【試乗記】 新型BMW「i8」(ビデオ付) 官能的なデザインが技術の素晴らしさを引き立てる
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BMWの新型車「i8」を運転する上で忘れてはならない最も重要なこと。それは、i8は同社が誇るM部門のクルマではないということだ。

流麗なスポーツ・クーペ型のデザインやカーボン・ファイバーを使った車体構造、猛烈な加速性能といった要素は自動車愛好家たちを喜ばせるかも知れないが、i8は世界に通用する新たなサーキットのスターを増やそうと考え出され、設計され、組み立てられたわけではない。BMWに新設されたi部門から、革新的なスポーツカーとして生み出されたクルマであり、そのi部門のコンセプトは「モビリティ・サービスにおける将来のビジョン、想像力をかき立てるデザイン、そしてサステイナビリティに裏付けられた新しいプレミアム・カーのあり方を象徴する」というもの。ワクワクするような人々を惹きつける魅力を提供すると同時に、環境を考慮した取り組みをしている。

たとえ短い距離であっても、足を止めてそのスタイリングに見入ることなく、i8が駐車してある所まで進むのは不可能に近い。視覚的にこれほど魅了させる市販車は他にないだろう。間もなく実際に販売される彫刻作品のようなこのBMW車は、2009年のフランクフルト・モーターショーで観衆をうならせた「ビジョン・エフィシェント・ダイナミクス・コンセプト」の本質を全て捉えている。風にとっては単なる空気抵抗係数(Cd値)0.26のクルマに過ぎないだろうが、人間は美しく仕上げられたカーボン・ファイバーとガラス・パネルを見て、未来のクルマを目の前にしていると感じるだろう。




重量を最小限に抑えるため、BMWはi8の車両の全長に渡るシャシーをアルミニウム合金で造ることにした。このシャシーの上には、カーボン・ファイバー強化樹脂(CFRP)製のパッセンジャー・セルが載せられ、アルミニウムと複合材製のボディ・パネルがそれを覆う。さらに、BMWは極限まで重量を落とそうと、エアコンの通気ダクトに発泡性樹脂を(騒音対策面での利点もある)、ケーブル線に軽量なアルミニウムを(通常は銅)使用し、ボルトやネジまでアルミ製(通常はスティール)にした。また、リア・ウィンドウには、合わせガラスよりも薄くて軽く、耐久性のある化学強化ガラスを採用。走る用意のできたi8の車両重量は1,490kgとなり、ホンダ「アコード」(北米仕様のガソリン・エンジン版)とほぼ同じだ。複雑なパワートレインを考えると、この数値はかなり素晴らしいと言える。

バタフライ・ドアは見た目の美しさに輪を掛けているが、ドアを跳ね上げると、分厚いドアシルをまたぐ時の手すりとして使えないため、キャビンに乗り込むのに努力を強いられる。さらに、クルマの乗り降りは足を大きく広げなければならず、無様な格好をさらすことになる(スカートを履いた女性やキルトを履いた男性は乗り降りの練習が必要だろう)。前席と後席が2席ずつ備わるキャビンはドライバーにとっても助手席に座った人にとっても驚くほど快適だが、タイトな後席に人を乗せることはお勧めできない。薄型だが充分に柔らかなバケットシートは前後にたっぷりと可動できる上、頭、胴、肩周りの余裕が十分あって、身長188cmの筆者でも快適な運転姿勢が取れる。低く、足を伸ばせるドライビング・ポジションは申し分ない。




皆さんの期待通り、i8の駆動システムはエクステリアのスタイリングや構造と同様にユニークで、本質的に2つのドライブトレインが搭載されている。シャシー後方には、1.5リッター3気筒直噴ターボ・ガソリン・エンジンを搭載。このユニットは新しくなった2014年型「MINI クーパー」にも採用されているエンジンをチューンしたものだ。後輪の間に配置されたエンジンは、後席の下にある42リッターのタンクから燃料の供給を受けて最高出力231psと最大トルク32.6kgmを発揮し、6速オートマチック・ギアボックスを介して後輪のみを駆動する。一方、シャシー前方には、BMWの電気自動車「i3」と同じ電気モーターが搭載されており、最高出力96kW(131ps)と最大トルク25.5kgmを発生する。こちらは2速ギアボックスとの組み合わせで、前輪の駆動を担当する。2つのドライブトレインを同時に稼働させると、システム合計で最高出力362psと最大トルク58.1kgmを発し、4輪駆動で走行する。燃費は素晴らしいはずだが、北米市場向けの公式な数値はBMWからまだ発表されていない。

i8を始動すると、走行モードはデフォルトで「コンフォート」の設定となる。このモードは電気モーターとガソリン・エンジンの両方を制御し、スポーティな走りと秀逸な燃費の間で見事なバランスを取る。もっと航続距離を伸ばしたければ、「ドライビング・エクスペリエンス・コントロール」スイッチを「ECO PRO」モードに合わせればいいし、最も刺激的なドライビングを味わいたければ、「スポーツ」モードを選択すればいい。また、コンフォート・モードとECO PROモードを選択中なら、モーターのみで走行できるEVモード(eDriveモード)で走らせることも可能だ。全部で5種類の走行スタイルが選択できる。


 
コンフォート・モードで、軽度から中程度にアクセル・ペダルを踏むと、前輪駆動の電気自動車としてやすやすと動き出す。フロントに積まれたモーターの高い音を伴いながら、i8は驚くほど素早く走り出し(発進時のホイール・スピンを抑えるために意図的にトルクを割り当てているように思われた)、どんどんと巡航速度を増していく。i8はポルシェ「911カレラ」よりも全長が約200mm長く、全幅が約130mm広いにも関わらず、機敏な身のこなしで快活に交通の中を走り抜けていく。間違いなく楽しいと言える。特にこの設定で75mph(120km/h)まで速度を出せるのがいい。街中から高速道路に至るまで、日常的な運転の全ての状況において1滴のガソリンも消費せずに走ることができるのだ。

アルミシャシーの前席と後席の中間部分に備えられた5.2kWhのリチウムイオン・バッテリーのおかげで、純粋な電気自動車として最大35kmの距離を航続できる。バッテリーの充電は、BMWの充電設備「iウォールボックス」や公共の充電スタンド、家庭用コンセントから可能だ。最速の充電時間は220V レベル2の充電器を使って1時間半。120V(12A)の家庭用コンセントなら3.5時間かかる。

BMWは見事なドライビング・ポジションを作り上げたし、リサイクル素材や環境に優しい部品をインテリアで革新的に使用していることには敬服するが、i8のキャビンは全てが完璧というわけではない。製造品質は非常に高いし、将来を見越した先進の人間工学設計もとても素晴らしい(ほとんどのスイッチ類はBMWの他のモデルとほぼ同じ位置にある)。しかし、全体的に収納スペースが不足していて、視界もあまり良くない。後席にカップホルダーが2つ(前席は1つ)あるが、ドアの大げさな開閉機構のせいでドア・ポケットがない。ドライバーの手元に小さな収納スペースが1つともう2つの収納ボックスがあるだけだ(どちらも小さすぎて携帯電話さえ入らない)。


 

前を向いている分には視界が遮られることはないが、ドライバーの耳の位置より後ろに太いピラーとスタイリッシュなウィングがあるため、左右に振り返ると視界が酷く妨げられてしまう。また、斬新なリア・ガラス(多くのスマートフォンの画面に使われている素材と同じ)を通した眺めはやや歪んで見える。サイドミラーとバックアップ・カメラが外の世界をよく映し出してくれるのが幸いだ。

コンフォート・モード時にアクセル・ペダルを踏み込むと、リアに搭載されたガソリン・エンジンが後輪を駆動して推進力を増そうと目を覚ます。そしてアクセルから足を離せば、直ちに眠りに戻る。興味深いことに、このモードでは1.5リッター・エンジンはほとんど音を発生しない。ドライバーがエンジンの作動を確認するには、フラットパネルのディスプレイを見て、風切り音とタイヤノイズに混じって僅かに聞こえてくるすすり泣きのようなエキゾーストノートに意識的に耳を傾ける必要がある。まずはそのほぼ無音に近いサウンドによって、i8はBMWのM部門のクルマではないことを思い知らされるのだった。

燃費を最適にしたい人は、EVモードを有効にしてECO PROモードでi8を走らせるのがいいだろう。そうすればi8は計画的にバッテリーの電力を消費し、なくなればエンジン駆動に切り替える。このとき、i8は"効率最適化"の役割に徹して、不必要な電力消費(例えば、エアコン、シート・ヒーティングなど)を抑えて航続距離を最大限に伸ばそうとする。この燃費向上の設定でi8を走らせれば、航続距離は満足のいくものになるだろうが(通りすがりの人に手を振られたり、親指を立てられたり、写真を撮られたり、BMWの素晴らしいデザインを見せびらかすことにもなる)、攻めがいのある道路では全てのシステムを100%稼働させる必要がある。BMWはこれをスポーツ・モードと呼んでいる。もちろん、 5つの走行モードで筆者の一番のお気に入りだ。




スポーツ・モードにはシフトレバーを左に倒すだけですぐに切り替えられる。するとダッシュボードのテーマカラーが落ち着いたブルーから熱気を帯びた赤に変わり、すぐさまガソリン・エンジンに招集がかかる。予想外にハスキーな咆哮が伴うことは嬉しかった。これほど良い音が聞ける3気筒エンジンは今までなかった。ただし、これは少なくとも部分的なものだ。というのも、BMWのエンジニアによると、i8のパワートレインが奏でるミュージックは、本物のエキゾーストノートとキャビンのスピーカーから流れる増幅されたサウンドをミックスしたものであるというからだ。i8が筋骨たくましくアスリートの側面をさらけ出したので、筆者はもっと攻めがいのある道を探すため、まっしぐらに高速道路へ向かった。

電気モーターとガソリン・エンジンの両方の推進力を持つi8は、最新鋭の宇宙船のようだ。BMWによれば、0-60mph加速は約4.2秒(日本公式HPでは0-100km/h加速4.4秒)で、最高速度は155mph(250km/h)で電子制御リミッターが作動するという(両パワープラント稼働時)。実際に走らせてみてこれらの数値を疑う理由はなかった。とにかく速い。パワー・デリバリーは得られるグリップに応じて意図的に制御されているようだ。そのため、発進時はホイールスピンが起きないようにゆっくりと走り出し、急激にスピードが上がる。滑らかに回る1.5リッター3気筒と見事に連動するオートマチック・ギアボックスは素早く歯切れ良くシフトアップし、シフトダウンの時はブリッピングを入れて回転を合わせる。エンジンの回転マスは非常に小さく、申し分のない俊敏なレスポンスを示して軽快に吹け上がる。




フロント・アクスルはダブルトラック・コントロールアーム、リア・アクスルは5リンク式のサスペンションでアルミ製シャシーに組み付けられている。どちらも重量を最小限に抑えるためにアルミ合金が広く使われている。ダンパーは選択されたドライビングモードに応じて調整される電子制御可変式だ(BMWの「ダイナミック・ダンパー・コントロール」)。4輪ディスク・ブレーキ(前が4ピストン・キャリパー、後ろが1ピストン・キャリパー)には、減速時に運動エネルギーの回収を行なう回生ブレーキシステムが備わる。ブレーキ・ペダルは筆者の好みよりも弾力が強すぎて、その感触に驚いたが、シームレスに統合された回生ブレーキに違和感はなかった。

i8の構造は他のBMW車とは異なるが、それは乗り味にも言える。ダンパーが一番柔らかい設定になっている時でさえ、挙動が硬い。しかし、シャシーの剛性が高いため、不意に現れる路面からの衝撃や凹凸があっても落ち着きを失うことはない。車輪が衝撃に遭遇すると、ただちに次の任務に移るのだ。全体として、高速走行時のキャビン内は静かだった。高速道路では風切音が小さく、僅かなタイヤノイズが最大の騒音となる(オプションで用意されている280ワットのハーマンカードンのオーディオにアップグレードすれば容易に騒音を消せる)。

高速道路を下りると、トランスミッションのセレクターをスポーツ・モードに戻して山道に向かう時がやってきた。i8は力強く引っ張り、身体がシートに押しつけられる。ガソリン・エンジンの甘美なサウンドがそれをさらに引き立てる。ステアリング・ホイールに備わるパドルを駆使して次から次へとシフトチェンジすると、素早くギアが切り替わるたびに後方から咆哮が聞こえてきた。最初の数コーナーは注意深く走ったが、その後はi8をどんどんと激しく走らせていった。



全てのクルマに言えることだが、スピードを上げ、アグレッシブに走らせると、それまで気づかなかった問題が明らかになることが多い。例えば、スロットルの反応は、街中ではクイックに感じたのだが、急に僅かな遅れを感じるようになった。システムのコンピュータが、前輪のモーターと後輪のエンジンの、どちら側にどれだけパワーを適用するか計算する際に、ほんの0.1秒ほどの間があるのだ。ステアリングのフィードバックも街中では良かったのだが、特に大きく切り込んだ際に、情報伝達が不足するように思えてきた。また、ターンイン時にはシャープさも失われてしまった。i8のプラットフォームは終始バランスが取れていて、コーナリング時の姿勢はフラットに保たれる(i8は50:50の前後重量配分と路面から457mmという低重心を誇る)。しかし、フロント・タイヤがすぐに酷使されてしまうと、アンダーステアが酷くなる。

ホイールとタイヤの選択に関しては、エアロダイナミクスや転がり抵抗、重量、グリップ性能の間で細かい妥協が必要だったようだ。i8は標準で軽量な20インチ鍛造アロイ・ホイールを装備し、フロントに195/50R20、リアに215/45R20のタイヤが組み合わせられている。筆者の試乗車はありがたいことに、オプションとして設定されている、僅かに幅が広いブリヂストンの「ポテンザS001」タイヤを履いていたので、サイズは前が215/45R20で後ろが245/40R20だった(BMWはこのモデルにランフラットタイヤを採用していない。やった!)。メーカーではこれを"ウルトラ・ハイ・パフォーマンス"タイヤと呼んでいるものの、スポーツカーの役割を務めるクルマに履かせるタイヤとしては単純に幅が狭すぎる。特にi8のようなクーペのカッコいいノーズを適切なラインにとどめておく任務を負っているのならなおさらだ。山道の中速コーナーでステアリングを思い切り切って前輪の向きを変えようとする場面では、再びi8がMカーではないということを思い出させられた。実際、「M6」なら同じようなことに挑戦しても笑い飛ばせるし、タイヤが冷えていても問題なくこなせる。



試乗が終わって筆者がi8のタイヤについて質問すると、BMWのi部門の人たちは誰1人として瞬きさえしなかった。そして彼らは微笑みながら、i8が本来計画された通りにほぼ造られ、その開発中に"M"の文字が出てくることはなかったのだということを筆者に分からせた。iモデルはBMWのラインナップの中でMモデルと対極に位置し、他の量販モデルはその間を占めているのだ。チームのミッションは新たなフラグシップ・スポーツ・クーペを造ることではなく「明確に将来を見据えたサステイナビリティにフォーカスしたスポーツカー」を設計することで、「BMWのスローガンである"駆けぬける歓び"の革新的な解釈」をすることである。

そのミッションに集中したBMWのi部門のエンジニアリング・チームは、成功したと言えるだろう。BMWのi8はハイブリット革命による新境地を開拓したわけでも、燃費の新記録を樹立したわけでもないが、アルミとカーボン・ファイバーのクーペは車体構造やパワートレインの融合、全体的な運転のしやすさ、スタイリングの面で驚くほど先進的だ。些細な欠点は官能的な美しいボディ・ラインの陰に隠れてしまう。また、オーナーのほとんどが実際に運転して感じるような、現実の路上におけるパフォーマンスに関して言えば、魅力的でとても楽しめるものだ。

従来のハイエンドなスポーツカーはi8を意識する必要はないが、テスラ「モデルS」にとっては警告となるだろう。環境意識の高い人が、より刺激的な新しい恋人を見つけてしまったかもしれないのだから。

【基本情報】
エンジン:1.5リッター直列3気筒ターボ+モーター
パワー(システム・トータル):最高出力362ps/最大トルク58.1kgm
トランスミッション:6速AT+2速ギアボックス
0-60mh:4.2秒
最高速度:155mph(250km/h)〔リミッター制御〕
駆動方式:4輪駆動
車両重量:1,490kg
座席数:2+2
荷室容量:154ℓ
ベース価格:13万5,700ドル(約1,577万円)
日本販売価格:1,917万円

By Michael Harley
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
監修:日下部博一

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