MICHELIN interview
東京モーターサイクルショー2016において、ミシュランブースでのトークショーが叶った。
お相手は現在HRC(ホンダ・レーシング)でテストライダーを務める青山博一氏。
今年からMoto GPに17インチタイヤをひっさげて参入したミシュランの、その開発の裏側を語っていただいたので、レポートでお届けしよう。

MICHELIN
―Moto GP、開幕しましたね!どうご覧になっていましたか?

いつもと違う目線から見ていました。というのも、僕はHRCの開発ライダーとしてミシュランタイヤをテストしていたので、親心のような気持ちで見守りました。
何事もなく全車が完走したときは思わずホッとしました(笑)

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―そう、今年のMoto GPはECU(エンジンコントロールユニット)が全チーム共通になったこと、それから、17インチのミシュランタイヤに変わったということが大きな注目点です。

去る2014年の11月に初テストが行なわれました。
実はタイヤが変更になる、ということがアナウンスされたとき、ライダー全員が「ミシュランに変わるのはいいけど、え〜〜、17インチなの〜?」と大ブーイングだったんです。
しかし、いざフタを開けてみたら、最初からフィーリングはとてもよかった。
唯一の問題は、前後のグリップバランスが取れていなかったこと。しかし、これはただ一つの問題であると同時に、大きな課題でした。

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―そのネガをクリアするためには、とにかくテストするしかない、と。

そうです。タイヤの構造、プロファイル、コンパウンドをとにかくテストして、もう100本ノックみたいなテストでした!
普段はだいたい、50〜60周を走行するんですが、最終的には100周走行したときもあったんです。

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―ハードですね。その間、ヒアリングと走行の繰り返しですか。どれくらいの頻度でテストは行なわれたんでしょうか。

月1〜2回。日本国内だけでなく、ヨーロッパもあります。多かったのはマレーシアのセパンサーキットです。
セパンは高温多湿なので、ライダーにとってはとにかく過酷なんですが、同時にタイヤにとっても過酷な場所ですので、重点的にテストしました。ここですよ、100本ノック!ものすごく走りました(笑)。

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―肉体的な疲れのほかにも、もちろん課題はあったわけですよね?

そうです、17インチタイヤをイチから作るのですから。

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―どういうところがしんどかったですか?

フィジカルはもちろんのこと、メンタルも強いものを求められます。
新しいタイヤ、新しいモノは気を使うんです。間違ったジャッジは出来ないという責任感が常にのしかかりますし、色んな意味でハードなテストでした。

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―ところで、敢えてぶっちゃけて聞きますが、17インチってそんなに難しいものなんですか?たった0.5インチなのに?

0.5インチって、どんなサイズか解りますか?
指の幅一本分くらいです。
でもその"たった"は、全く全然違うんです。
17インチになれば、使うゴムの量が16.5インチよりも減ります。そうすると、ゴム自体の性能を出すことがシビアになるんです。耐熱製、耐摩耗性、耐久性などはもちろんのこと、ハンドリングもおおきく変わりますから。

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―ミシュランはこのレースのフィードバックを市販タイヤのテクノロジーに繋げたいという強い思いで17インチへの変更を決めました。でも、それはミシュランにとっても賭けであったはずです。もしひどいタイヤを作ってしまったら、評判を落としてしまう。

はい、もしそういう思いがないまま単純に16.5インチをキープしていたならば、各サーキットに合わせてコンパウンドを合わせ込むだけでよかったでしょう。
それを膨大なコストも時間もかけて17インチを指定して来たのですから、彼らも本気でした。

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―開発の中で、どのような会話が印象に残っていますか?

実は僕たちライダーには、これからテストするタイヤが硬いのか、柔らかいのか、事前になにも知らされなかったんです。
直接エンジニアに聞いても「さあ?知らない」とはぐらかされて。
で、乗って戻って来て、「このタイヤ、ちょっと硬いね」と言うと、「あ、やっぱりそう?」なんて言われて。
もう、毎回テストライダーをテストされているような気持ちでした。

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―技術者自身も、そうして先入観を与えずに走らせた結果で本当のタイヤの持つ性質を確認したかったのかもしれません。

そうですね、とにかく皆さん熱心で真面目で、いい雰囲気でテストは熟成していきました。

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―ではそんな紆余曲折を経て(笑)、迎えた開幕です。私から見れば、驚くほど何も起こらなかったと思ったのですが。まるで1年目のタイヤじゃないみたいに!

外から見た限り、タイヤとして大きな問題が一台も出ていないことは素晴らしいことです。優勝したロレンソはレース後、タイヤにキスしてましたもんね!まあ、彼は予選のときからかなり乗れている感じがあったので、ミシュランを相当気に入ったんでしょう。
でも実は走行後のタイヤって、100℃を超えているので、キスするのも簡単じゃないんですけどね!

―まさに熱〜いキスだったわけですね(笑)
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さらに言うなら、結果として昨年より7秒も速いタイムでレースを終えています。ラップタイムを見ればトップだけではなく、後方の選手のペースも全体的に高いです。
レースでは250〜300馬力を発揮するため、バイクに相当なストレスがかかりますから、全車に問題が出なかったというのは偉業ですね。

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―確かに、ラップタイムは驚きました。

そうなんです、バイクの出力を下げさせるなどの大きな安全マージンを取り、パフォーマンスを落としてレースを行なったのではないというのも、性能を現す一つの見方だと思います。

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―青山さん自身が乗られて、ミシュランの17インチタイヤにはどういう印象を持たれましたか?

最初にハンドリング軽い!と思いました。ハンドリングが軽いと、ともすれば安定性に欠け、ライディングにストレスを感じることになりますし、結果ライダーの疲労を引き起こす原因にもなります。しかし、軽いのに"振られる"感じがないのは印象的でした。

それから、トラクションがすべっても抜けない・・・って言うんでしょうか。
普通、タイヤが滑るというと横滑りなんです。そうすると、転倒を防ぐためにアクセルを緩めたりして車速を落とさなければ行けない。
しかし、ミシュランはクルマで言うところのドリフトみたいに、滑りつつ前に進んでいくんです。だから、滑ってもアクセルを緩める必要がない。加速側でラップタイムを稼ぎやすいんです。
これは、ブリヂストンだけでなく、ダンロップなど他メーカーにはあまり見られない個性ですね。

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―それが結果的にあのラップタイムに繋がったということでしょうか。

だと思います。コーナリングスピードは上がっていましたから。
そしてそれがミシュランの性格、個性だと思います。
僕はトレーニングでミシュランタイヤを履かせたモタードに乗っているんですが、得る印象はバイクが違ってもまったく同じだったんですよ。

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―さて今年、このあとのMoto GPの展開はどうなって行くと予想されますか?

まったくわかりません(笑)。おそらく勢力図は妥当に4強+ドゥカティが加わっていくと見ています。
ただ、タイヤに関して言えば次のアルゼンチン戦はシビアです。
アルゼンチンは普段あまり使われていないサーキットなので、路面がツルツルでダストも多い。グリップが低いとタイヤに熱がこもりますから。

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―HRCとしてはどうでしょうか。

これまで完全に自社開発のECUを使用していたため、前半は共通になったECUに苦戦しそうです。
後半はさらによくなると思いますよ!

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―ありがとうございました!今後もご活躍を期待しています!

というわけで、早くも熾烈なバトルが繰り広げられるMoto GP。是非タイヤ目線でも観戦を楽しんでいただきたい。

※注:インタビューはアルゼンチン戦前に行われ、青山氏の予想通りタイヤにはシビアな結果となった。

■日本ミシュランタイヤ 公式サイト
http://motorcycle.michelin.co.jp/Home/Products/Motorcycle-Scooter