【試乗記】
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数週間前のハロウィーンパーティーでは、かなり酔っていた新しい知人が突飛なウルヴァリンのコスチューム(といってもX-メンのキャラクターではなく動物のクズリの方だ。筆者は"クズリの州"の別名を持つミシガン州のアナーバーに住んでいる)から美しい丸底フラスコを取り出し、筆者に呑むように勧めてきた。私は運転して来たわけではなく、嫌なヤツでも馬鹿なヤツでもないので、勧められたウィスキーをグイっと飲んだ。

そのときに飲んだウイスキーはなめらかで、舌に絡みつき、蜂蜜のような口当たりがあり、自分の体を流れる血のように温かかった。おそらく、これまでで最高の一杯というくらい完璧で、それから何杯もウィスキーを口に運んだ。そのお酒について尋ねたところ、レッドブレスト21年という名前だと分かった。そのウィスキーを口にしたことは今まで何度かあったが、これほどまでの幸福感を与えてくれたことはかつて無かった。素晴らしいパーティーの中、良き友人達に囲まれ、最高の音楽を聴きながらちびちびと飲んだウィスキーは格別で、伝説的な思い出の味となった。

それでは、お酒ではなくクルマの話に入るとしよう(「飲んだら乗るな」を忘れずに)。先日、こんな瞬間を経験した。新型「メルセデスAMG GT S」 に乗り、サンフランシスコとラグナ・セカを結ぶカリフォルニア州道の忘れがたい素敵な区間を走っていたときのこと。セコイアの木々が並ぶワインディング・ ロードを、飛ばしながら下っていると、新しいAMG製クーペは私の脳にあのウィスキーを飲んだときと同じ感覚を引き起こした。いくつかのコーナーを走り抜けた時に、パワーやグリップ、サウンド、バランスなど、メルセデスの含有アルコールが、これまで感じたことがないほど親密なコーナリング体験をもたらしたのだ。

その日の後、マツダ・レースウェイ・ラグナ・セカの馴染み深いコースでこのメルセデス・ベンツの最新クーペを走らせた。メルセデスAMG GTの技術的な能力と欠点の少なさは、パーティで味わった夢のような時さえも超越するかも知れない。科学は芸術を超えられない。しかし、クズリが呑ませてくれたウィスキーの二度と味わうことができない見事な感動のように、このクルマの性能は素晴らしい瞬間を運転している間ずっと味わわせてくれるのだ。




このクルマがいかに印象的なクルマであるかは、わざわざ説明する必要もないだろう。ご覧になっている写真がそれを物語っているはずだ。

だがこの新しいGTが、これまで走らせたメルセデス・ベンツの中で最も人を振り向かせるクルマであったことはお伝えしておこう。それが明快な美しいカタチのためなのか、あるいは路上での目新しさからなのか、はたまたそれらが混ざり合ったことによるものか、それとも他の何かのせいなのか定かではないが、官能的な曲線を描くこのメルセデスはどこに行っても注目を集め、首を伸ばして見る人や賞賛のジェスチャーを送る人が後を絶たなかった。

プロポーションだけを見れば、これほど見事な造形のボディパネルが使われていなかったらコミカルになっていたかも知れない。映画『スター・ウォーズ』で宇宙戦艦のスター・デストロイヤーが登場するシーンを思い出させるような堂々と伸びた大柄なフロント部分と見比べると、放物線を描くリアデッキは極度に短い。ロングノーズ/ショートデッキの全体的なスタイルは、クラシックからの影響とオリジナリティの両面を感じさせ、SLS AMGがデビューしたときのことを少し思い出すが、ハードなラインと丸みのあるコーナーが織り交ざったスタイルは独自のものだ。

一方インテリアは、新型の「Sクラス」のコックピットに座ったり運転したことのある人なら、その共通点に気が付くだろう。と言っても、両者のコックピットの見た目が似ているというのではなく、ディテールへの配慮や高品質な素材が同じくらい高いレベルにあるということだ。トランスミッション・トンネルの側面を覆うカーペットからダッシュボードのレザーに施されたコントラスト・カラーのステッチまで、手で触れたり目で見たりする全ての物が豪華に感じられる。




今ご覧になっている写真のインテリアが、筆者の好みの仕様でないことは言っておきたい。写真ではセンターコンソールのパネルがピアノ・ブラックになっているが、他に用意されている艶消しアルミ仕上げの方が好ましく、すっきりしていて、この中心的存在であるセンターコンソールのクールなフォルムを引き立てると思う。

ドライバーの"仕事場"としてのコクピットは、その見た目よりも機能的に優れている。エンジンのスタートボタンを押すとすぐに、フロントのV型8気筒ツインターボ・エンジンがうなりを上げて目覚める。良質なスポーツカーとしての基本は、ほぼすべて満たしていると言っていいだろう。シートは上から下まで横方向のサポートに優れ、ステアリングホイールは想定されるアグレッシブな使用に対し、形状も大きさも非の打ち所がない。まるで鉄人28号のような筆者(身長196cm、体重109kg)であっても、全く問題なく快適な姿勢を取ることができた。

サンフランシスコの都心部からモントレー郡にあるサーキット、マツダ・レースウェイ・ラグナ・セカまでの道のりは、最初に述べたように、この「GT」の能力を証明するのに打って付けだった。"GT"、つまり文字通りのグランド・ツーリングは、高速と低速の両方で運動能力が必要とされる。快適性とパフォーマンスを妥協せず、上手く両立させなければならない。

街から離れ、最初に真っ直ぐ伸びた高速道路に入ると数分で気付かされることがある。このメルセデス車にとって、現実世界をドライブしているときにパワーが問題になることは一切ないということだ。ベース・グレードの「メルセデスAMG GT」が最高出力462hp、最大トルク61.2kgmであるのに対し、今回試乗を行った名前に"S"が付く高性能グレードのメルセデスAMG GT Sは、4リッターのV型8気筒ツインターボが最高出力503hp、最大トルク71.3kgmを発揮するのだ。



アルミニウム製スペースフレームのシャシーに、スティールや軽量合金、マグネシウムなど複数の素材によるボディを載せた車体の重量は3,500lbs(約1,588 kg)以下に抑えられていることも覚えておくべきだ。ライバルとなるポルシェ「911ターボ」ジャガー「Fタイプ R クーペ」アウディ「R8」のV10モデルよりも軽いのだ。

電光石火に反応する7速デュアルクラッチ・トランスミッションを操って走らせると、スロットルを踏み込んでから車体が前へ進むのを感じるまで、遅れは実質ゼロと言っていい。カリフォルニア州道1号線で性能的に劣ったクルマ(ほぼすべてのクルマがそうだった)の横を通り過ぎるのは、いとも簡単で中毒性があった。2車線の道路で遅い交通を次々と追い抜いていくのは、路側の木々や大きな岩から跳ね返ってくるエキゾースト音よりもドラマティックだ。

もちろん、100mph(約161km/h)を越えた時の1人だけの世界も楽しめる。今回の試乗では、ほとんど、"デュアル・モード"のエキゾーストを「スポーツ」モードに設定していたが、標準モードに戻せば、非常に静かなクルーザーに生まれ変わる。高速道路を走行中にラジオを消すと、大きなリアタイアから平均よりも大きなノイズだけが聞こえてくる。しかしそれでもとても静かで、風切り音はほとんど聞こえなかった。

乗り心地とハンドリングに関して言えば、メルセデスAMG GTは硬さと柔らかさの両方を持ち合わせている。と言うのも「AMGダイナミック・セレクト」と呼ばれるモジュラー・ドライブ・システムが搭載され、ドライバーは「コンフォート」「スポーツ」「スポーツプラス」「レース」という4つの中からドライブモードを選択できるからだ。




筆者は、重いステアリングや強力なグリップ性能など、冷徹なやり方で自らのハンドリング性能を表現するAMG製品に慣れていたので、セコイアの木々の間や沿岸の丘を踊るように走り抜けていくメルセデスAMG GTには驚かされたと告白しよう。その時、このクルマは私の手の中でまるで生きているようだった。トランスミッションやスロットル反応、サスペンションの硬さ、ステアリングの重さなどの設定を、筆者お気に入りの「スポーツプラス」に切り替えると、GTは危険なほど簡単に、狭いワインディング・ロードを上品かつ正確に飛ばすことが出来る。もちろん、これは自分の支配下に置くことができる最高にバランスの優れたシャシーによるところもあるが、それ以上に素晴らしいステアリングの感覚によるところが大きい。長距離の走行で疲れるなるほど"おしゃべり"ではないが、ステアリング・ホイールから伝わる感覚は特筆に値する。特にターンインは鋭く、まるで自分がこの動きの速いクルマの質量のちょうど中心にいるかのように、俊敏に向きを変える。

メルセデスAMG GT Sは驚くほど複雑なマシンだ。その理由の1つに、電子部品がドライビング・エクスペリエンスを生み出す主役を担っていることが挙げられる。だが、北カリフォルニアを走ってみると、ドライビング・エクスペリエンスがまったく自然でハイテクによる違和感のないことに驚いた。フィーリングはシンプルかつバランスの取れた昔のスポーツカーと同じ様で、決して道路を走る宇宙船みたいではない。もし、このクルマを自分の物にする理由を探しているなら、どこか険しいコーナー続きの道を走ると良い。きっと厳しいターンに差し掛かる度に自信を感じ、このマシンへの賞賛の気持ちが湧くことだろう。

しかし、最初の例えを引き続き使うならば、新しいお気に入りのウィスキーの2口目は、1口目のように完璧ではなかった。メルセデスAMG GT Sに感じた恋心のような気持ちも、同じ様にはかなく消え去ってしまったのだ。



サーキットに持ち込んで徹底的な走行テストを実施する前から、少し気になり始めていたのが視界の問題だ。低いルーフラインと太いAピラーが妨げの主な犯人だ。特に左に曲がる時に酷く、コーナーに入る度にそれらが直接視界を遮ってくる。逆に右に曲がる時には、バックミラーが一般的な形状のクルマよりも割合的に大きく視界を奪う。確かにクルマによく似合っていて、その部分だけを見れば好ましいし、後方と側方の視界があまり良くないことにも我慢できるが、前方の死角はできる限り減らすべきだ。

試乗の最後にラグナ・セカのサーキット(右コーナーより左コーナーの方が多い)を周回した際、コーナーの入り口で進入ラインを決めようとするとき、やはりこの忌まわしいピラーに視界を遮られてしまった。筆者はレーシング・ドライバーではないが、たまにヘルメットを着用することがある。視認性の問題は非常に大事だ(ちなみに、このメルセデス最大のライバルとなるポルシェ 911では、このような煩わしさは感じたことがない)。

公道では、メルセデスAMG GTのバランスの良さや優れたステアリングの操作性を楽しむ余裕を持てた。一方サーキットでは、ドライビング・エクスペリエンスは最上級のエンジン・レスポンスとタイヤの性能に支配された。コーナーで正しいラインに乗せるだけで、フロント幅265、リア幅295の「MICHELIN Pilot Sport Cup 2」タイヤは、高速で驚くべきメカニカル・グリップを発生し、スロットルを開けたときに湧き出るパワーを見事に伝えてくれる。

サーキットでは「スポーツプラス」と「レース」の両ドライブモードで周った。前者はモータースポーツとしての使用を考えた場合、少し制御され過ぎている感じを受け、後者はリアが解放される感じがした。「レース」モードでは、ナイフのようにコーナーを攻めるとおそらくパワーオーバーステアの状態になっていたと思うが、これは筆者のスキルが原因で、マシンの精度によるものではない。有望なオーナーがその能力を必要としたときのために、AMGの技術者たちが、レーシング向けのプラットフォームを採用したことは間違いない。



普段とは逆のことを言うようだが、メルセデスAMG GTに限っては、サーキットで走らせるよりも公道で走らせる方が良い。もちろん、このGTはサーキットをとても速く周れるが、筆者には公道で楽にグランドツーリングできる良さの方がより印象的に映った。そういう用途でなら、このメルセデスはクラス最高の1台である。だが、サーキットでは数多溢れる高級スポーツカーの単なる新顔に過ぎない。

この高性能なメルセデスAMG GT Sの米国における販売価格は、12万9,900ドル(約1,530万円)からと発表された。発売は今年の4月。ベース・グレードのメルセデスAMG GTは2016年の春に追加される予定で、こちらの価格はまだ明らかにされていないが、11万ドル程度になると見られている。販売が開始されたら、BMWやアウディ、ポルシェ、ジャガーなどのライバル車のバックミラーから見える位置に躍り出ることは間違いない。各社のモデルを比べると、パワーやウェイト、そして価格などの面で興味深いトレードオフを見出すことができるだろう。しかし、そんなスペックの数字よりも、第一印象で受ける衝撃とメルセデスのデザインが与える美しさへの感動の方が、多くの人々に支持されるのではないかと思う。

思いも寄らない素晴らしい瞬間が、人生には時折降って湧くことがある。例えばパーティや郊外の道などでその訪れを感じた時、それをもたらしてくれた宇宙に感謝できたら言うことない。そんな宝物のような瞬間を与えてくれるクルマなら、黄金の昼下がりであろうと、静寂に包まれた早朝だろうと、チャンスを逃さず乗るべきだ。






【基本情報】
エンジン: 4.0リッターV型8気筒ツインターボ
パワー:最高出力510hp/最大トルク71.3kgm
トランスミッション:7速デュアルクラッチトランスミッション
0-100km/h: 3.8秒
最高速度:310km/h(リミッター作動)
駆動方式:後輪駆動
エンジン搭載位置:フロント・エンジン
車両重量:1570kg
座席数:2
複合モード燃費:約10.5km/L
テスト車両価格:13万ドル(約1,530万円)(推定)

By Seyth Miersma
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
監修:日下部 博一

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