ホンダは3月30日、待望の2人乗りオープン・スポーツ軽自動車「S660」を東京・南青山の本社で発表した。

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台数だけでいえばもっと売れそうな他のホンダ車の発表時よりも、集まった報道陣の数は多く、立ち見が出るほど。そんな中、本田技研工業株式会社の峯川尚専務に続き登壇したのは、本田技術研究所四輪R&Dセンターの椋本陵氏。弱冠26歳でS660の開発責任者を務めた若きチームリーダーである。

「自分にとってこれが正装」ということで、スーツではなく白い作業服を着て壇上に現れた椋本氏は、初々しくも自信と晴れがましさに溢れたスピーチを披露。本田技術研究所50周年を記念して行われた新商品企画提案コンペで「自分が欲しいと思うスポーツカー」を提案し、グランプリを受賞したことから製品化への指揮を執ることになった椋本氏は、自身もホンダの傑作スポーツカー「S2000」を所有するという。「クルマ離れと言われる我々の世代から、クルマの楽しさを追求したS660を作り上げ、クルマって楽しいんだぜっていうメッセージを、世の中に"どストレート"に発信していくという志で開発してきました」と述べた。



椋本氏に寄れば、S660が目指した"楽しさ"は大きく分けて2つ。スタイリングから来る「見る楽しさ」と、人とクルマが一体感が味わえる「乗る楽しさ」。そこに誰もが手が届き、維持しやすく、末永く愛されるクルマという観点を加えたという。

もうすでにご存じの方も多いと思うが、S660は座席背後にエンジンを搭載したミドシップ・レイアウトを採用している。そのため「フロントにエンジンがないことから、ボンネットが低くウェッジ(くさび形)の効いたスタイル、これがまさにスーパーカーそのもののプロポーションと言えると思います」と椋本氏は語る。つまり「見る楽しさ」を呼び起こすというわけだ。また、「曲がる楽しさ、我々の目指した"痛快ハンドリング"を実現するにあたり、フロントの軽いことに寄る回頭性の良さ、そしてその先のトラクションの掛かりの良さと、曲がる部分についてのメリットが非常に高い」ことから、「乗る楽しさ」にも有効。これがミドシップを採用した理由であるという。

そのエンジン自体は「N-ONE」などとほぼ共通。排気量658cc直列3気筒DOHCターボで、最高出力64ps/6,000rpmと最大トルク10.6kgm/2,600rpmを発生する。"64ps"という数値は業界の自主規制によって各社横並びとなっているが、ホンダの「S07A」型エンジンは最大トルクが同クラスの他社製エンジンより大きいことが特長だ。また、ターボチャージャーはNシリーズよりもレスポンスに優れ、ベアリング・ハウジングやタービンを小型化することにより12%も軽量化したものが採用されている。旋回時の高い横Gによるオイルの偏りを防ぐため、オイルパンの形状も工夫されているという。



さらにホンダは、「Nシリーズ」でお馴染みのパドルシフト付きCVTに加え、軽自動車では初となる6速マニュアル・トランスミッションをS660のために新開発した。これと組み合わされるエンジンは、強化バルブを採用することで許容回転数が(CVT用よりも)700回転上乗せされ、7,700rpmとなる。クロスレシオ化されたこのギアボックスは、2速で7,700rpmまで回すと75km/hに達するという。つまり、一般的なワインディングロードではほぼ2速のままでカバーできるため、MTでもステアリングに集中できる。また、6速で100km/h巡航時のエンジン回転数は3,200rpm程度というから、かつて轟音の中で高速道路を走り続けた経験のある元「ビート」オーナーには羨ましい話である。

このトランスミッション開発を手掛けたエンジニアの方にお訊きしたところ、実は2013年の東京モーターショー"シフトレバーのない"コンセプト・モデルが出展された時には、すでにこの6速MTの開発が始まっていたそうである。軽自動車という枠の中、横置きエンジンと共に限られたスペースに6枚のギアを詰め込むのは「非常に大変だった」そうだ。それでもわさわざ6速にした理由を尋ねると「このクラスの5速MTって、まあ普通じゃないですか(笑)。普通じゃないことをやりたかった。やっぱり6速あった方が楽しいですよね(笑)。技術的なことをお話ししますと、こういう小型のエンジンだと、どうしてもギアを低めに振ってトルクを使って行きたいということになるのですが、そうすると今度は高速巡航時に回転が上がってしまう。だから6速化してレシオバンドを広く採って、より扱いやすいトランスミッションを作るというコンセプトでした」とのことだった。

"でもこれ、S660のためだけに使うのはもったいないですよね。他の例えばN-ONEなどのモデルにも採用されると期待してよろしいのでしょうか?" と尋ねると「まあ、期待していい...のかな?(笑)。僕からは明言できませんけど」というお答え。6速MTで小排気量ターボを操るのは楽しそうだけど、S660では人も荷物も乗らない(載らない)ので購入を諦めていたという方も、期待して...いいのではないでしょうか。



なお、CVTの方もホンダ独自の制御技術「G-Design Shift」をスポーツカー用にセッティングすることで、キックダウン時には素早くGが立ち上がり、エンジン回転と車速がリニアに上昇するようにチューニングされているそうだ。また、CVT仕様のみ、ドライブ・バイ・ワイヤの設定を「DEFAULT」モードと「SPORT」モードの2通りに切り替える「SPORT」スイッチが設けられている。

6速MT仕様は代わりに「SELECT」スイッチが用意され、これによってメーターを切り替えることができる。「SPORT」モードでもドライブトレインの性格は変わらないが、レブリミットに近づくとメーター外周がフラッシュしたり、瞬間燃費計がブースト計に切り替わる。ちなみにJC08モード燃費は6速MTが21.2km/L、車重が20kg重いCVTは24.2km/Lとなっている。レギュラー・ガソリンでこの数値なら、燃料代のことはあまり気にせず存分に走り回れそうだ。



サスペンションは前マクファーソン式、後デュアルリンクストラット式の四輪独立懸架。横浜ゴムと共同で専用に開発したという高性能タイヤ「YOKOHAMA ADVAN NEOVA」は、フロントが165/55R15 75V、リアは195/45R16 80Wと、前後で異なるサイズを履く。前後に260mm径のディスク・ブレーキを備え、状況に応じてステアリングを切り始めたときは内側の、直進に戻すときは外側のブレーキを僅かに作動させることで車両挙動をサポートする「アジャイルハンドリングアシスト」と呼ばれる電子制御システムを搭載する。ビートより70kg重くなったこともあり、標準装備となる電動パワーステアリングは、ひとクラス上の「フィット」からモーターとコラムシャフトを流用しているそうだ。


後半はデザインナーの方にお聞きした話や、Moduloと無限によるカスタマイズされたS660などをご紹介しよう。



ホンダ 公式サイト:「S660」
www.honda.co.jp/S660/


<S660 スペック>
車体寸法:全長3,395mm × 全幅1,475mm × 全高1,180mm
車両重量:830kg(MT)〜850kg(CVT)
乗車定員:2名
駆動方式:横置きミドシップ後輪駆動
エンジン:水冷直列3気筒DOHC
排気量:658cc
最高出力:47kW(64ps)/6,000rpm
最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2,600rpm
JC08モード燃費:21.2km/L(MT)〜24.4km/L(CVT)
使用燃料種類:無鉛レギュラーガソリン
タンク容量:25L
トランスミッション:6速MTまたは7スピードモード付きパドルシフトCVT
タイヤ(前/後):165/55R15 75V / 195/45R16 80W
サスペンション(前):マクファーソンストラット式
サスペンション(後):デュアルリンクストラット式