Vespa primavera 50

その昔、私がまだパンクミュージックにドハマりしていた、うら若き女子大生のころのお話である。
当時、大阪市内の大学に通い、一人暮らしをスタートしていた私は、毎晩のように大阪・ウメダのお初天神あたりにあるライブハウスに通い、上質でノイジーな音楽を聴き漁ることを習慣にしていた。そのうち、類は友を呼ぶと言っていいのか、職業も住環境もまったく別ながら、音楽を一つのコアにしておんなじ世代の男女は自然と集まるようになったのは、わりと自然な流れだったと思う。
そんな中でも、特別仲良くなった女の子がいた。アキちゃんといって、背が高く、オレンジに染めた髪は短く、ビックリするくらいに細い身体で、いつもモッズっぽい服を好んで着ていた。そんなにビックリするほど美人じゃなかったけど、彼女の持つ統一されたムード、なんとなく一本筋が通った佇まいは、遠くからでも人目を惹いた。
yamaha
(YAMAHA SR400)

で、モッズって言葉で大体この後の話の流れの想像がついた人はワリとサブカルチャー系に強い人だと思うんだけど、彼女がいつも乗っていたのが、ベスパだったのだ。
中古で買ってん、と誇らしげに言う彼女は、もちろんあの、湾岸所の青島刑事よりもボロボロのモッズコートをサラっと羽織って、ゴーグルをおでこに乗っけたヘルメットをかぶり、いつも颯爽と現れた。当時、私はSR400をトラッカーにチューンして乗っていて、もっとパンクロックな感じを好んでいたのだけど、彼女のスタイルはとてもクールに思えた。

vespa
(vespa501963)

あるときそのベスパに、乗せてもらえることになった。
が、結果、乗りこなせなかった。
発進は出来た。キックスターターならSR400で慣れていたし、フツウのスクーターでもやったことはある。問題はハンドシフトで、コレが私にとって超絶難しかったんである。
だいたいアクセルを開閉する右手じゃなく、クラッチを握る左手を前後に回転させるっていうのがもう"?"。ついでに今何速に入っているのかも混乱してしまい、パニックがパニックを呼び、ついに私はほんのわずかの時間で「もういいや」とアキちゃんにベスパを返した。未だになんであんなに乗られなかったのか不思議でしょうがないのだが、本当に全然出来なかった。
今考えたら、あのシフトチェンジまでの一瞬のタイムラグを予測できなかったとか、バイク歴自体が浅くて運転が下手だったとかまあ理由はいろいろ考えられるのだけど、苦い思い出だ。
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で、今回の試乗である。
十○年ぶりにベスパである。
今回は数あるモデルの中でもエントリークラスとなる50ccのベスパ プリマベーラ50だ。

Vespa primavera 50

1968年から続くベスパの歴史とともに、長くラインナップされた伝統の「プリマベーラ」の名を継承しつつ、ベスパの最上級モデル"946"シリーズのスタイリングを取り入れたオシャレな原付バイクである。
キャワユイ。

Vespa 946 Bellissima
(Vespa 946 Bellissima)

確かにあちこちオールドベスパからは正当進化している形跡を見て取ることは出来るのだけど、それでもどこからどう見たってまごうかたなきベスパに仕上がっている。こういう、可愛くなりすぎずかっこよくなりすぎず、人をハッとさせるようなデザイン能力にかけて、やっぱイタリアってすげーなといつも素直に感激する。しかもデザインだけでなく、使い勝手も上々だ。

Vespa primavera 50

膝前にはロックのかかるグローブボックススペースがあり、ココがそこそこの収納力を誇るので、サングラスとか財布とかおうちのカギなんかをポイポイ放り込める。たっぷりしたサイズのシートの下には、ヘルメットなどを収納できる収納スペースも完備している。いやいやスゴイことですよ。アキちゃんのベスパにはヘルメットをかけておくフックしかなかった。随分普通に乗れるようになっている。

Vespa primavera 50 Vespa primavera 50

メーターにも液晶が採用され、ココもとても見やすくなった。だけど、ちょっとだけレトロな感じを残してくれているから、あまりにイマっぽすぎないところのさじ加減がちょうどいい。

Vespa primavera 50 Vespa primavera 50

いざ乗り出すと、ベスパの持つ本来の目的が遺憾なく発揮される。なんと!スネが濡れないのだ。
そう、非常に残念なことに、この日の天候は雨だった。立っていれば「あ、雨」くらいのレベルでも、走り出したら体感的にはそこそこ豪雨なの(涙)。が、走り出しても下半身はわりとへっちゃら。

Vespa primavera 50

ベスパはもともと、女性がスカートでも乗られ、またその足元が泥で汚れないよう膝前が覆われたような形状にコンパートメントを作ったのがはじまり。そしてオシャレなイタリアンがシフトチェンジで革靴を汚さないように考案されたのが、私が四苦八苦したハンドシフトである。いやそんなん言うたら今やスクーター全般がそうやんかとなるが、これを最初に考案したのがスゴイんである。先達に感謝なのであった。

Vespa primavera 50 Vespa primavera 50

操作もごく普通で、いわゆる普通の原付バイクと思ってくれて構わない。アクセルレバーの開閉だけで、シフトチェンジの必要はない。オートマチックだ。時代の進化をしみじみ感じながら一般道へ乗り出す。雨が降っているが、こんなにちっこくても前輪にはディスクブレーキが採用されているので、しっとりなめらかに停止するのも安心だ。

Vespa primavera 50 Vespa primavera 50

ただしディスクブレーキじゃなかったらちょっと怖かったかもしれない、と思うくらい、やはり車重を感じる。重いのだ。いわゆるスクーターのようにキュンキュンと軽々取り回せるような印象は少ない。転回の際も若干重心が高いために怖さを感じて回転半径が広がってしまうようなイメージだ。
加速の際にも若干この重さは気になる。
アクセル開度に対してすこし反応を緩やかにしてくれているのは飛び出しを防ぐ意味もあり好印象なのだが、そのあとのトルクの出方もわりとモッタリだ。

Vespa primavera 50

もし、デザインだけを重視して、普通の原付スクーターから乗り換えたら、若干のフラストレーションを感じるかもしれない。
いや、でもプリマベーラ自体が飛ばすようなキャラじゃないのだ。この優雅なルックスに似合うように、エレガントに乗りこなしてほしい。

Vespa primavera 50 Vespa primavera 50

今でもあの、お初天神の路地のそこここに溜まる闇、にぎやかな商店街から一本外れた放置自転車だらけの道ばたで、なんとなく帰りがたくてずっと座り込んで話したこと、それぞれが乗りつけてくる真っ黒でハードなバイクを自慢し合ったことなんかを、そりゃあ手に取るようにハッキリと思い出すことが出来る。

Vespa primavera 50

このベスパはもう、あの頃アキちゃんが大事にしていたベスパとは違う。ナカミはまるっきり進化してしまっていて、誰でも気負わずにエンジンをかけられる手軽さをも備えた。もちろんそれは素晴らしいことだ。だってこのキュンとくる姿を、多くの人が特別な練習なく楽しめるようになったのだから。
だけど変わらずにいてくれるこのクラシカルなスタイリングのおかげで、ベスパはいつまでもずっとアキちゃんのそれを思い出させてくれる姿を留めている。それが素晴らしい。
こんな風に一抹の郷愁にも似た懐かしさ、誰かとの思い出を喚起させてくれるバイクって、世界中にそう多く存在するわけじゃないと思うのだ。
ローマを駆け抜けたアン王女だって、多分そのうちの一人だもの。

■ピアッジオ グループ ジャパン 公式サイト
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