トヨタの新型燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」発表会場からリポート!(後編) 
前編からの続き

エクステリア・デザインについては、こんなことを書くと多数の読者の皆さんから不信の声が上がるだろうことは重々承知しているのだが、写真で見るより実車はずっと魅力的に思えた。決して、"かっこいい"とか"美しい"と感じたわけではないのだが、よくよく見ていると不思議と惹かれるものがある。特にダークブルーのボディ・カラーは凝縮感があって良い。

トヨタの方によれば、このデザインは「知恵をカタチにする」という言葉で表現されているように、細部に至るまで「全て意味がある、機能デザイン」であるという。例えばフロントに大きく開いた特徴的な3つのグリル。これも当然必要だから設けられているそうで、「燃料電池車は熱がこもるんです。内燃機関なら排ガスと一緒に熱を排出できますが、燃料電池車ではわずかな水が出るだけですから。フロントのセンターにラジエターを設置するだけでは足りなくて、サイドの右側にももう1つラジエターを装備しています。左側のグリルの内側にはオイルクーラーがあります」とのこと。ちゃんと3つの口が開いている理由があるのだ(もっとも、両サイドのグリルは下半分程度しか実際には開けられていない)。また、フェンダーやバンパーから浮き上がって見えるボンネットは、ヘッドライトからAピラーに向かってフェンダーとの間に黒く塗られたスリットがある(だから浮いているように見える)のだが、この部分の形状も「空気を整流する効果があります。風切り音がだいぶ抑えられるんです。私たちはこれを"ウイング"と呼んでいます(笑)」とのことだった。


それにしても、写真で見るとあまり魅力的に見えないのは何故でしょう? と率直に訊いてみた。

「写真だと全体がいっぺんに見えてしまうからではないでしょうか。実車を見るときは、人間の視線は各部分を移動していくように見るんです。だから視覚的なトリック、と言うとだますみたいであれですけど、例えばこのルーフライン。人の視線はAピラーからサイドガラス上端の黒く塗られたラインを"ルーフ"として捉えるんです。その上のボディカラー同色の部分は、"ルーフの上に載っている"と認識します。でも、実はここまでが本当のルーフなんです(笑)。だから実車を見ていくと、実際よりもルーフが低く感じるんですね」

なるほど。魅力の正体は"機能デザイン"と"視覚トリック"によるものかも知れない。どちらの意図にせよ、人が工夫を凝らして作り上げた造形は、惹き付ける力を発散するということか。なお、ミライは6色が用意される全てのボディ・カラーで、ルーフとフェンダー横のスリットがソリッドブラックで塗り分けられる。実寸よりもスマートに見せるために必要だからだ。トヨタではデザインするときにシルバーや白を想定してモデルを製作したそうだが、それらのカラーは確かに"未来感"はあるものの、筆者の印象では前述の通り、ダークブルーマイカや、ダークレッドマイカに好感を持った(イメージカラーのピュアブルーメタリックは、ブラックとのコントラストがややキツ過ぎるような気も...)。塗装には洗車などによる小さな擦り傷を自己修復する「セルフリストアリングコート」が採用されているそうだ。

内装の質感は高く、シート表皮はまるでやわらかな上質のレザーのような手触りだった(実際には合成皮革だそうで、薄く模様が入っている)。特徴の1つでもあるセンターコンソールの「漆黒パネル」は、実際に使ってみないと操作性が分からない。手探りで操作できそうもないからだ。後部座席センターのアームレス トには物入れとカップホルダー、シートヒーターのスイッチが備わる。9インチの専用ナビゲーションは31万3,200円のオプション。ネットワーク通信サービス「T-Connect」は基本使用料が3年間無料。4年目以降も使い続けるなら、1万2,960円/年を払う必要がある。



トヨタはいま、ミライを発売することで、自動車のパワートレインにおけるイノベーションと、そしてもう1つ、社会に対するイノベーションを起こしたいと考えているという。それは水素を活用していく未来、水素社会に向けたイノベーション。様々な一次エネルギーだけでなく、下水の汚泥や、太陽光、風力などの自然エネルギーからも生成でき、電気よりもエネルギー密度が高くて貯蔵も輸送も容易、特に天然資源の少ない日本において、大きな付加価値になる、そんな水素のポテンシャルにもっと目を向けてもらい、「皆さんで歩んでいく」ためのきっかけを起こす。そういう意義もあるのだそうだ。水素というエネルギーを身近に感じられる社会の実現のためには、今のところホンダは"ライバル"ではなく、"パートナーだと思っている"とトヨタの人たちは言う。もっとも、2015年内の生産予定台数がわずか400台(その内、すでに200台は受注済み)というミライにとって、まだ競合車の存在はビジネス上の脅威になるほどではない。

あと気になるのは、今後いつ頃になると、燃料電池自動車が我々庶民にも手が届く価格帯まで下がるかということだが...。こればかりはまだ分からない。トヨタの人たちも無責任な明言は避けた。トヨタでは燃料電池スタックから高圧水素タンクまで、全てのコンポーネントを自社製とすることで、「自ら手を汚して」改良・コスト低減に励んでいくという。将来的にはハイブリッド車と燃料電池車の価格差を、"感覚的に"現在のガソリン車とハイブリッド車の価格差くらいに近付けたい、というのが目標だそうだ。



米国や欧州でも発売が決まっているにも関わらず、「ミライ」という日本語の名前を付けた理由は「トヨタ式生産方式から"カイゼン"という言葉が海外でも知れ渡ったように、日本発の商品として浸透させていきたい」からだとか。余談だが、今から数年前の開発チームでは「市販化されたら、車名は"アクア"以外にないよね」と話していたそうである。もちろん「排出するのは水だけ」という燃料電池車の特徴に因んでいるわけだが、トヨタではすでに別のクルマに使われてしまった...。

価格、デザインなどについて、きっと皆さんも、このクルマに対しては色々と思うところがおありだろう。パッケージングやソリューションなどに関しても、きっと開発陣はその時のベストを尽くしたと思われるが、それはすでにかなりの速さで「過去のベスト」となっていく。例えば50年後、ミライは博物館に記念碑として保存されるかも知れないが、エンスージァストからクラシックカーとして愛でられるクルマにはおそらくならないだろう。ミライとは、その名前とは生憎に、実は哀しいくらい「今」だけのクルマだ。自慢の燃料電池システムが今後さらなる進歩を遂げれば、役目は終わったとばかりに、あっという間にその価値は目減りし、古びてしまうことが運命付けられている。

しかし、どんな未来も、今がなければやって来ない。未来に向けてトヨタが送り出した今のミライに、興味を持たれた方は以下のリンクから公式サイトをぜひご覧いただきたい。

トヨタ公式サイト:MIRAI
http://toyota.jp/sp/fcv/


By Hirokazu Kusakabe

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