MAZDA MRE
ドイツは、ヨーロッパのほぼ中心にある、ユーロ圏を牽引する工業国である。この国の基幹産業は言うまでもなく自動車産業であり、就労人口のおよそ7人に1人が従事しているほどである。
また、現在でもおよそ60%が速度無制限という、世界に類を見ない高速道路「アウトバーン」が存在するドイツのドライバーは、クルマに対して厳しい目を持っている。それだけに、「ドイツで成功する」、または「ドイツで高く評価される」という事は、自動車メーカーにとって世界で成功する為の、ひとつの試金石となっているのである。

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そんなドイツで、四半世紀にわたってクルマを鍛え上げ続けて来た日本メーカーが存在する。それはマツダだ。
マツダは広島を本拠地とする中堅メーカーではあるが、個性的でスポーティなクルマ作りで熱烈なファンを獲得している希有なメーカーである事は周知の通り。ここドイツでも日本メーカーでは最も大きな存在感を放つ存在となっている。

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その最大の理由が、ドイツにある開発拠点の存在だ。
今回は、メディア初公開となったドイツ・フランクフルト郊外にある「マツダR&Dヨーロッパ(MRE)」で、マツダの最新のクルマ作りの現場を見せてもらうことが出来た。
今から25年前の1990年に設立されたMREは、当時ドイツでヨーロッパ車をテストした、現在はマツダの重役であるエンジニアが、200km/hでアウトバーンを走行しても余裕たっぷりの走りを実現していた、当時のヨーロッパ車とマツダ車の差に愕然とし、「ヨーロッパで勝負するにはヨーロッパで開発しなければならない」と広島本社に訴えた事がきっかけで立ち上げられた。

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スタッフはおよそ100人。そのうちおよそ8割が現地採用で、残りの約2割が日本から来たエンジニアやデザイナーなどとなっている。
ここでの業務は、主に「走り」と「デザイン」の開発だが、ヨーロッパにおける技術動向の調査や、ユーザーからのフィードバック分析なども行っている。

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今回はまず、MREのガレージを見せてもらった。
ここでは、マツダ車のほか、ヨーロッパの各メーカーの様々なモデルの排出ガス検査や、シャシーやパワートレインのチューニングなどが行われている。中にはドイツでは非常に貴重なRX-7(FD)の姿も見ることができた。
スタッフに確認すると、このRX-7は、ドライバーのトレーニング用に使用しているもので、度々ニュルブルクリンクにも持ち込まれているという。
ロータリー・エンジン搭載モデルが消滅してから何年も経つが、マツダのロータリー・スポーツへの思いは、遠く離れたドイツでも脈々と受け継がれているのだ。

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クルマの開発思想も、マツダは全世界で共通している。
「人馬一体」や「人間中心」という言葉は、マツダのニューモデル解説記事によく登場するが、ここMREでもその哲学は一貫しているのである。

パワートレイン開発では、この「人馬一体」の考え方のもとで「人の意図通りの反応」を目指して開発を行っている。それはハードなハイスピード走行だけでなく、日常で何気なく運転している時にも感じられるものを目指している。
そこで重要になるのが、「走る」、「曲がる」、「止まる」の複合動作で美しく流れるようなGフォースの繋がりだ。Gフォースをスムースに繋げる為には、クルマの挙動をドライバーが正確に掴み、先を予測しながら運転出来る事が必要だ。

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マツダはステアリングを切ってからクルマが曲がり出す寸前の小さなロールやピッチを「タメ」と定義し、ドライバーがクルマの動きを予見するために貴重な情報と捉えている。
また、人はクルマの動きに対して、無意識のうちに筋肉を硬直させて、視線を安定させようとする「構え」という反応をするのだが、これには0.2〜0.3秒かかる。
このタイミングに合わせて加速が始まるようにする事で、乗員が不必要に揺さぶられずに、クルマとの一体感が感じられる走りが可能になるのだ。

ここで、重要になるのが、ダウンサイジングならぬ「ライトサイジング」である。「正しいサイズ」、または「適正な出力性能」を意味するこの言葉は、「各モデルには、それぞれ最適なエンジン性能がある」という、マツダの考え方を表現している。
これをもとに、人間の共通感覚や地域の交通環境を考慮してエンジンが選択され、リニア感のある素直な加速性能を実現しているのだ。これは自然吸気エンジンであるスカイアクティブのガソリン・エンジンはもとより、ディーゼル・エンジンにも、さらにはATのスカイアクティブ・ドライブにも共通するフィロソフィーである。

マツダは、日本とは比較にならないほど厳しい道路・交通環境のドイツの一般道やアウトバーンをテストコースとして使用して、この部分を徹底的に磨き上げているのである。
結果、人馬一体の走りと優れた環境性能を兼ね備えた、「第6世代商品群」と呼ばれる現在のラインアップが完成したのだ。

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今回は実際に、CX-5と某ドイツメーカー製競合モデルをMREの敷地内で乗り比べてみたのだが、CX-5の方が乗り心地の面でも走りのスムースネスの点でも格段に優れており、走り始めてからすぐに身体にフィットする感覚を覚えた。それほどまでにマツダは「人馬一体」を追究しているのである。

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「人間中心」の哲学は、インテリアの設計にも取り入れられている。「乗員にとって理想の状態」を考えて、各部の形状や配置を決め、そして操作機器の特性を合わせるのである。

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最も重要なのは視界だ。例えば現行アテンザは、先代からAピラーを50mm後方に移動させ、Aピラーとドアミラーの隙間も確保した。これにより、広い前方視界とコーナーでの視認性、そして小さな子供も確認できる少ない死角を実現している。

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ドライビングポジションは、解剖学的に精査して、自然に座ると右足はアクセルとブレーキの間に、左足はクラッチとフットレストの間に来るように、ステアリングとペダルの位置を決めている。こうすることで、踵を固定したままペダルを楽に、かつ正確に操作できるようになるのである。

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シートもヨーロッパ基準で開発している。ヨーロッパ車のシートは、以前から疲れにくく、出来が良いといわれているが、マツダはその材質に注目して研究した結果、ウレタンの特性が日本には無いものであることを発見。現在は同様の特性を持つウレタンを日本でも作れるようにし、ネットシートを採用するロードスターを除く全車のシートに採用している。

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このように、現在のマツダでは、その開発の多くの部分でMREが重要な役割を果たしている。まさにMREの存在なくして、現在の第6世代商品群の開発はできなかった事が理解出来るだろう。

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そして、近年のマツダを語るうえで欠くことの出来ないデザインについても、ここMREは大きな役目を果たしている。ただし、その根底にあるものは、世界共通のコンセプトである「魂動デザイン」だ。
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「魂動デザイン」は、「金属や樹脂で出来たクルマに生命感を与える」という、マツダ独自のデザイン哲学である。そこではチーターのような野生動物のダイナミクスな動きの表現と共に、「無駄をそぎ落とした日本の美意識」というデザイン・カルチャーも持ち合わせている。
それが、緊張感をもたらす「凜(りん)」と、暖かみや色気の要素である「艶(えん)」という相反する要素である。

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マツダでは、ニューモデルのデザインをスタートする時に、まず「魂動オブジェ」と呼ばれるものを製作するのだが、その時に各モデルに相応しい「凜」と「艶」のバランスを盛り込み、デザイナーとクレイモデラーに共通のイメージを作り出すのだという。例えばクロスオーバーであるCX-3は凜と艶が7:3くらいで、ロードスターでは逆転して3:7くらいになるという。

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共通イメージが出来上がると、そこからはデザイナーとクレイモデラーが互いにアイデアを出し合い、何度もクレイモデルを作りながらクルマの形に仕上げていく。それだけに、マツダのクレイモデラーが使用するクレイ(粘土)の量は、業界で群を抜く多さだという。また、使用するクレイの固さも最も固い部類に入る。

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一般的に自動車メーカーのデザイン部門は、まずデザイナーが画を描き、それをクレイモデラーが形にしていく、という流れで作業するのだが、マツダでは両者が対等に形を紡ぎ出していくという、独自の手法を取っている点が特徴だ。
この結果、デジタル全盛の現代において、量産デザインの完成直前まで人間の手が加わることになり、生命感や躍動感が表現されることに繋がっていると言えるだろう。

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ちなみにフランクフルト・モーターショーでワールドプレミアとなった、次世代クロスオーバー・ビークルのデザイン・コンセプトである「越KOERU」は、ここMREで製作された。
「越KOERU」は、会場内でも一際存在感を放っていたが、ヨーロッパでも埋もれない日本のデザインを目指すMREの存在意義は、しっかりと表現されていたように感じた。

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またマツダでは、自動車デザイン以外にも、家具や自転車、ファッションといった他分野における「魂動デザイン」の展開も行っている。これらは実際に商品として販売される予定は無いが、日本の伝統工芸家や新進気鋭のファッションデザイナーとのコラボレーションをすることで、「魂動デザイン」における新しい表現の発見や進化にとって重要な活動となっている。

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ちなみに今回のフランクフルト・モーターショーにおけるマツダブースのスタッフの衣装は、ファッションデザイナーのYASUTOSHI EZUMI氏とのコラボレーションから生まれたものだ。

このような活動もあり、マツダのデザインチームは、まさに「匠の集団」となっている。
誰か1人の才能に頼ることなく、デザイナーもクレイモデラーも、場合によってはデジタルモデラーもアイデアを出し合える環境を実現しているのだ。そこがマツダ・デザインの強みであり、カーデザインの世界で独自の立ち位置を築いた理由と言えるだろう。

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今回の取材では、最後にマツダの最新ラインアップのうち、マツダ6(日本名:アテンザ)マツダ3(日本名:アクセラ)、CX-5、そしてMX-5(日本名:ロードスター)の4モデルに試乗する事ができた。
コースはMRE周辺のアウトバーンと一般道、ワインディングたったのだが、その走りのクオリティの高さには正直驚かされた。最新のドイツ車と比較しても、そのスムースネスやハンドリングの正確性、快適性、ドライバーへのインフォメーションの質など、走りのクオリティという部分で全く引けを取っていないのである。

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良いクルマとは、必ずしもハイパワーである必要はない。確かに沿うかもしれないが、そう言われても、「ではどんなクルマが良いクルマなのか?」という疑問が生まれることだろう。
しかし、最新のマツダには、その正解のひとつの形が具現化されているように思えた。最適なサイズのパワートレインを搭載し、ドライバーが運転しやすい事を何よりも優先してシャシーやインテリア、操作計が設計され、高い実用性を備え、しかも個性的でスタイリッシュなクルマ。それらが全て詰め込まれたマツダの第6世代商品群は、まさに世界基準で「良いクルマ」と呼べる出来栄えである。

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かつて、ヨーロッパ車に負けないクルマ作りを夢見た先人の意志は、現在のMREに確実に受け継がれている。
ここMREに日本からやってくるスタッフは、比較的短期間で日本に戻ると言うが、猿渡所長によれば、それは「出来るだけ多くのエンジニアにドイツの交通環境を感じてもらい、広島にフィードバックしてもらいたい」という考えがあるからだという。つまりMREは「人づくり」の場でもあるのだ。
マツダがこれを今後も続ける限り、「いつかはドイツ車を越えたい」という夢は、必ずや実現することだろう。

■マツダ 公式サイト
http://www.mazda.co.jp/