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東京オートサロン 2016トヨタ・ブースでは、今年も5月にドイツで開催されるニュルブルクリンク24時間レース参戦発表が行われた。東京モーターショーでは大勢の記者達に囲まれる豊田章男社長も、ここでは「TOYOTA GAZOO Racing」チーム代表として登場。ステージの左右には、2007年に初参戦した時の「アルテッツァ」から、クラス優勝を勝ち取ったお馴染み「LFA」まで、ニュルを走ったマシンがずらりと並ぶ。



F1も開催される1周約5.1kmの「グランプリ・コース」と、"世界一過酷な道"と言われる1周約20.8kmの「ノルド・シェライフェ(北コース)」を合わせた約25kmのコースを、一昼夜走り続けてその走行距離を競うニュルブルクリンク24時間耐久レース。昨年から「TOYOTA」の名前を冠することになり、ワークス・チームとなったGAZOO Racingも、このレースに初めて出場することになった2007年には、当時は副社長だった豊田氏によれば「トヨタがお金を出してくれなかった」そうで、「中古のアルテッツァを手に入れて、みんなでニュルを走れるようにした」という。



このレースに挑戦すると決めたのは、トヨタの"マイスター"と呼ばれたチーフ・テスト・ドライバー、成瀬弘氏。「あんたみたいな運転を知らない人にああだこうだと言われたくない」と成瀬氏に言われた豊田副社長は、「では私に運転を教えてください」と頼み込む。トヨタの"評価ドライバー"として、運転の基礎技術を叩き込まれた豊田氏の師から学んだ運転技術がどこまで実戦で通用するのか、それを確かめるためにニュルブルクリンク24時間レースに出場することになった。



幼少時代からクルマが好きでレースに対する憧れも持っていた豊田氏だったが、レース出場は父親である豊田章一郎氏から許してもらえなかったという。もちろん、2007年にニュルブルクリンク24時間レースに出場すると決めたときにも、周囲から猛反対されたそうだ。

一方の成瀬氏には「きっと、トヨタだってやる気になれば面白いクルマが作れるんだ、という反骨精神があったんじゃないか」と豊田社長は振り返る。そのために「ニュルで、クルマも人も鍛える」ことを目的として24時間レースに出場する。もちろん、この理念は現在まで受け継がれているからこそ、GAZOO Racingは今年で10回目となる参戦を継続している。



その初参戦となった2007年、現在ではGAZOO Racingのエース・ドライバーとしてお馴染みの木下隆之選手は、ホンダの「NSX」でこの24時間レースに出場していた。ニュルブルクリンクという地名がまだ日本では今ほど知られていなかった頃から、単身ドイツに渡り、この世界屈指の難コースに挑み続けて来た木下選手は「正直言って、トヨタが来ると聞いてすごく嫌だった」という。1991年からこのレースに参戦している木下選手によれば「当時の日本のクルマはそんなにレベルが高くなくて、日本人ドライバーもナメられていた。それが少しずつ良くなって、ドイツで認知され始めていたのに、トヨタの力で、観光気分でやって来て、引っかき回して、まあ楽しかったねと、グチャグチャにして引き上げるんだろうなと思っていた」とその時の思いを語る。これは豊田副社長に直接言ったこともあるそうだ。しかし、そのレース・ウィークが始まって、ドライバーが装備品チェックを受けるために並んでいる列の中に、「豊田さんがいるのを見付けた」。意外に感じた木下選手は「そんなもの、誰かにやってもらえばいいじゃないですか」と言ったら、「こうやって自分で並ばないとニュルに出た気になれない。全てが学べない」と豊田氏に言われたという。そのときに「この人、変わってるな(笑)と。GAZOO Racingって面白いなと思った」そうだ。そして翌2008年から木下選手はこのチームに参加するようになる。




ところが2010年、レクサス LFAが嬉しい初クラス優勝を遂げた翌月に、ニュルブルクリンク近郊でテスト中に起きた不幸な事故によって成瀬氏がこの世を去る。時代はリーマンショックも重なり、このままGAZOO Racingはなくなってしまうのではないかと心配する声も内部にはあったそうだが、トヨタ自動車の社長に就任した豊田氏は「やるんだ」と決めた。GAZOO Racingの一員でトヨタの評価ドライバーを務める勝又義信氏によれば、この頃から豊田社長は必死にトレーニングを積み、「成瀬さんが乗り移ったんじゃないかと思うくらい」運転が上達したという。かつての世界ラリー選手権チャンピオンであるトミ・マキネン氏との出会いもあり、豊田社長は「今ではスポーツ4駆に乗らせたら、トヨタの評価ドライバーの中で一番じゃないかと」勝又氏が思うほどになったそうだ。

ご存じのように、成瀬氏が亡き後もGAZOO Racingはニュルブルクリンク24時間レース参戦を続け、2012年と2014年にはレクサス LFAとトヨタ 86がクラス優勝を遂げるなどの結果を残した。また、その挑戦による成果は「LFA ニュルブルクリンクパッケージ」や「86 GRMN」をはじめとする市販車に現れている。




今年のニュルブルクリンク24時間レースには、昨年に引き続き「レクサス RC」と、そしてクロスオーバー車のコンセプトカーである「C-HR」の"市販想定モデル"をベースにしたレース車両で参戦する。さらに、トヨタ車のレース活動で多くの実績があるトムスとのジョイントで、もう1台「レクサス RC F」を走らせる。ドライバーは木下選手と蒲生尚弥選手が昨年に引き続きRCに、そしてベテランの影山正彦選手、佐藤久実選手がC-HRに乗る。またRC Fでは土屋武士選手がニュルに初挑戦。すでに参戦経験のある大嶋 和也選手、井口卓人選手、松井孝允選手が共にドライブする。

10年目となる今年は、豊田社長によれば「よりプロで固めて」それぞれの車両がクラス優勝を目指すが、その中にも「クルマの味付け人」として、トヨタ社員のテスト・ドライバー、メカニック・チームが「もっといいクルマ作り」のために参加する。



後輪駆動のRCが、昨年のクラス・ウィナーである4輪駆動のスバル WRX STIを相手にどこまで迫れるか。また、これまでのLFAやトヨタ 86の伝統を受け継ぐように、市販車がデビューする前にレースに参戦するというC-HRが、重心の高いクロスオーバーという不利を背負ってどんな戦いを見せるのか。さらに言えば、この挑戦によってトヨタから、今後どんな「もっといいクルマ」が生まれてくるのか(個人的には、豊田章男社長の肝いりで、かつての「セリカ GT-FOUR」のような"スポーツ4駆"の復活も期待したい)。単に応援するだけではない、興味を引かれる要素がTOYOTA GAZOO Racingのレース活動にはある。今年のニュルブルクリンク24時間レースは、5月28日にスタートして翌29日にチェッカー・フラッグが振られる予定だ。