JAGUAR XJR

レディなクルマだな、と思う。
と、読者層のほとんどがメンズに占められるであろう当サイトにおいて、のっけから場違いな書き出しかもしれないが、ジャガーってどのモデルに乗ってもホテルのパウダールームみたいな、ちょっと退廃的な大人の色香が漂う。ドアを開いてするりと運転席に、あるいは助手席に滑り込む時、おのずと膝を揃えてしまうような。

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XJは言わずと知れたジャガー最上級セダンだが、さらにスポーツグレードとしてXJRが加わった。
ただでさえ言いようのない威圧感を放つXJに、背景を赤にした専用のジャガー・エンブレムをキラリと掲げ、走りを期待させる特別なエンブレム"R"を備えたXJRは、果たしてそれでもどことなくレディな雰囲気を纏ったままなのだった。

JAGUAR XJR

手ごたえのある重さのドアを開ければ、そこにも"R"の洗礼は存在する。
まず乗員の背中を受け止めるゴージャスなレザーシートに"R"の刻印が入り、ステアリングホイールの下部にも"R"のバッヂがあしらわれている。乗りこむたびに走りを期待させる演出を持ちつつもしかし、繰り返すようだがあくまでもそれ以外は、XJらしい優雅さを鱗粉のように煌びやかに振りまいているのだ。

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運転席と助手席を、フロントウインドウから大きな弧を描いて包み込むような円形のモチーフはどこもかしこも触るところみな立派な厚みを持つレザーに覆われ、所々に木目の綺麗なウッドが輪郭を引き締めるかのように嵌め込まれる。ふと手を伸ばせばピラーの裏まで丹念にスエードで覆われ、さらにそれはサンバイザーにまで使用されているのだ。

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信号待ちで、駐車してクルマから出る時、そして乗り込んだ後。意外にバッグの手鏡じゃなく、サンバイザーの裏に備えられているバニティミラーに頼る機会は多い。柔らかなスエードに触れるたび、仕草までエレガンスに染まりそうな気すらする。
あまりの素敵さにクラっときてシートに身体を預ければ天井は一面、それこそ車幅ギリギリいっぱいにまで贅沢に広がるガラスルーフなのだった。どこまでもロマンチック、どこまでも陶酔系なのである。

だが一度スタートスイッチに手をかければ、それがとんでもない仮面だったことに気付く。ゴウン、と乾いた、しかし野太いサウンドを響かせて目覚めるエンジンは5リッターV8スーパーチャージド。いや、エンジン自体が5リッターV8もあるんだからこのご時世、過給なんてしなくてもエエんやおまへんか、とつい肩のひとつでも叩いて窘めたくなるその最大出力はなんと550psを叩き出す。0-100km/h加速は4.6秒。この数字はポルシェ911カレラ(PDK)と同等になる。

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しかしXJRの重量は1.970㎏もある。ジャガーお得意の軽量・高剛性のアルミ製ボディパネルをしてもこれだけの贅沢装備を備えた高級サルーンであるからして、そのクラスの重量は仕方ないとも言えるのだが、この巨体をパワフルなんて生半可な言葉では表現できないくらいの鬼トルクで引っ張るのだから、やっぱりスーパーチャージャーは有効なのだ。

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実際にアクセルを踏み込むと......いや、踏み込めない。お恥ずかしい話だが、このオラオラスペックに気を良くしてフン、とちょっと調子に乗って大目にアクセルを煽ってみたら、あっけなくホイールスピンしてしまった。つまり、そのくらいもんのすごいトルクなんである。雑に操作すると、これだけのスペックはドライバーに煮え湯を浴びせる。細心が必要なんである。

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今やジャガーの象徴ともなった、エンジンをかけたらゆっくりと回転しながらせりあがってくるセンターコンソールのドライブセレクターだが、その根元にはチェッカーフラッグ柄のスイッチが存在する。それを押せばダイナミックモードが選択され、デジタルメーターの中身が真っ赤に染まる。そしてソフトウエアがスポーツドライビング用にマッピングされ、高速走行時のアクセルレスポンスが上がり、サスペンションは固く締まって、ステアリングは重みを増すというものだ。つまりボタン一つでサーキットにすぐに持ち込めるくらいのセッティングがなされるわけだ。

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重量級のエレガントなセダンが、このスイッチをひと押ししただけでまるで化け物のように豹変するというものだが、いやなんのその、ノーマルモードで走っていたってXJRは充分に妖怪めいているのである。なにしろ、言いようもないくらいに速い。このクルマの、550psという数字を底まで覗き込もうと思ったら、それこそサーキットに持って行ったって知りうることは不可能なのではないか。底を知るためには、まるで深い井戸に飛び込むかのような、ある種の覚悟を迫られるだろう。それくらいに加速が底なしなのだ。

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しかしそんな狂気めいたスピードのさなかにあって、ハンドリングはかなり鋭い。セダンならではの鷹揚さは微塵もなく、ズバッと行きたい方向に進路を切り拓く。この重量を右へ左へ切り返してもキャビンの乗員に揺り返しはない。硬く締まったサスペンションの効果は、速度を上げていればなおのこと実感できるだろう。

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だからこそ、路面から来るインフォメーションは結構気になる。道路の継ぎ目なんかをひっきりなしに踏まなければいけないようなデコボコの高架道路を走っていたらそのノイズと振動たるやテキメンで、ビシッ、バシっとショックと音が車内に入るのだ。もちろんその度にハンドルもややブレる。XJRに採用されているタイヤは、前輪265/35ZR20、後ろ295/30ZR20というスポーツスペック。この扁平率では仕方ないとはいえ、ちょっと足癖の悪いお嬢さん、という印象は否めない。見た目は綺麗なんですけどね。

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今では良いトコロのお嬢さん然としているXJではあるがしかし、冷静に考えてみたらそもそもジャガーの歴史そのものがモータースポーツと密接に絡み合った、オイルの香りにまみれたものだ。そんな中で走りのDNAを呼び覚まされたのが"R"のエンブレムを持つモデルなんだとしたら、選ぶ方にもそれなりのテクニックを求められるのは仕方ないのかもしれないし、ここまでの弩級スペックはむしろ歴史の正当進化にしか過ぎないのかもしれない。

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試乗が終わってふとセンターコンソールに据えられたアナログのクロックを見たら、その針は長針も短針も、先端のみが赤く染められていた。

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その小悪魔的な演出に、臆病心を見透かされた気がした。「性悪...」そんな風に思った私は、すでにXJRに完敗なのだった。

ジャガー・ランドローバー・ジャパン株式会社 JAGUAR公式HP
http://www.jaguar.co.jp/index.html