Related Gallery:Infiniti Eau Rouge Prototype Photos

英ミルブルック自動車性能試験場のコースを半周ほど走っただけで、インフィニティはこのクルマを市販化するべきだと確信した。

イギリスのサーキットで筆者が試乗したこのセダンは、2014年1月に北米国際自動車ショーで初披露された「Q50 オールージュ コンセプト」の市販化に向けた開発中のプロトタイプだ。思い出してみると、あの美しいバーガンディ・メタリックで塗装された4ドアのコンセプトカーは、市販車である「Q50」(日本名:日産「スカイライン」)をベースに製作されたもので、インフィニティ・レッドブル・レーシングのF1マシンからインスパイアされたカーボンファイバー製のパーツでアグレッシブな印象を増したボディはエアロダイナミクスも向上し、そのボンネットの下には、3月のジュネーブ・モーターショー明らかになったように、親会社である日産の看板車種「GT-R」から流用した獰猛なツインターボ・エンジンが搭載されていた。

今回試乗したプロトタイプには、コンセプトのような豪奢な塗装は施されておらず、ビニール製の赤いラッピング・シートで覆われていただけだが、動かないコンセプトより実際に走らせることができるプロトタイプのほうがずっと魅力的だ。だからこそ、エンスージアスト向けにチューンされた、他に類を見ないこのマシンに試乗するために、筆者はアメリカから地球を3分の1も旅してこのイギリスにあるテストコースまでやって来たのだ。

ベルギーのサーキット、スパ・フランコルシャンにある、高速コーナーとして有名な「オールージュ」にちなんで名付けられたQ50 オールージュは、様々な意味で興味をそそるプロジェクトだ。まず、この日本の高級車ブランドは、これほど大きなスポーツセダンのフラッグシップ・モデルをこれまでに作ったことがないこと。次に、Q50 オールージュの計画はインフィニティの社長であったヨハン・デ・ナイシェン氏の後押しによるものだったということ(彼はすでに会社を離れ、この7月からキャデラックの新社長に就任したことが発表されている)。そしてもう1つ、このプロトタイプの開発がインフィニティの本社がある香港から遠く離れたイギリスで小規模なチームによって行われているということ。つまり、大企業の硬直した体質による進行の妨げを免れるというわけだ。彼らにQ50という名前を付け替えるほどの過激さはなかったようだが、保守的な日本の自動車メーカーである日産にとっては、かなり過激なプロジェクトと言えるだろう。


 

過去10年の間に、筆者は職人の手によって造られた、値段のつけられないほど貴重なプロトタイプに何度か試乗したことがある。そんな時はどの自動車メーカーも開発中の車両を守るために担当者が助手席に座ったのだが、今回は違った。インフィニティは、筆者に「Q50S ハイブリッド」でミルブルックのサーキットを慣らし走行させた後、1人でオールージュ プロトタイプを試乗させてくれたのだ。GoProが車載カメラとして取り付けられており(文末に掲載した映像がそのカメラのもの。この試乗記用に映像を頂いてきた)、大勢の人がテントの中から見守っていたが、車内には筆者1人きりだ。正直に言うと、かなり緊張した。

少人数からなる開発チームは、シルバーメタリックのUS仕様「Q50S」をドナーにして、このプロトタイプの製作を昨年12月に開始した。コンセプト・モデルが発表されたのはその1ヶ月後だが、メーカーはこれが特別な存在になることを確信していたので、その前からプロトタイプの製作に取り掛かったそうだ。Q50Sをオールージュに作り替えるにあたって、搭載されていた最高出力328hp、最大トルク37.1kgmの自然吸気3.7リッターV6エンジンを含む、全てのパワートレインが取り出された。それだけではなく、元のサスペンションやブレーキ、バンパー、フロントシートも全部取り外された。

表面的には、前述のようにバーガンディ・メタリックの塗装が施されていない点を除けば、このプロトタイプはショーに展示されたコンセプトカーとほとんど同じように見えた。F1マシン「RB9」からインスパイアされた新たなエアロパーツは、魅力的かつ機能的だ。しかし、市販化モデルは浮力を減らすためにトランクリッドにもっと大きなスポイラーが装着され、エンジンルームに空気をさらに送り込むためにフロントフェイシアのデザインも少し変わるだろう。美しい鍛造合金のホイールはフェンダー内いっぱいに収まっていて、車高はQ50Sより20㎜ほど下げられている。このホイールはプロトタイプのために特別に製造されたもので、黒い塗装と切削加工された部分のコントラストが美しい。タイヤはグリップ力が高いピレリ製「Pゼロ・コルサ」の255/35ZR20サイズを装着している。

外観はいろいろと手が加えられているが、内装はほぼQ50Sのままだ。目立った変更点としては、フロント・シートが快適でサポート性の高いレーシング仕様のバケットシートになっており、赤い繊維を編み込んだカーボンファイバー製のトリムが目を引く。計器類や操作系のパーツは変更なし。インフィニティの担当者は、市販化の際には内装にエンブレムが付いて、トリムも特別なものになり、もっと握りが太いスポーツ・ステアリングホイールが採用されるだろう、と教えてくれた。

 


この計画の初期段階で、開発チームではエンジンの候補として3つの選択肢を考えた。最も簡単なのは、Q50Sに搭載されていた3.7リッターV6の 「VQ37VHR」型エンジンをチューンし直して出力を上げることだ。しかしそれでは、このプログラムで必要とするだけのパワーが出ないので、この案はまず却下された。2つ目の案は、北米仕様の「Q70」に搭載されている5.6リッターV8「VK56VD」型エンジンだ。これならば出力の面では十分だったが、やはりこちらも採用されなかった。 VK56VDはSUVやピックアップトラック向けに設計されているため、スポーツカーのスピリットが欠けているのだ。そして最後の案こそが、クルマ好きの皆さんならば当然だと思われるだろうが、完璧な候補として残された理想のエンジンだった。それは、日産「GT-R」に搭載されている、3.8リッターV6ツインターボ「VR38DETT」型エンジンである。

この選択は考えるまでもないように思われるかも知れない。しかし、この「VR38DETT」型をQ50のボンネット下に収めるのは難しい作業となることが分かった。開発チームは、2013年後半からオールージュの製作に取り組んでいたが、1月に北米国際自動車ショーに出展する時期になっても、このエンジンがセダンのQ50に正しく搭載できるかどうか、確信を持てなかったという。クーペ・ボディのGT-RはV6ツインターボに必要な各種ラジエターやインタークーラーを収めるため、エンジン・ルームが少しだけ長く設計されているのだ(今にして思えば興味深い事実:オールージュ コンセプトが1月にデトロイトでデビューしたときには、エンジンがまだ搭載されていなかったので、当時デ・ナイシェン氏はエンジンの出力などをほのめかすだけに留まった。詳細なスペックについては3月のジュネーブ・モーターショーまで明かされなかった)。

Q50のゆったりとした室内でステアリング・ホイールの前にある快適なシートに座り、スタート/ストップボタンを押すとエンジンはすぐに燃焼し始めた。多くの場合、エンジンを移植したマシンはアイドリングが安定しなかったりミスファイアなどの問題が見られるものだが、GT-Rの素晴らしいエンジンはインフィニティのエンジンコントロールユニットからの指令に反応して、停止したままのオールージュのボンネットの下で、落ち着いた音を響かせていた。GT-Rのクロスオーバーした排気管に替わって取り付けられた、排ガス規制に適合するオールージュの排気システムは、エンジンの各バンクごとに2本に分かれたエキゾースト・パイプが車体後部のカーボンファイバー製フェイシアから覗く2つの特別製テールパイプにつながっており、独特のサウンドを奏でる。



エキゾーストの再設計は、最適なトランスミッションを選ぶという途方もない作業に比べれば容易いことだった。思い出して頂くために書いておくと、2+2シーターのGT-Rは、6速デュアルクラッチ・トランスミッションがキャビン後方に搭載されている。このトランスアクスル・レイアウトが、どう見てもQ50のシャシーに合わないことは明らかだ。このギアボックスは論外なので、開発チームはQ70 5.6用のトルクコンバーター式7速オートマチックを「VR38DETT」型エンジンの後ろに直接つないだ。このエンジンにトランスミッションを直接ボルト止めしたのは初めてだ、とインフィニティの担当者が言っていた。

このトランスミッションをプロトタイプに採用したのは、パッケージングの問題から妥協しただけではない。パフォーマンスを重視したGT-Rの電子制御トルクスプリット4輪駆動システム「アテーサE-TS」に替えて、Q70の「インテリジェントAWDシステム」が搭載されたことにも関係している。開発チームは、これは一時的な対応だと認めているので、どんなトランスミッションとAWDシステムが搭載されるかは市販化の際の楽しみとしておこう。プロトタイプのターボチャージャー付き3.8リッター・エンジンは最高出力560hp、最大トルク61.1kgmにチューンされているため、当然ギアボックスには相当の負担が掛かる。これを保護するため、シフトチェンジは動力伝達系のショックを和らげるように、電子制御で遅くなっていた。筆者はインフィニティの担当者からステアリングコラムにあるパドルを使ってシフトチェンジを行うように言われたが、特に問題はなかった。

ミルブルックの「ヒル・ルート」は、その名の通り丘の上にコースが敷かれており、最大で20パーセントの勾配がある2車線のサーキットだ。舗装はあまり滑らかではなく、ランオフエリアは用意されていない。そして、ガードレールが道路の端ギリギリに設置されている(もし機会があれば、米国の南カリフォルニアにあるマルホランド・ハイウェイを走ってみたい。あの山道は道幅が広くて路面は滑らかだし、ボディが擦れて塗装が剥げるような恐怖を感じさせるガードレールもない)。




インフィニティの担当者たちが空調の整ったテントに入るのを見ながら、筆者はギアボックスをマニュアル・モードに切り替え、テストコースに出てアクセル・ペダルを踏んだ。1,825kgもの車両重量がありながら(GT-Rよりも70kgほど重い)、オールージュはこれまでの24年間でインフィニティが製造してきた全てのモデルを置き去りにして、そのLEDテールランプをすぐに見えなくしてしまうほどの、驚くべき加速力で進んでいった(具体的な数字を挙げると、現場のエンジニアによれば0-60mph加速は「3秒台後半」、最高速度は「290km/h以上」になるそうだ)。

間もなく最初のコーナーに差しかかった。オールージュにはエンジンに合わせて調整された新しい電動パワーステアリングが採用されているが、ソフトウェアはまだ改善が必要と思われた(高速では若干軽く感じた)。そうは言っても、コーナーの入り口におけるターンインは素早く、フロントタイヤが路面をしっかりとグリップし、腰が据わったボディは揺らぐことはなかった。

足回りにKW製の調整式コイルオーバーサスペンションと、強化されたアンチロールバーが取り付けられたことで、オールージュはコーナー中盤でも高い安定性を見せた。これらのパーツは素晴らしい効果を発揮し、シャシーを上手くまとめ、ロールをほとんど感じさせなかった。少なくともサーキットでは、このサスペンションにしたのは正解だろう。クルマの底が路面に当たったり、タイヤがフェンダーに擦れることはなかった(ただし、このレース仕様のコイルオーバー・サスペンションは、市販化の際には電子制御式のアダプティブ・サスペンションに変更されるようだ)。




4輪駆動のおかげで、すぐに全パワーを引き出すことができたが、それと同時に駆動力配分が50:50に設定されたインフィニティの悪天候向けAWDシステムの限界も露呈された(ほとんどの高性能車は運動性能を高めるため、40:60のように後輪により多くの駆動力を配分する設定となっている)。このプロトタイプはコーナーをきれいに抜けたが、前輪が引っ張り過ぎるためもっと旋回性が欲しいと感じる時が何度かあった。負荷が掛かりすぎたフロント・タイヤは、コースの最も難しいセクションでグリップを失うことになり、アンダーステア状態に陥ってスタビリティ・コントロールが非常に神経質に作動してしまうことになる。

ミルブルックのコースには、アップダウンや急な勾配がたくさんある。しかし、オールージュにはGT-R用のブレーキ、前6ピストン/後4ピストンのモノブロックキャリパーに、大径スチール製ベンチレーテッド・ドリルド・ローターが装備されていることを知っていれば何の心配もない。下り坂ではいつも力いっぱいブレーキ・ペダルを踏み込んだが、このブレーキ・システムは抗議の意志を示すことはなく、嫌な音がしたり、過熱によるフェードの兆候を見せることもなかった。制動力はまったく変わらなかった。

オールージュは、ミルブルックのヒル・ルートでアップダウンをしながら周回を重ねていった。その間、筆者はたびたびQ50に移植されたボンネット下の、最高出力が232hp、最大トルクは23.9kgmも向上したパワーユニットのことを、聴覚的にも身体的にも、意識させられた。おそらく、"4ドアのGT-R"とも呼べるこのプロトタイプを、多くの人はBMW「M3」やメルセデス・ベンツ「C63 AMG」、アウディ「S4」と比較するだろう。しかし、これらのモデルは全長やホイールベースが幾分小さく、事実としてこのプロトタイプよりも敏捷性に優れ取り回しやすい。実際にオールージュを運転した筆者の感想としては、市販化されたオールージュのライバルとなるのは、もっと大きく、そしてもっと高級な、BMW「M5」、メルセデス・ベンツ「E63 AMG」、アウディ「S6」、そして間もなく登場するキャデラック「CTS-V」といったクラスではないだろうか。



筆者は、ぐったりと疲れるまでオールージュプロトタイプをミルブルックのサーキットで走らせた。試乗当日の朝、オールージュの性能に納得できるまでコースを離れないと誓ったのだが、これを完全に達成することができた。シャシー、エンジン、ブレーキ、タイヤ、サスペンションは申し分ない仕上がりだ。トランスミッションとステアリングには修正の余地ありだが、これらの欠点は既にインフィニティも把握しており、改善に向けて開発チームが血眼になっているところだ。こういった荒削りな部分があったにもかかわらず、筆者は今回の試乗を心から楽しめた。

イギリスに来る際、インフィニティからは大量の禁止事項が告げられて、完成には遠い仕上がりのプロトタイプに乗せられ、おまけに助手席に監視役がついて来るのではないかと予測していた。しかし、そんな予想に反して、筆者はキーを託され、難コースを自由に1人で試乗する機会を得ることができたのだ。こんな風に開発途上のマシンを託してくれたことから、インフィニティがオールージュに掛ける気合いがひしひしと伝わってきた。もし市販化が叶えば、オールージュは強い支持を得ることになるだろう。

オールージュの開発を強力に推進してきたデ・ナイシェン氏がインフィニティを去ったことで、今後の展開に関しては不透明となってしまった。しかし、開発チームは今も社内には2016年モデルとして市販化を推す多くの声があると強調していた(どうやら名前は変更されるようだ)。インフィニティのラインナップには、オールージュの市販モデルが必要なことは議論の余地がない。市販化されたら、インフィニティは世界最高のセダンとなり得る、先進技術を感じさせるモデルを世に出すことになる。少量生産であっても、インフィニティのラインアップに必要とされている、魅力的な外観と技術的な革新を持つ高性能モデルが加われば、人々の目をインフィニティ・ブランドに引き寄せることになるはずだ。

誕生から四半世紀、インフィニティはその存在感を示すのに苦戦してきた。その大きな起爆剤となり得るのが、オールージュの市販化ではないだろうか。





【基本情報】
エンジン:ツインターボ3.6リッターV6
パワー:最高出力560hp/最大トルク 61.1kgm
トランスミッション:7速オートマチック
0-60 mph:3.8秒(推定)
最高速:297km/h(推定)
駆動方式:4輪駆動
車体重量:1,825kg
座席数:2+3
試乗車の価格:プロトタイプのため設定なし

By Michael Harley
翻訳:日本映像翻訳アカデミー
監修:日下部 博一

■関連フォトギャラリー
Related Gallery:Infiniti Q50 Eau Rouge Concept Photos

【PR】オールージュの購入を考える前に!まずは現在お乗りのクルマの査定価格を調べてみよう!
Related Gallery:Infiniti Q50 Eau Rouge Concept: Geneva 2014 Photos

Related Gallery:Infiniti Q50 Eau Rouge Engine Photos

Related Gallery:Infiniti Q50 Eau Rouge Concept: Detroit 2014 Photos

Related Gallery:2015 Infiniti Q50 2.0 Photos

Related Gallery:2014 Infiniti Q50 First Drive Photos

Related Gallery:2014 Infiniti Q50 Hybrid Detroit 2013

■人気フォトギャラリー
Related Gallery:Tokyomotorshow2013-companion-02

Related Gallery:Tokyomotorshow2013-companion-03

Related Gallery:Tokyomotorshow2013-companion-04