トヨタの新型燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」発表会場からリポート!(前編) 
トヨタは11月18日、日本未来科学館で新型燃料電池自動車「MIRAI(ミライ)」を発表。12月15日より販売開始する。昨日の速報に続いて、今回は発表会の会場から、より詳細な情報をご紹介しよう。

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「MIRAI(ミライ)」は、車載タンクに充填した水素と空気中の酸素を、クルマに搭載された装置で化学反応させ、そこから取り出した電気でモーターを回して駆動力とする。一種の電気自動車だが、走行に必要な電力は発電所から供給された電気をバッテリーに充電しておくのではなく、水素を"燃料"にして車内で発電し賄うことができる。この化学反応は水の電気分解の逆。よって排出されるのは水だけ。エンジンのように排気ガスを出さないから環境にやさしく、また電気自動車のように大量の重いリチウムイオンバッテリーに電力を蓄えておくよりも、水素を圧縮すれば多くの"電力の素"を車両に積めるし、充填に掛かる時間も短くて済む、という利点がある。

例えば、ミライと同価格帯(よりちょっと高い)の電気自動車、テスラの「モデルS」だと、85kWhのバッテリーを積む上級仕様でも航続距離は約500kmといわれているのに対し、ミライは車内に搭載された大小2本の高圧水素タンクをいっぱいにしておけば、JC08モードで650kmの距離を走行可能だという。また、テスラ自慢の専用急速充電器「スーパーチャージャー」を使っても、バッテリーの半分まで充電するのに約20分掛かるが、ミライは1回あたりの水素充填時間が約3分程度。さらに災害などで停電した時には別売りの給電器に接続すれば、ミライが水素から発電して住宅や家電に最大9kWの電力を供給することもできる。




あと、問題は価格とインフラ整備、つまり水素ステーションがどれだけ各地に設置されるかということになるだろう。ミライの価格は消費税込み723万6,000円と発表された。日産の電気自動車「リーフ」の2台分以上に相当するが、先に例を挙げたテスラのモデルSに比べたら100万円以上安い。水素ステーションは現在のところ大都市周辺ということになるが、2015年度内に40ヵ所以上の稼働が予定されている。販売もその近辺のディーラーに限られるという。ただし、電気自動車と比較すれば、燃料となる水素の値段が高い。各地で商用水素ステーションを展開する岩谷産業は、水素1kgあたり1,100円で販売すると発表した。これはミライの燃料消費量から換算すれば、ハイブリッド車の燃料費並みということになるそうだ。ランニングコストについては電気自動車の方がずっと安く済む。燃料電池車はエコロジーではあるが、エコノミーとはあまり言えない。

さらにもう1つ気になるのが安全性。ミライでは中層にカーボンファイバーを使った三層構造の強度に優れた高圧水素タンクが、1本は後部座席の下に、そしてもう1本の小さいタンクがリアシート背後に積まれている。2本ともホイールベース内に収まっており、衝突事故の際には車体が変形してもタンクは守られるような設計になっているという。また、高温に晒されて内圧が危険なほど上昇した場合は、あえてバルブを開放して水素を車両の下に向けて拡散するようになっており、爆発を避けるような措置が取られるそうだ。もちろん引火の危険はあるが、それはガソリンでも同じ、ということらしい。ちなみにミライの水素タンクの公称使用圧力は70MPa(約700気圧)だが、その倍の圧力にも耐えられる設計だとか。



スペックについてもご紹介しておこう。全長4,890mm × 全幅1,815mm × 全高1,535mmというサイズは、高さを除けば「クラウン」に近い(ミライの方が5mm短く、15mm幅広く、75mm高い)。ホイールベースは2,780mmと、クラウンより70mmも短く、背が高いこともあってプロポーションはあまりよろしくないということがお分かりになるかと思う。タイヤのサイズは215/55R17。ホイールは7本のスポークをリムまでいっぱいに伸ばしたデザインで、なるべく大きく見せようとしている。18インチも検討したそうだが、かえってずんぐりした見た目になってしまうそうだ。サスペンションは「プリウス」などでもお馴染みの、前:ストラット式コイルスプリング/後:トーションビーム式コイルスプリング。車両重量は1,850kgと、「プリウス PHV」と比べても400kg以上も重い。

前輪車軸のすぐ横に、最高出力154ps、最大トルク34.2kgmを発生する駆動用モーターを搭載し、その上に置かれたパワーコントロールユニットがボンネットを開けると見える。「FCスタック」と呼ばれる発電装置はフロント・シートの床下に搭載して低重心化を図ったという。フロントが軽いため、前後重量配分はトヨタによれば「ミドシップに近い」そうで、優れた操縦性が実現できたとのこと。アクセル・ペダルを踏めば瞬時に立ち上がる大トルクと相俟って、運転が楽しい"FUN TO DRIVE"なクルマになっているそうだ。これは豊田章男社長をはじめとする「いくら環境に優しいからといっても、つまらないクルマに乗ることは我慢できない」という最近のトヨタの考え方によるものだとか。ちなみにライバルと目されるホンダ前日に発表した燃料電池自動車のコンセプトカーでは、この燃料電池スタックをボンネット内に搭載することによって「ゆとりあるフルキャビンパッケージを実現」したとされている。トヨタの開発者の方に伺うと、この辺は様々な考え方があるそうで、トヨタでも2008年に限定リース販売された「FCHV-adv」では燃料電池スタックをフロントに搭載していたそうだ。ミライのFCスタックの重量は約70kg。それでも数年前に比べたら驚くほど軽量小型になっているという。1,500ccクラスの4気筒エンジンよりは軽いが、軽自動車の3気筒エンジンよりだいぶ重い、といえばきっとAutoblogの読者なら、フロントに積むよりも床下に積みたいと考える方が多いのではあるまいか。



さらに、ホンダのコンセプトカーは後部座席に3名が乗れるのに対し、ミライのリアシートは2人用という違いがある。この点についても、トヨタの開発者の方にお訊きしたところ、「5人乗りにすることも技術的には可能でした。でも、我々はミライを高級車として位置づけています。700万円以上で販売するわけですから。なので後部座席はあえて2名用とし、ゆったりパーソナルな空間として乗っていただこうと考えました」とのこと。今後、より手の届きやすい"大衆向け燃料電池車"が実現した暁には、当然4人よりは5人乗りになるだろうという話だ。

ミライの後部座席は、座ってみると確かに横方向はゆったりしているのだが、シートの下には大きい方の水素タンクが収まっており、なだらかに傾斜したルーフラインのせいもあって後部座席のヘッドスペースに余裕がない。身長170cm程度でも髪が天井に触れるほど。これでもシートクッションの厚さを最小限にしたり、ルーフの内張をへこませるなどの工夫を凝らしたそうだが、現状では小柄な人でないと長時間の乗車は辛いだろう。ミライは官公庁や法人からの注文が今のところ多いというが、後部座席に乗る"お偉いさん"から文句が出るのではないかと他人事ながら心配になる。どうしてルーフをもう少し上げなかったのですか? とエクステリア・デザインを担当された方に訊いてみたところ、「空力の設計エンジニアの方から、(ルーフラインは)この形状がベストだから変更できないと言われまして...」とのことだった。後部座席の居住性よりも、空力性能による航続距離の長さ(燃費)を重要視したというところか。