた。今回は助手席のみの試乗に留まったが、ベーシックモデルの素朴キャラに、わがままが効く加速性能を与えたこのターボエンジンを筆者は認めた。......これでいいじゃん!


だが、一流ブランドというのは常に"その上"を商品棚に用意しているもの。2497ccの排気量を持つボクスターSの速さは、さらに刺激というメインディッシュを用意していた。
コンベンショナルなウェイストゲートバルブの制御は、タービンの排気側に備えられたVGT(バリアブル・ジオメトリー・ターボ機構)との協調で、低速から分厚いトルクを発揮し、7500rpmのトップエンドまでキッチリ回転を持って行く。これは排気圧力が小さい低回転領域でタービン側の可変ベーンが閉じ、排気流速を高めた結果。このVGTはディーゼルエンジンではポピュラーだが、排気温度が高いガソリンエンジンでは、ポルシェが一番最初にものにして、タイプ997の911ターボから採用している技術だ。


ローンチコントロールを"ヴルルルルルッ"と効かせながらブレーキを離す。高いボディ剛性と、電子制御によってタイヤが一切スキッドしないことに軽く驚く。
シートバックに背中をクッと押しつけるカタパルト感は、スタンバイ完了した次のギアが瞬時につながる7速PDK(オプション)の素早い変速、とぎれない加速感によってさらに助長される。


ちなみにボクスターも、7速PDKでスポーツクロノパッケージを選ぶと、911カレラで採用されたスポーツダイヤルがステアリングに付く。「ノーマル」「スポーツ」「スポーツプラス」「カスタム」の切り替えでスポーツサスペンションシステム「PASM」との連携制御を行い、真ん中のオーバーブーストボタンを押せば、20秒間のカウントダウンと共に、最大ブーストと最速レスポンスのPDK制御が得られるようになっている。

驚いたのはそのパワーに対するスタビリティだった。高速周回路を抜け、ストレートに出る。そこでテストドライバーは「スラロームするよ」と告げ、高速S字走行を披露した。


旋回性のよいフロントエンドが発生させた高い横G。これによって発生したイナーシャ(慣性)を、リアタイヤが強力なグリップで抑え付ける。今度は逆方向にハンドルを切ると、素早い切り返しにもシャシーは見事に追従し、リアタイヤが再び粘った。


ラゲッジコンパートメントリッドとフロントウィンドー以外を刷新したという718ボクスターは、さらにシャシー後端のリア・サブフレームへ横方向の剛性部材を追加。これによってスタビリティは飛躍的に上がり、ボクスターで18インチ、ボクスターSで19インチ、オプションで20インチという3つのホイールラインナップの全てを、1/2インチ幅に拡大した。こうして得たリアサスペンションの安定性を味わえば、もはやボクスターの剛性不足を理由に「やっぱり911が一番」などとうそぶく者もいなくなるだろう。


低μ路での走りはまさにスポーツカーのそれだった。定状円旋回からアクセルをジワリと踏み込むと、20インチの高扁平タイヤが穏やかに滑って行く。まるで大排気量NAエンジンのような中間トルク特性が、パーシャルスロットル状態で途切れることなく続くため、そのテールを振り出すのも収めるのも自由自在。これにはターボバイパスの開閉や点火時期の遅延で一時的に過給をチャージする「プレコンディショニング」機能(スポーツ/スポーツプラス時)や、アクセルオフ時でもスロットルを僅かに開けて過給圧を保つ「ダイナミックブースト」も効果を発揮している。
またスポーツモードを選んだときの、車両安定装置であるPSMの許容範囲が増えていたことにも感心した。オーバーステアが発生しても無粋なブレーキ制御でこれを封じ込めることをせず、最小限のアシストを行うようになった。もちろんPSMを全てカットする方がよりピュアなドライビングを楽しめるが、これで多くのドライバーが、安全にスポーツドライビングを学んで行くことができるだろう。


となれば最後の関門は、そのサウンドだ。エキゾーストマニホールドを不等長としていることもあり、その排気は不連続に鳴り響く。その音色は直列4気筒ターボとも、等長エキマニを採用するスバルの水平対向4気筒ターボとも違う不揃い感で、これを高い排圧で押し切るように吐きだしている。ただその強引さは718ボクスターの魅力のひとつであり、GTSやスパイダーの発狂するような自然吸気サウンドが無くなったことは確かに惜しいが、筆者はこれを素直に受け入れられた。


ドリフト自在のオープンエア・ポルシェ。ついに我々にも、911のハイスペックを手に入れずとも、ポルシェのドライビングプレジャーを混じりけなしに享受できる時代が来たのか! と喜んだが、911には911の新時代が来ている(それはまたの機会に)。
それでもこのボクスターが、カジュアルの側面を持ちつつ、リアル・スポーツカーへと進化を果たしたのは、何を隠そうターボ化のおかげである。圧倒的に上がった動力性能に対し、これを真正面から受け止めるシャシー性能を得たことが、水平対向4気筒ターボになったボクスターの、最大の特徴だと筆者は思う。
4月上旬には、これをポルトガルでテストできる。そのピュア・スポーツっぷりをたっぷりと報告するつもりなので、楽しみに待っていて欲しい。

■ポルシェ 公式サイト
http://www.porsche.com/japan/