Rolls-Royce wraith

クリスマスのプレゼントとして、エレガントなクーペのインプレッションをお届けしよう。
この世で一番優雅で可憐、それでいて凛と際立った個性を持つ唯一無二の存在、それがロールス・ロイス レイスだ。

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来る日も来る日も新車に乗り、試乗記を書き続けるこんな仕事をしているからこそ、正直にいえばクルマに対して、かなりスレた感覚を持ってしまっていることは否めない。どんなハイスペックなスポーツカーだって、最近は2ペダルである限り、街で乗る分にはただのオートマ車だ。それが我々にとって商材であるかぎり、過分な期待も気負いもないように乗るのが仕事だとも思っている。ちょっとハードボイルドすぎたかな。でも、概ねそんな感じ。職業病なのだ。
しかしレイスである。かつてこんなに無条件で、乙女心をかきたてるクルマが、他にあっただろうか。乗った瞬間にいきなりプリンセスモードがトップギアに入ってホイールスピンするかのような、こんなクルマがあっただろうか(偏った比喩でごめんなさい)。

​ファストバックとは、リアエンドに向けて大きくルーフが傾斜するスタイルのことを指すが、レイスはまさにそれである。

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写真で見ると、あまりに急峻に屋根が傾斜しているから、後席の居住空間を犠牲にしているのではないかと心配になるほどだ。いくらドライバーズカーとしてリリースされたレイスだからといって、ヘッドクリアランスがキチキチでは、ロールスを選ぶ意味はあんまりない。だったら普通にスポーツカーにでも乗っておけばいいのだ。
しかし実物を見れば、そんなことは杞憂(きゆう)だったことがよくわかる。
デカいのである。
あまりに美しくデザインされているために、写真ではその大きさはあまり伝わってこない。しかし、実際には全長5280mm、全幅1945mm、全高1505mmというかなりの巨体。その大きさを誇示することなく、あくまでも軽やかなラインにまとめているのは見事だ。

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逆にいえば、実物を先に見てしまうと、その大きさゆえ美しいファストバックスタイルに気付かないこともままある。シャーリーズ・セロンはもんのすんごい美人だけど、南アフリカ出身ならではのガタイの良さが目立ってしまって、イマイチ日本人にとっては「ゴツいねーちゃん」的印象のほうが先に立つ、ようなイメージだ。

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ロールス・ロイスのシンボル、パンテノングリルのせいか、なんとなく神殿に向かうような荘厳な気持ちで重厚なドアに向き合う。レイスは乗り込みからして、他のクルマと個性を分かつ。
レイスのドアは同社ファントム・クーペ同様にクルマのノーズ側から開く。観音開きの反対である。ヒンジが後方についているのだ。これをコーチドア、日本語に訳すと馬車の扉という。

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かつてセレブリティは運転手にハンドルを任せ、自分は後部座席に乗った。しかし今やハリウッドあたりのヤングセレブはもう、自分で手綱ならぬハンドルを握って、どこにだってカジュアルに出かける時代なのである。

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このコンセプトは、日本のセレブリティにもおおいに歓迎された。車両価格3195万円、日本でも広報担当者曰く「これまでにないほど売れに売れています」だそうな。
当然このレイスに身を預け、さらりと乗り込んだら迎えに行くのはマイ・ガールだ。前方から開くコーチドアは、彼女の長くトレーンを引きずったドレスの裾を汚さずに、身体をシートに納めてもらうためのもの。あくまでも使用シーンがパーティードレス、しかも最上級のフォーマルにフォーカスされているのが憎らしいではないか。
ちなみにクーペならではの大きくて長いドアを閉めるには、ドア内側のボタンを静かに押せばいい。スーッと音もなく、密室が再び生まれるのだ。

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乗り込んだ後もファンタジーは終わらない。
素手で触るのをためらわれるほどに真っ白なレザーシート、そして同色のレザーを使用したセンターコンソール。スピリット・オブ・エクスタシーか螺鈿細工のようにあしらわれたダイヤルは、BMWで言うところのiDrive。システムはBMWのものと同じだから、このスピリット・オブ・エクスタシーをなぞれば、10.25インチのディスプレイに表示される、ナビのマップ上をカーソルが動く仕組みになっている。

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もちろん高級車の証、紳士の証、アナログのクロックもRRマークをちょこんと乗せて、ナビの横に鎮座している。

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ふと天井を見上げると、ルームランプがまとめられているエリアに、なにやらファンシーな柄のボタンがある。大小の星が散りばめられた、可愛らしいボタンだ。
不思議の国のアリスが、「Drink me」と書いてある小瓶に迷いなく手を伸ばしたように、私も吸い込まれるようにそのボタンを押した。
と、その瞬間、天井に無数の星が煌めくではないか。
ランダムな大きさで輝く星々、そのあまりの美しさに息を飲んだ。なんと可愛らしく、まるでシャンパンの泡のように美しいのだろう。まるでおとぎ話のようなのだ。キラキラと輝き続けるその光が降ってきて、すっかり魔法にかけられてしまったようだ。
あまりにロマンティックな車内に、もうため息しか出なかった。堅牢とか、スポーツとか、そういう汗とか体臭なんかの泥臭さは一切排除されている。どんなハイスペックなスポーツカーだって、このレイスの前に来れば一瞬でかすんでしまうだろう。これ以外は無だ。害だ。そんな風に思ってしまうなんて、本当にどうかしている。

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それほどまでにおとぎの国パッケージであるのに、内包したエンジンは恐ろしくパワフルだ。いざエンジンをかけ、その咆哮に耳を澄ませる...が、室内にいる限り、あくまでもそこには高い静粛性が保たれていて、アイドリングだけではそのパワーをうかがい知ることが出来ない。
しかし一旦アクセルペダルに足を乗せれば、グワン!と強大なトルクが生まれるのだ。
6.6リッターV12ツインターボは632psを誇り、81.6kgm(800Nm)を叩き出す。この巨体で0-100km/h加速は4.6秒。

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しかしそこまでのスペックをそなえながら、しゃかりきに攻めるような無粋な仕草は似合わない。否、たとえしゃにむにアクセルを踏みつけたとしても、レイスはどこまでもロールス・ロイスで居続ける。永久に破綻しないのだ。
実際に試乗したステージはサーキット。出来る限りエンジンを回してみたが、どうやったって"底"に到達することは出来なかった。

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コーナーに差し掛かるとわかるが、アシはあくまでも柔らかい。左右にコーナリングが続くときにはお世辞にもリズミカルとは言えない。ぶわんぶわんとまるでクルーザーに乗っているかのような緩やかな揺れを繰り返すが、それはちっとも不快ではないのが不思議だ。むしろ優しく寄せては返す波が船底をなでているかのようで、無粋にクルマを痛めつけようとした自分の運転を責めてしまったほど。やっぱりレイスには、レイスにふさわしい走りがあるのだ。

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コーナーでは荷重の限りに内輪が沈み込むが、キャビンは恐ろしいほどにフラットに保たれていた。そう、これこそがレイスの神髄である。
何故ならば組み合わされたのは8速AT、これがまたすごい。GPSを用いて進路に合わせたシフト操作を"先行"する、その名もSAT(サテライト・エイディット・トランスミッション)が搭載された。
これを体感しようと思うのは、かなり無理がある。正直なところ滑らかすぎて体感出来ないのだ。体感できたものと言えば、完全にストレスのない車内空間なのである。どこまでも安心感のある、守られて閉じられた空間がキープされる。時速100㎞/hでコーナリングに差し掛かるサーキットだというのに、だ。
あくまでも、どうやっても、もう宇宙から監視させる規模で、キャビンを揺らさない。
これがまさに、ロールス・ロイスが「ベスト・カー・イン・ザ・ワールド」と呼ばれる所以だ。

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レイス、その名の由来はベース車となった兄弟車であるゴーストよりもより深遠で、生霊のことを指す。
どう考えても、魅入られてしまったようだ。しばらく夢にうかされたようになってしまったのだった。

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ロールス・ロイス・モーターカーズ
http://www.rolls-roycemotorcars.com/ownership/find-a-dealer/japan/