24h Le Mans 2015

 今年のル・マン24時間は、近年でも稀に見る注目度の高いレースだった。WEC(世界耐久選手権)の第1戦、第2戦で見えたのはポルシェの速さと、アウディの強さ。一方で昨年のシリーズチャンピオンであるトヨタは明らかに速さが不足していたが、ル・マンはレース時間も走行距離も桁違いであり、何しろ"魔物がいる"レースだけに、逆転の可能性を否定はできないという具合で、まず何よりレース自体が波乱を予感させたからだ。

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 更には、WEC緒戦を欠席し、ここでようやく登場となったニッサンが、果たしてどれだけ走るのかということにも、誰もが興味津々だった。テスト不足、パフォーマンス不足が指摘されていた前輪駆動LMP-1マシン。しかし、これがもし一転、驚速を披露したならば、まさに常識がひっくり返ることになると誰もが訝しみ、あるいは期待を抱いていたのである。

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 しかしながら、予選でポルシェが叩き出した3分16秒台というタイムは、諸々の淡い期待も消え失せるほどの衝撃だった。もちろん、速いだけでは勝てないのがル・マン。しかしニッサンはもちろんトヨタですら、つけられた差は大き過ぎた。あとはポルシェが果たして、そのハイペースを決勝で維持し、完走を果たすことができるのか。そこに焦点は移ったのだ。

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 決勝開始直後にはトヨタも踏ん張り、ポルシェ、アウディとバトルを繰り広げたが、地力の差は明らかで、じわじわと引き離されていく。その後はポルシェとアウディの真っ向勝負。ポルシェはエース格の17号車が黄旗追い越しのペナルティで遅れると、言わばダークホースの19号車が先頭に立つ。そのあとを追うのは2台のアウディ。しかも、差はわずか数秒でしかない。

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 驚いたのは、そんな緊迫したバトルが、レースが折り返し地点を過ぎても尚、繰り広げられていたこと。耐久レースというより、永遠に続くスプリントレースを観ている。そんな気にさせられた。

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 しかしレース終盤になると、アウディは珍しく小さなトラブルが頻発してピットガレージにマシンがしまわれることが増え、更にはエース格7号車が黄旗への尊重を怠った行為でピットスルーペナルティを喰らうなどして万事休す。

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信頼性への懸念も何のその、ポルシェ19号車はハイペースを維持したまま、見事24時間を走り切ってみせ、17号車もそれに続いて、見事1-2フィニッシュを飾ってみせたのである。

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 ではトヨタの戦いはどうだったか。2台のマシンはそれなりに安定したペースで走り続けて完走を果たしたが、速さの面では勝負権はまったく無かった。単純に、レースがどこまでペースアップするのかを甘く見積もっていたのだろうか。それとも単に予算上、大規模な開発が許されなかったのか。実際、今季のマシンはモノコックを昨年から流用しているとのことだが、それはアウディだって同じ。これだけが理由とは言えない。

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 いずれにしても、昨年総合優勝に手が届きかけたのと同じチームとは思えないレースだった。せめてWEC後半戦では、開発を進めて一矢報いてほしい。

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 話題のニッサンは、ハッキリ言って蚊帳の外。ライバル達とまったく異なるアプローチで設計されたマシンは、残念ながら傍目にはまともに走らせることすらままならない様子だった。コーナリングを見ていても、回生ブレーキがほとんど使えないようで夜中などはLMP1で唯一、ブレーキディスクが真っ赤に光らせながらのターンインとなっていたし、速度も目に見えて低かった。ここから来年、本当に20秒も速くできるのだろうか?
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 それでは、なぜポルシェは復帰たったの2年目にして栄冠を掴むことができたのか。アウディはしぶとい強さを発揮し続けられているのか。もちろん、そこには様々な要素が絡み合っているが、ひとつ感じたのは、レースとマーケティングが密接にリンクして、ブランド一丸となって戦っているという部分は、やはりあるんじゃないかということだ。

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 レースチームは当然、勝ちを目指して真剣に戦う。しかし、それはマーケティング上の要求ではないだけに、極端な話、負けたからって意味が無いからやめるという話にはならない。負けても「それもレース」と言える。それ故に大胆になれるし、一方で色々な意味で伸び伸びと戦うことができる。
 そしてマーケティング側も、レースをうまく利用している。ストーリーを作り、ブランドを育てるために。メディアに対するホスピタリティ、情報提供に熱心なのも、その一環だ。また、VIPや上顧客を呼んで、ル・マンをユーザーに対するブランド体験の場の提供としても活用している。こちらも勝たなくても十分に元を取っている、と言うことができる。
 技術部門が独断で、ギリギリの予算でレースをやるのでもなく、マーケティング部門が宣伝のためにレースをやるのでもない。ブランドとして、それが当然やるべきものになっている、という感じである。

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 ではトヨタはと言えば、レースを技術開発の場と位置づけている面が強く見られる一方で、マーケティング的な活用はこれまでほとんどされてこなかった。昨年惜しくも勝利を逃した時に漂っていた悲壮感は、負けたら、もう終わりかもしれないという思いから来ていたようにも見えた。もしブランドのDNAとして、すでにレースが染み付いていたならば、すぐに「また来年」と言えたのでは? 

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 その点で言えば、今年はずいぶんと状況が良くなったようには見える。しかし、まだ足りない。少なくとも世界のプレミアムブランドであるポルシェやアウディと、トヨタの十八番であるはずのハイブリッド技術で戦っているというのに、トヨタ自動車としてWECやル・マンを積極的にサポートしている、という風にはまだ見えないのだ。よく言われるのは、本気で勝つつもりなら3台体制が必須ということ。ニッサンですら3台揃えたのに、今年もトヨタは2台だった辺りにも、それは見て取れる。

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 逆にニッサンは今回、ほとんどマーケティングのための参戦のようにも見えた。奇抜なマシンはプロモーション的には最高。サーキット内外の看板、ホスピタリティなどの準備も抜かりないという感じだったが、一方でエンジニアリングやレース運営に、あるいはドライバーに、ル・マンで実績のある人間がどれだけ居ただろう? どこかバーチャルなチームのように見えたと言ったら言い過ぎだろうか。

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 何しろポルシェはル・マン復帰に際して、元BMWのスタッフをはじめレース界の手練を多数、雇い入れている。ピット裏には凄まじい数のストラテジストが控え、戦略を立てている。アウディは参戦当初から一貫してル・マンで幾度も美酒を味わってきたチーム・ヨーストとタッグを組み続けている。そこには、やはり理由があるはずでは?

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 24時間のレースが終わり、大観衆が見守る中で表彰式が行なわれてからしばらく経つと、ポルシェのメディアホスピタリティでは、24時間ずっとレースを見守っていたポルシェのマティアス・ミューラーCEOが壇上に立ち、すべてのスタッフや関係者、そして我々取材陣にまで、丁寧に感謝の言葉を述べた。ウォルフガング・ハッツ技術開発担当取締役も小躍りしながら登場。皆、最高の笑顔を湛えている。そして戻ってきたドライバー達への鳴り止まない拍手...。
 ポルシェチームは、というよりもポルシェというブランドは、拡大を続けてはいるが、しかし今でもとてもファミリー的な絆の深さを、色々な場面で感じさせる。それは我々、取材陣に対してすらもそうだったりする。

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 例を挙げればキリが無いが、今回もミューラー社長はほぼずっとインカムをつけてピットに陣取り続け、時々はメディアホスピタリティに現れて...という様子だった。以前に取材したアウディも、ほぼ同様だったと記憶している。日本メーカーはどうだったろうか?
 実はこういう部分も、チームをまとめて一丸となって戦う際に、大きな効果を発揮しているのではないだろうか? 何のために、どんな風にレースをやるのか。人をつくり、マシンをつくり、チームをつくっていくのか。その答は案外シンプルなのかもしれない。

■Autoblog ルマン24時間レース特集ページ
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