Rolls-Royce Phantom

ロールス・ロイス・ファントムである。言うまでもなく世界最高峰の超高級車である。
ロールス・ロイス社の設立は1906年。それを遡る2年前。設立者の一人であるフレデリック・ヘンリー・ロイスは10HPという2気筒1800CCの自動車を開発する。

ROLLS-ROYCE 10HP, TWO CYLINDER CARSIR HENRY ROYCE
(ROLLS-ROYCE 10HP, TWO CYLINDER CAR) ( SIR HENRY ROYCE)

もう一方の設立者となるチャールズ・ロールスとクロード・ジョンソンは、当時ヨーロッパ車の輸入代理店を営んでいた。2人は知人の紹介で10HPに試乗することになる。そして、その性能に感銘を受け、ロイスの作るクルマを独占販売する契約と結ぶ。
以後ロイスの作るクルマはロールス・ロイスブランドとして製造・販売することになる。
その後チャールズ・ロールズの要請で3気筒の15HP、4気筒の20HP、6気筒の30HPを開発。当時のイギリスでは群を抜いた性能を誇っており、ロールス・ロイスはいよいよ高く評価されることになる。

CHARLES STEWART ROLLSCLAUDE JOHNSON
(左:CHARLES STEWART ROLLS 右: CLAUDE JOHNSON)

1906年ロールス・ロイスは30HPに代わる新型6気筒車40/50HPを発表する。そのテスト用モデル=シルバー・ゴーストは1万5000マイルに及ぶ過酷な連続耐久テストをノントラブルで走破。名声はいよいよ高まることとなった。
またテスト車の愛称シルバー・ゴーストが、そのまま40/50HPの通称として用いられることになった。ちなみに排気量は7036㏄で、出力は50HPを発生した。
シルバー・ゴーストは、はじめ「世界最高の6気筒車」として売り出されたが、後に6気筒がとれ、「世界最高の自動車」と名乗るようになる。それはそのままユーザーに受け入れられ世界各国の王族や富豪に大きな支持を得る。ちなみに大正天皇の御料車もシルバー・ゴーストであった。
シルバー・ゴーストの後継車として1929年に登場したのがファントムである。ファントムはロールス・ロイス・モータースが1929年から1991年までファントムⅠからファントムⅥまで6世代を製造し、BMW資本のロールス・ロイス・モーター・カーズが2003年から新たにファントムを生産している。
ROLLS-ROYCE PHANTOM I
(ROLLS-ROYCE PHANTOM I )

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ロールス・ロイス・モーター・カーズはBMWが1998年に設立。ロールス・ロイス ブランドの乗用車の製造販売を行っている。
ロールス・ロイスの真骨頂は、なんといってもその静粛性にある。それは1920年代にシルバー・ゴーストからファントムにモデルチェンジするときから、すでに静粛性を優先する思想が貫かれていた。1920年代徐々に実用スピードが高くなり、シルバー・ゴーストのエンジン性能では、上昇する実用速度に対応するには不足気味と言わざるを得なかった。そこで時期型となるファントムに搭載するエンジンが検討されたのだが、その際圧縮比を上げれば性能アップが可能だったにもかかわらず、圧縮比アップすれば滑らかさが失われるため、エンジンを新たに開発したのだという。結局OHVの6気筒7668㏄エンジンを開発し搭載する。ちなみに当時のパワーは公表されていないが、およそ90HP程度といわれている。
ROLLS-ROYCE SILVER GHOST
(LONDON TO EDINBURGH TOP GEAR CENTENARY TRIAL 1701 WITH ERNEST HIVES (LATER LORD HIVES) AT THE WHEEL)

現代に蘇ったファントムは、BMW製60度V12気筒48バルブ6749㏄を搭載し、最高出力460ps/5350rpm、最大トルク720Nm/3500rpm。圧倒的な出力を与えているところがいかにもBMWのエンジニアらしいが、同時にエンジンはこの排気量にして精密機械のように精巧な回転感があり、ボンネットの横に立っていてもエンジンが回っているかどうか判断がつかないほど静かである。

Rolls-Royce Phantom Rolls-Royce Phantom

それにしても、改めてファントムを眺めてみるとその大きさに圧倒される。ベースグレードは、全長5842mm、全幅1980mmm、全高1638mm。

Rolls-Royce Phantom

ドアサイズも大きい。リヤシートはコーチドアと呼ばれる観音開きのドアを開けて乗り込むことになるのだが、シートが高く、またドアが厚くその分シートが中に入っているので、普通の乗用車のように腰からシートにアプローチするのは難しい。

Rolls-Royce Phantom

まず毛足の長いカーペットを踏んで体をかがめてクルマに乗り込み、体の向きを変えて座るのがスマートだ。室内高もそれを許容する高さがある。ドアは、Cピラーに付けられたボタン操作で閉めることができる。フェーズ1ではかなり乱暴な閉まり方をした記憶があるが、ファントムⅡになって、ドアの閉まり方がだいぶ穏やかになった。とはいえすべての動きを電動か油圧で制御しているという感じはない。考えてみれば、基本的にこのクルマに乗り降りする際は誰かがドアの開閉をやってくれるのだ。たまたまそういう人がいない場合にドアを閉めるためのボタンということなのだろう。

Rolls-Royce Phantom Rolls-Royce Phantom

リヤシートは素晴らしく座り心地がよく、適度にクッションを利かせラグジュアリーな感覚を保ちながら、そこはかとなくホールド性もよく、穏やかに体を支えてくれる。そのため交差点やカーブでも体がずれることがなく、ゆったりと座っていられる。シートバックの前後と座面の前後、ランバーサポートがセンターアームレストに取り付けられたコントローラーで調整ができるようになっている。

Rolls-Royce Phantom Rolls-Royce Phantom

乗り心地は見事。フリクションが少なく微細な変化にもスムーズに動き出すダンパーのしっとりとした乗り心地、2・8トンの車重が作り出す慣性重量を上手に生かしたフラットライドな乗り心地。感覚的にはしずしずと滑らかに走ってくれるような上質な乗り心地。さすが世界最高峰の乗り心地。
やはりこのクルマは後席に乗るべきクルマなのだと思う。

Rolls-Royce Phantom

ただ、じつは運転も案外楽しい。細身のグリップの大径ステアリングはいかにもショーファーカーといった見栄えだし、ステアリングも軽い。ステアリングを力を入れて握らなくてもハンドル操作ができる。初めはちょっと心もとない感じがしたが、慣れると思いのほか運転しやすいことに気付く。ステアリングは軽いぶん手応えも少なめだが、少ない手応えの中でかなり正確に反応が出ているのだ。しかもハンドル操作に対するクルマの動きが正確。

Rolls-Royce Phantom

例えばカーブを曲がっているときに、指一本分切り足したり戻したりといった操作をすると、ちゃんと操作どおりにクルマが動いてくれるのだ。乗り心地はソフトで穏やかなのだが、操作に対するクルマの動きは決してゆるくないのだ。

Rolls-Royce Phantom

ハンドル径が大きいので、意識的にゆったりハンドルを切りやすい。人を乗せているときに、不快な横Gや、クイックなクルマの動きを出さないように運転するのも容易だ。
...と書くとショーファーのためのクルマと思うかもしれないが...もちろんその通りなのだが、わりと速いペースで走らせたときも正確度の高い操縦性を見せてくれるのだ。このあたりはBMWのハンドリングに関するノウハウが生かされているのだろうか。シャシーやサスペンション設計にもBMWの技術は盛り込まれているはずだから、そういう意味では、根っこの部分にドイツ車のDNAを持っており、それをロールス・ロイス的乗り味に味付けしているということなのだろう。

Rolls-Royce Phantom Rolls-Royce Phantom

ただし、いくら操縦性がいいとはいえ、この重量のクルマが720Nmの強大なトルクをで豪快に加速する様は、かなりの迫力がある。吹き上がりはすこぶる滑らかでスムーズ。V12 エンジンの振動のなさが機械の精度を得て理論値に限りなく近い振動特性を発揮する。当然のことながら、大出力エンジンではあるけれどアクセルの繊細な操作にも正確に反応してくれる。

Rolls-Royce Phantom

感心するのは、ハードの精巧・精密・正確な作りの良さと、人の触覚、視覚、聴覚といった人の感覚を通じてうっとりさせるようなソフト面での作り込みの良さを強く感じた。
ロールス・ロイス・ファントムは、和洋折衷ならぬ英独折衷の巧みな融合を感じさせる超高級車だった。

ロールス・ロイス・モーターカーズ
http://www.rolls-roycemotorcars.com/ownership/find-a-dealer/japan/