クルマはアートだ! マツダ、「This is Mazda Design. CAR as ART」展を開催
マツダは10月25日まで、東京ミッドタウンで「This is Mazda Design. CAR as ART」展を開催中。"クルマはアート"と捉え、実車の「ロードスター」「CX-3」に加えて、マツダのデザイナーやモデラーによるクルマ以外の作品や、マツダのデザイン・テーマ「魂動」に共感して創作された日本の伝統工芸を展示している。

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果たして、マツダが言うように、工業製品であるクルマは、アート(芸術)なのか? という疑問がまず浮かぶ。"走ってナンボ"のクルマではあるけれど、確かに見るだけで気持ちが揺さぶられる、アートの域に達したクルマは古今東西にいくつもあることはAutoblog読者の皆様ならよくご存じだろう。マツダデザインはそんなクルマ作りを目指す、今回の催しはその意志表明なのだと理解した。



ではなぜ、マツダはアートとなり得るクルマ作りを目指すのか。アドバンスデザインスタジオ部長の中牟田泰氏のお話によれば、マツダでは「クルマは美しい道具でありたい」「人の手で生み出される美しいフォルムをまとった命あるアート」であり「心昂ぶるマシンでありたい」と思っている。なぜなら「美しい道具は生活や感性を豊かにする」から。また、「クルマは単なる鉄の塊ではなく、命あるもの」であり「デザインによってその命を与えていきたい」とも考えている。これによって、ドライバーとクルマの関係を「心と心が通い合うような、恋人や友達のような関係」にしたい。これが「魂動」デザインの基本となるテーマであるという。



マツダの現行モデルに見られる魂動デザインが、「野生動物の生命感溢れる動き」をヒントにしていることは、既にご存じの方も多いと思う。これをさらに磨き上げ、自らのオリジナリティを突き詰めて行く中で、マツダのデザイナーたちは「研ぎ澄まされた美しさ」に「日本固有の美意識」を重ね合わせるようになったという。それは「余分な要素を削ぎ落としたシンプルな造形」であり、しかし単に簡素化するのではなく、「計算された、緻密な、凝縮されたダイナミズム」の美しさであると中牟田氏は言う。この「研ぎ澄まされた精緻さ、品格」を「凛(りん)」と呼び、「人の情念に訴えかける、命を感じるダイナミズム」を「艶(えん)」と呼ぶ。これらの相反する要素を調和させることこそ、欧米の文化とは異なった「日本独自の美しさ、エレガンスの表現」であると考えたそうだ。



生命感溢れる「動き」を基本としながら、この「凛」と「艶」という日本の美意識を兼ね備えたデザイン。それが「魂動」であるという。現在のマツダデザインの到達点と言える2台のうち、CX-3は「凛」寄り、ロードスターは「艶」寄りの美しい動きを表現したということになるそうだ。今回のイベントではこれらの実車と併せて、この日本独自の美意識をテーマに創作されたクルマ以外のアート作品を展示している。このアート活動によるチャレンジがクルマにも活かされ、魂動デザインをさらにレベルアップしていくことになるとマツダでは説明する。




「Bike by KODO concept」と名付けられたトラック競技用自転車は、ロードスターのデザイナーが描いたスケッチを元に、マツダのモデリングデザインスタジオでハードモデラーというお仕事をされている川野穣氏が、1枚の鉄板から手作業で叩き出し成型したという。一見シンプルながら、ロードスターに通じる艶やかな面で構成されたフレームは、パイプを継いだのではなく、叩き出した鉄板が組み合わされている。ただし、自動車のボディに使われる鉄板は、競技用自転車に用いられる鉄、クロモリ鋼より軟らかいため、強度の高い鉄板を入れて加工することで、実際に人が乗れるだけの剛性を確保しているそうだ。もちろん、そんな設計では外観の自由度は上がるが重量は重くなる。競技用自転車の世界で正義とされる軽量化という点は、ほとんど考慮されていないことが分かる。制作された川野氏も自転車のフレームを手掛けた経験はなく、「本で勉強しながら」作り上げたという。

つまりこれは"本物"の戦うトラックレーサーではない。だが、これを「ミラノ・デザイン・ウィーク 2015」に出展した際に、競技用自転車にかけては数々の名門が存在する本場のイタリアで「これは美しい自転車だ」と賞賛されたという。それが大変嬉しかったと川野氏は語っていた。



手作業で作り上げたのはフレームだけではない。真横から撮影した写真では分からないのだが、フラットな上面がわずかに膨らみを持つ微妙な形状のハンドルバーも、パイプに「砂を詰めて炙って」手曲げしたそうだ。サドルは川野氏が鉄板から作り出したものに、同じモデリングデザインスタジオの川野修氏が独自のステッチを施した革を張った。そのサドルの裏側やハンドルバーの内側も赤い塗装が施されており、これもまた日本独自の「裏地に凝る」美意識を表したものだとか。シート・チューブとダウンチューブはグラデーション塗装が施されているため、中間部は素材の鉄が透けて見える。

53Tのチェーンリング(前ギア)は「このフォルムに合うものが既製品になかったので」独自にデザインした専用品。マツダのロゴと共に小さな文字で、"Breathing life into the car. That's Mazda's design philosophy. Mazda infuses a soul into this bike(クルマに生命を吹き込む。これがマツダのデザイン哲学。マツダはこのバイクに魂を注ぎ込みます)"と書かれている。



これが手作業で創り上げた"アート"の一種であるとは分かっていても、自転車の形(それも大変魅力的な)をしているからには乗ってみたくなる。ダメもとで「製品化する予定はないのですよね?」と尋ねてみると、川野氏は思いの外はっきりと否定はせず、笑いながら「それは私どもの上司に訊いてみないと...」と仰る。意外な反応に微かな希望を感じつつ、「でも量産化は難しいのではないですか?」と訊くと「いや、そうでもないと思いますよ」とのお答えだった。

中牟田氏も、マツダデザインによって作られたクルマ以外のものについて、将来的には「マーチャンダイズ(商品化)のようなこともちょっと考えている」と仰っていたので、ロードスター・オーナーはガレージにこんなバイクも一緒に置くことが出来るようになるかも知れない。もちろん、公道で乗るならブレーキを装備しなければならないが。




これがロードスターを思わせる艶やかなトラックレーサーならば、「Sofa by KODO concept」はCX-3と同様の研ぎ澄まされた凛とした品格を持つソファである。こちらはマツダ・ヨーロッパのデザイナーと、ミラノ在住の日本人クリエイティブ・ディレクターであるSetsu & Shinobu Ito、そしてイタリアの家具職人との協業により制作されたもの。座面は継ぎ合わせのない1枚の革で張り込むという拘った造りになっている。正面から見るとアルミのフレームとブラックのレザーというモノトーンだが、背面では革に入れられた無数の切り込みから、内側に隠された赤が覗き、フレームにも赤いアクセントが入れられている。これも見えないところで美を追求する日本独特の表現を取り入れたものだそうだ。これと一対になるテーブルは、マツダ車のフロントグリル「シグネチャーウイング」を模した形状になっている。




さらに今回のイベントでは、マツダの魂動哲学に共感した日本の伝統工芸作家による作品も展示されている。

金属加工産地として知られる新潟県燕市を本拠とする玉川堂は、200年の歴史を持つ鎚器工房。今回は銅板がなかった時代の技術を再現し、銅の塊から数人掛かりで叩き出すことで創り上げた「魂銅器」を出展。

漆を立体的に盛り上げ、彩色する「高盛絵」という独自の技法を広島で打ち立てた金城一国斎の技法を受け継ぐ七代目は、魂動デザインから感銘を受け、「白糸」と名付けられた卵殻彫漆箱を完成させた。漆の上に細かく砕いた卵の殻を1つずつ丁寧に貼り付け、その上から漆を塗り重ねて表面を研ぎ出し、卵殻の模様を浮き現すという技法で、無数の滝の流れが並ぶ白糸の滝を表現している。




魂動デザインにインスパイアされて生み出されたこれらの創作物は、今度は逆にマツダのデザイナーやクラフトマンたちを刺激すると共に、マツダの外国人デザイナーたちに日本独自の美を理解してもらうためにも役立つという。

ロードスターやCX-3が、実車を目の前にすると写真で見たときとは異なる印象を受けるように、これらの展示品も実物を見なければその魅力はなかなか分かり難い。お近くの方は是非、この週末には六本木・東京ミッドタウンに立ち寄ってみてはいかがだろう?


This is Mazda Design. CAR as ART 公式サイト
http://www2.mazda.co.jp/beadriver/designtouch/


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By Hirokazu Kusakabe