ホンダは12日、3列6人乗りシートを備えたハイブリットカー「ジェイド」を発表。13日から販売を開始する。

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フィット ハイブリッド」をベースにしたSUV「ヴェゼル」、4ドア・セダン「グレイス」に続く第3のモデルはミニバンか、とお思いになる方が多いとは思う。だが、実車を見て、開発に携わった方々のお話を聞くと、決してそうお手軽な商品企画というわけでもないようだ。

基本はホンダのクルマ作りでお馴染みの「M・M思想」。"マン・マキシマム/メカ・ミニマム"、つまり車内空間を乗員に最大限割り当て、機械は最小限に押し込める、という考え方だ。ジェイドの車体サイズは全長4,650mm × 全幅1,775mm × 全高1,530mmと、ヴェゼルより355mmも長く、5mmだけ幅広く,75mmも低い。ホイールベースも150mm長い。単にホイールベースとリアのオーバーハングを延長して3列目のシートを装備するだけではなく、ルーフの低いスタイルと、それでも十分な車内スペースを実現するために、様々な工夫が凝らされている。



6人乗りとしたことで、2列目は左右に独立した2脚の座席を備え(アームレスト付き)、それぞれが後輪ホイールハウスを避けて斜め後方(中央寄り)にスライドする「Vスライドキャプテンシート」と呼ばれる新機構を採用。4名乗車時には足元が広く、しかも中央に寄ることで見晴らしの良い快適な後部座席となる。3列目のシートは「大人も座れる」とホンダは言うが、前方2列と比べると不公平感が募るため、実質的には子ども用または緊急用というところだろう。ストラップを引くだけで簡単に5:5で分割して倒せる「床下格納機構」が採用され、フラットな荷室としても使える。

以上のような車体後方のユーティリティを実現するため、これまでの"兄弟"たちが荷室床下に搭載していた、リチウムイオン・バッテリーとパワードライブユニットを一体化した「インテリジェントパワーユニット(IPU)」を、ホンダのエンジニアはなんとセンターコンソール内部に縦に押し込んだ。「ここは今までデッドスペースでしたから」とパワートレインの開発を担当された方は言うが、乗員のすぐ横に搭載するため、安全性と熱対策には非常に苦労されたという。「まず、衝突時の安全を確保するため、ハイテン鋼製の衝突リブで全体を囲みました。放熱対策としては、センターコンソール前方(エンジンルームとのバルクヘッド部)に冷却ファンを装備しています。これは風を送るだけではなく、掃除機の原理で高温となった空気を吸い出し、空気を循環させることで内部の温度を下げます」とのこと。ちなみにコンソールのカップホルダーに置いた飲み物が温かくなったりすることはないそうだ。これはそのまま、他のハイブリッド・モデルにも流用すれば、ハッチバックやセダンでも荷室を広げることが出来るのではないかと思って訊いてみたところ、「技術的には出来ますが、これって実はコストが結構掛かっているんです。1台のモデルに掛けられるコストは決まっていますから、それを何所に使うかということになると、フィット・クラスのモデルでは少なくとも今は難しいですね」というお答えだった。



このIPUの配置をはじめ、さらに燃料タンクや排気システムを薄型化するなどによって、この「超高密度低床プラットフォーム」と呼ばれるレイアウトは実現した。リア・サスペンションに、フィットやヴェゼルと違ってダブルウィッシュボーンを採用したことも低床化に寄与...とプレスリリースには書かれているが、ホンダのエンジニアの方に訊けば、実はその第一の目的は「走りの質を磨くため」だったとか。「3代目オデッセイなど、ホンダのミニバンは走りの性能が良いと言って下さるお客様が多かった。このジェイドは、そんなお客様方に乗り換えとして選んでいただくことも狙っています。現行型オデッセイは先代と方向性がやや異なってしまったので、そういう意味ではジェイドは"3代目オデッセイ"の後継という位置づけでもあります」と仰る。

パワートレインは、基本的にフィットやヴェゼルのハイブリッドと共通の、1.5リッター直噴DOHC「i-VTEC」エンジンに、高出力モーターを内蔵した7速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)とリチウムイオン・バッテリー内蔵IPUを組み合わせた「SPORT HYBRID i-DCD」を採用。圧縮比11.5のエンジンは、フィットではなくヴェゼルと同じだが、ボンネットを低くするため、インテーク・マニフォールドが下向きに変更されている。ジェイドのエンジンが、最高出力131ps/6,600rpm、最大トルク15.8kgm/4,600rpmと、ヴェゼル(132ps/15.9kgm)より微減しているのはこのためだそうだ。それでも、「なるべくパワーが犠牲にならないように苦労してこのレイアウトを作り上げた」という。

ヴェゼルより車両重量が240kgほど重くなっていますが(1,510kg)、と質問してみると、「確かに、全開加速を比べれば遅いことは間違いないのですが、実際にそういう走りをされるお客様はわずかですし(笑)、それよりもアクセルを徐々に開けていったときにパワー不足を感じないようにソフトウェアで調節しています」とのことだった。「そもそもヴェゼルのとき、目標値よりもパワーが出たので、ジェイドも十分走ると思いますよ」と付け加える。電気モーターの最高出力29.5ps、最大トルク16.3kgmというスペックは、他のモデルと共通。JC08モード燃費25.0km/Lという数値は「クラストップレベル」だそうだ。

それにしても、吸気マニフォールド部分の高さを下げる工夫をしても、低くなるのはボンネットだから、それで室内空間が広くなるわけではない。なのに、どうしてそんなことまで? と訊いてみると「前が低い方がカッコイイじゃないですか」とのお答え。"カッコイイ"と軽い言い方をすると誤解を招くかも知れないが、要するにスタイリッシュなデザインということは、最初から開発コンセプトにあったという。「若い頃にプレリュードやインテグラなどに乗っていた方に、乗ってもらいたい」そうだ。なるほど、と思った方は40~50代だろうか。




もちろん、ボンネットが低ければ運転席のシートも下げられる。実際に座ってみると、最近の実用車では珍しいほど、着座位置が低い。スポーツカー並み、とは言い過ぎだが、スポーツシートを持つ多くのホットハッチよりも低いくらいだ。ただ、残念なのは、パドルシフトが見当たらなかったこと。せめてオプションとして用意して欲しかった。インテリアはブラックのファブリックが標準だが、上級グレードの「HYBRID X」ではファブリックとプライムスムースのコンビとなり、ブラックとアイボリーから選べる。それぞれのカラーに合わせた素材感の木目調パネルも付く。オプションで本革シートも用意される。



ミリ波レーダーと単眼カメラを併用する先進安全運転支援システム「Honda SENSING」は「HYBRID X」のみ標準装備(エントリー・グレードの「HYBRID」にはオプションで装備可能)。その機能の1つである衝突軽減ブレーキは、歩行者まで検知対象を拡大したという。

もう1つ、「HYBRID X」のみに標準装備される新技術に17インチ「ノイズリデューシングアルミホイール」というものがある。これは路面のつなぎ目や荒れた路面を走行するときに、タイヤ内部で発生する共鳴音から引き起こされる中周波帯ロードノイズを低減するというホンダ独自の静粛性向上技術で、現物を見ると、何やらホイールの胴の部分に黒い物体(レゾネータ)が貼られている。これも一度発明してしまえば簡単に他車種にも応用が利きそうだが、やはり意外とコストが掛かるそうだ。



また、内装の細かなパーツや素材など、他車種と共有しているものは、フィットよりむしろシビックと同じ物を使っていたりするという。発表会やプレスリリースでは、「高級」という言葉は使わずに「上質」と表現していたけれど、紛れもなくフィット・クラスより上級な仕立て、技術が用いられている。何しろオデッセイの顧客を受け継ごうというのだから、それも当然と言えるだろう。

エクステリア・デザインについては好みもあるだろうが、若者が乗れば品が良く、お歳を召した方なら若々しく見える、幅広い年齢層の人が抵抗なく乗れるクルマだなと筆者は思った。ただし、「ジェイド(翡翠)」という名前にも拘わらず、全7色が用意されるボディ・カラーに翡翠を思わせるグリーン系がないことは残念。きっと似合うと思うのだが。もう少しアグレッシブさが欲しい、という人には、外に展示されていたホンダアクセスによる純正用品装着車「Modulo」仕様や、さらにスポーティな「無限」製パーツによるカスタムも(下の写真)。



単に車体を伸ばして居住スペースを稼ぎ出しただけでなく、スタイリッシュであること、そして走りの資質も目標値を高く設定し、さらにハイブリッド・パワートレインと先進安全技術、その他の独創的な技術で各方面の完成度を高めた、ジェイドは実に欲張りなクルマだ。そして実にホンダらしいクルマ作りだと思った。単なるフィットのロングボディ版なら、もっと安く作れただろうに...とか、カッコと走りを妥協すれば、もっと室内が広くなったのでは...という思いも頭を過ぎるが、そういうクルマ作りは他のメーカーに任せればいい。市場調査で「お客様の声を聞いた」とホンダの方は話していたが、何よりまず、「ホンダ・ファンの声を聞いた」のではないかとさえ思われた。あとは是非、ご自身で試乗されその出来映えを確かめていただきたい。消費税込み価格は「ジェイド HYBRID」が272万円。「ジェイド HYBRID X」が292万円。装備の差を比べると「HYBRID X」の方が断然お買い得ではないかと思う。詳しい情報は以下のリンクから公式サイトをどうぞ。

ホンダ 公式サイト:「ジェイド」

ホンダ 公式サイト
http://www.honda.co.jp



By Hirokazu Kusakabe