【試乗記】
2013年末の雪が舞い降る日、フォードが2月1日より日本で発売する新型「フィエスタ」の試乗会が箱根で開催された。すでに海外では注目の的となっている1.0リッター3気筒ターボを新たに搭載した、欧州フォードが中心となって開発されたこのBセグメント車は、スポーティで楽しくて快適な、なかなか魅力的コンパクトカーに仕上がっていた。

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クルマにそれほど興味がない人なら、青い楕円に「Ford」のロゴが入ったエンブレムを見ると「マスタング」や「エクスプローラー」などの大柄なアメリカ車を思い浮かべる人が多いかも知れない。だが(英語ではなく)スペイン語で「祭り」という意味の名前を持つ「フィエスタ」は、1976年に誕生した初代モデル以来、フォードのヨーロッパ部門が中心に開発・生産してきたコンパクトカー。日本でも先代モデルが2008年まで販売されていたのだが、「輸入車のコンパクトカー」としてはドイツ、イタリア、フランスのライバルたちに比べると影が薄かった感は否めず、最近は輸入が途絶えたままだった。そんなフィエスタに、日本再上陸を予告する知らせが入ったのは2013年11月のこと。Autoblogでこのニュースをご紹介したときには意外と(失礼)多くのアクセスをいただき、日本における"欧州フォード製コンパクトカー"の潜在的な人気を我々も改めて知ることとなり、今回の試乗会に参加させていただいた次第である。



ちょうど日本で買えなくなった2008年にフルモデルチェンジされた現行型フィエスタは、「グローバル・プロダクト」としてヨーロッパだけでなく、北南米、アジア、太平洋地域を含む世界140ヶ国で展開されているという。2012年9月には大掛かりなマイナーチェンジを受けて現在のスタイルとなり、この年のBセグメントカー販売台数世界1位を記録したそうだ。海外では既にベストセラーとしての地位を築いているわけだが、日本導入が遅れたのは「インターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤー」を2年連続で受賞した注目の1.0リッター直列3気筒ターボ「EcoBoost(エコブースト)」エンジンと、6速デュアル・クラッチ式トランスミッション「PowerShift(パワーシフト)」の組み合わせが用意されるのを待っていたから。当面の間、日本で買えるフィエスタのパワートレインはこの一種類のみとなる。

「トヨタ パッソと同じ1.0リッター3気筒」とか、「先代はマツダ デミオと兄弟車」なんてことを考えながら初めて新型フィエスタの実車を目にしたら、まずその堂々とした佇まいに驚かされた。フォード自身は「プレミアム・コンパクト」という流行のフレーズを使ってはいないが、「エコノミー」か「プレミアム」かといえば、フィエスタは間違いなく後者に属する、と見た人は思うはず。「キネティック(躍動的な)デザイン」と呼ばれるボディの造形は、マッシブに膨らんだフェンダーや後ろ下がりのルーフとその後端に装着された大型スポイラーが力強く、さらにイギリスの高級グランツーリスモを思わせるクロームのフロント・グリルがクラスを超えた存在感を主張する(されてしまう)。ボディ・カラーには「ブルーキャンディ」や「ホットマゼンタ」などの個性的なメタリック色が用意されているが、個人的には「フローズンホワイト」という名前の通りクールなソリッドの白が魅力的に映った。ボディに装着された前後スポイラーとサイドスカートの「ボディ・キット」は、日本仕様では標準装備となる。




重くて厚い、しっかりしたドアを開け、シートに座ってインテリアを見回しても"クラス上"の感は変わらない。コストにシビアなことから通常はダッシュボードなどの樹脂について語るべきこともないこのクラスではあるが、フェエスタのそれは触るとソフトなパッドが貼られているような質感で、単なるシボ押し成型樹脂以上の高級感がある。ピアノブラックの加飾パネルやメーターなどの照明、本革巻きステアリング・ホイールとサイドブレーキ・レバーの手触りまで、他社の"プレミアム・コンパクト"を謳う製品に充分匹敵するだろう。ソニー製プレミアム・オーディオ(日本仕様では標準装備となる)に並ぶ小さなスイッチ類だけが見た目では一昔前の印象を受けたが、最近の何でも「呼び出し」式よりも、一発で目的のスイッチが押せる操作性が好みという人はいるかも知れない。センターにビルトインされた4.2インチ液晶ディスプレイは、オーディオや携帯電話のハンズフリー通話に関する情報を表示するだけでなく、シフトレバーをリバースに入れるとリアのハッチゲートに内蔵されたカメラによる車両後方の映像が映し出される。障害物があると警告音で知らせてくれる「リバースセンシングバックソナー」は、かなり低い位置にあるものも感知してくれた。フォード・ジャパンの方によれば「Bセグメントとなると自宅の駐車場スペースが狭い方や運転にあまり自信のない方も多いかと思いますので」これらの機能を標準装備にしたそうだ。

ところでこの液晶ディプレイだが、「グローバル・プロダクト」にもかかわらずというか、だからというべきか、表示が英語のみとなる。しかしこれは他の輸入車でたまに見掛けるような、変なフォントの不器用な日本語表示より、興醒めしなくてよほどいいと思った。高級セダンならともかく、このクラスの輸入車に好んで乗るような人で、今どき英語表示に拒否反応を示す人も少ないだろう。"グローバルな輸入車"に乗っているという特別感が味わえる、とも考えられる。




「START」ではなく「POWER」と書かれたボタンを押してエンジンを始動。3気筒という先入観から意地悪な意味で期待していた振動や騒音はほとんど感じない。フォードのEcoBoostシリーズ最小となる排気量997ccから、最高出力100ps/6,000rpmと最大トルク17.3kgm/1,400-4,000rpmを発生するこのエンジンでは、フリクションロスの要因となるからという理由でバランサーシャフトを採用せず、フライホイールとクランクプーリーを意図的に「アンバランス」としてエンジン振動を相殺する工夫が組み込まれているという。シリンダーブロックには軽量なアルミ合金を敢えて使わず、強靱な鋳鉄製とすることで気筒間距離を狭めており、これにより暖機時間が大幅に短縮されたとのこと。ボンネットを開けると確かに非常にコンパクト。エンジンを覆う化粧カバーの類は潔く装着しない。

自然吸気エンジンなら1.6リッター並みというトルクが、1,400rpmという低い回転域から発生するので、走り始めるとアクセル・ペダルを軽く踏むだけで思わず笑ってしまうほど力強い。箱根の急な山道を軽々と苦しげな様子も見せず上っていく、こんな「リッターカー」はあまりないだろう。1,160kgという車両重量は最新国産Bセグメント車に比べると重めだが、それらの自然吸気1.5リッター・エンジンを積むモデルより、加速している時にはずっと軽快に感じる。フォードが長年ヨーロッパで培ってきたディーゼル・エンジンのテクノロジーを活かしたという低慣性ターボチャージャーと、トルクコンバーターやCVTのような滑り感がないデュアル・クラッチ式トランスミッションの組み合わせは、アクセル・ペダルから駆動輪まで伝わるレスポンスも良く、高回転域まで軽やかに回る。しかもその時に聞こえる音がなかなか太くてまた心地よい。

だが、フルスロットルで加速してみれば、フィエスタはそれほど"速い"クルマではないことにも気付く。アクセルを踏み込んだ瞬間は驚くほど力強くクルマが前へ出たがるのだが、全開にして距離と速度が増すにつれ、思ったより伸びていかない気がしてしまう。最高出力100psなのだから当然とも言えるが、走り始めた時に感じるトルクの太さから、うっかりもっとパワーのあるクルマに乗っている気分になってしまうのだ。もっとも、普段から全パワーを使い切れる楽しさはあるし、かといって非力なクルマに乗っている痛痒感は感じない。長い直線で排気量に勝る相手と加速バトルでもするような状況でもなければ、特に不満は感じないだろう。ちなみにこのエンジンをフォーミュラ・フォードに搭載してニュルブルクリンク・サーキットの北コースでタイムアタックを試みたところ、7分22秒というラップ・タイムを記録したそうだ。



トランスミッションは燃費のこともあるせいか早めにシフトアップしたがるので、「S」ポジションに入れて固定してやると山道では走りやすく楽しい。ただし、レバーに付いているボタンで操作するマニュアル・シフトは、パドルやシーケンシャル・レバー式に比べると「クリック感」に乏しいため少々使いづらく、しかも3,000rpm以下まで落ちないとシフトダウンを受け付けてくれない。もっとも、そのあたりの回転域ではギアを落とさなくてもまったく困らないのだが、普段マニュアルのクルマに乗っている人なら、コーナーの手前でブレーキングしながらついシフトダウンしたくなるはず。そんなときまだエンジン回転が落ちていないと「あれっ」となる。デュアル・クラッチ式のため、変速それ自体は素早いのだが、マニュアルシフト時にはスイッチを押してからシステムが作動するまでのタイムラグが少しある。レバーを引くと瞬時にブリッピングするがクラッチがなかなか繋がらずもどかしさを感じる「セレスピード」時代のアルファ ロメオあたりとは対照的だ。シフト時のショックはほとんど感じない。かといってアクセル操作に対するダイレクト感にも不満は覚えなかった。トルクフルなエンジンは積極的にシフトしなければならない必要性があまりないので、クラッチ・ミートの上手なMT乗りのようなPowerShiftにギアチェンジは任せてしまった方が、かえってストレスは感じないだろう。




195/45R16というスポーティな扁平率のタイヤ(ハンコック ベンタス S1エボ)を履くこともあり、足回りはやや固く感じるが、路面から拾う嫌な衝撃はきちんと減衰され、軽量コンパクトカーにありがちな遅れて揺れが残ることもないので、乗り心地は快適だった。これはサスペンションのセッティングだけでなく、しっかりしたボディやソフトでたっぷりしたシート座面のお陰もあるだろう。ステアリングを切ったときに、ぐらつかず、べたつかず、固めながらすっきりした味付けは、欧州製コンパクトカーに好んで乗るような人なら決して嫌いではないはず。

そんな足回りや快活なエンジンに対し、速度感応式電動パワー・ステアリングは終始軽く、コーナリング性能の限界はまだまだ先であることは分かっても、手応えがやや心許なく感じてしまうため、"初対面"ではあまり攻め込む気分になれなくなってしまう。逆に荒れた路面を走行しているときには、ステアリングに伝わる振動を感知して打ち消す制御を行うという「アクティブニブルコントロール」の効果は覿面で、フロアには伝わってくる振動が掌には伝わってこないという特長が実感できた。長時間ドライブの際には疲労度が大いに違ってくるはずだ。腕の力と気負いを抜いて操舵してやれば反応は充分リニアで正確なので、「スポーツ・モード」のようなアシストを控え目に切り替えるギミックが欲しくなる。

ご存じの方も多いと思うが、海外で販売されているフィエスタにはスポーツ・グレードの「ST」というモデルが存在する。それに対し、日本仕様は一般向け上級グレードがベース。つまり、本格的スポーツ方面は1.6リッター・ターボと6速MTを搭載するフィエスタSTに任せ、それ以外のモデルは性格の違いをはっきり分けていると考えれば、パワー・ステアリングの設定やトランスミッションの仕様にも納得がいく。本来、マニュアルシフトしたかったら3ペダルのMTを買えばいいし、ソリッドなスポーツハッチを求めるのであればSTをどうぞ、ということになるわけだ。



フォード・ジャパンの方のお話によれば、新型フィエスタは「日常で楽しめるスポーティさが魅力」であり、それを見た目でも感じてもらうために、ボディ・キットを標準で装着することにしたそうだ。「"スポーツ"ではなく、"スポーティ"です」と仰っていた意味は、試乗させていただきよく分かった。単なるコスメティックなチューンだけでなく、エンジンも足回りも本当にスポーティで運転が楽しいクルマに日本仕様のフィエスタはなっている。ただし、本物の「スポーツ」、いわゆる「ホットハッチ」を求めてしまうと、もしかしたらオーナーとクルマの間で"性格の不一致"が生じるかも知れない。そういう方にはフィエスタSTをお勧めしたい...ところだが、残念ながら今のところ、日本導入の予定はないそうである。「まずはモノグレードでしっかり売っていきたい」とのこと。日本におけるフォード車の年間販売台数が、全車種合計で3,500台程度(しかもその半分はエクスプローラーだとか)という現在の状況を聞けば、今の段階でおそらくマニアにしか売れないSTまで入れることが難しいということも理解できる。個人的にはSTまで求めずとも、ヨーロッパで売られている125psの1.0リッター3気筒エコブースト+5速MTという仕様(100ps+PowerShiftより少し安い)が気になる。




フィエスタは全幅1,720mmということで日本では3ナンバーになってしまうが、外から見たときの堂々とした印象に対し、中で運転しているときのサイズ感は5ナンバーの国産コンパクトカーとまったく変わらず、視界も良いし車両感覚も掴みやすい。オートヘッドライトや雨滴感知式ワイパーも標準装備。給油口にはキャップがなく、ノズルを差し込むと自動的にシールドがオープンするという「イージー・フューエル・システム」を採用。フタの閉め忘れや手が汚れることがない。衝突被害軽減ブレーキシステム「アクティブ・シティ・ストップ」や7つのエアバッグを装備する安全性能も高く、EURO NCAPでは最高の5つ星を獲得している。

エンジンは力強く足回りの設定は固めなのだが、ステアリングやブレーキ、シートの感触からインテリアのデザインまで含め、人間の手や足、そして目に直接感じる各部の当たりがやわらかい。これを「洗練」と呼ぶにはあまりに「自然」で、そういうところが元来、大衆を大事にしてきたフォードのクルマらしいという気もする。フォードの方によれば「より大きなクルマからダウンサイズされる方にもがっかりさせない装備と質感を備えている」そうで、確かにその通りなのだが、かといって背伸びして高級感を演出するようなあざとさは微塵も感じられない。香りよくきめ細かな噛み応えのある「ブレッド&バター」カーになっている。



フォード・ジャパンの方が「最後まで決まらなかった」という日本における販売価格は229万円。「同じクラスで1番売れている他社製品(具体的な車名を出せばフォルクスワーゲンの「ポロ」)の価格を考えて」設定されたそうだ。フィエスタはJC08モード燃費が17.7km/リッターということで、我が国ではエコカー減税の対象にならないのが辛いところだが、イギリスでほぼ同じ仕様の「Titanium」(5ドア、ボディキット、リアビューカメラ、アクティブ・シティ・ストップ付き)が1万7,000ポンド(約290万円)以上もする(STのベース価格より高いほど)ことを考えれば、フォード・ジャパンはかなり頑張ってくれたと言えるだろう。日本に輸入されるフィエスタはドイツ・ケルンの工場で生産されているとのこと。

お話の最後に「フロント・マスクがアストンマーティンに似ているって言われると思うのですが、それについてはどうお考えですか?」とちょっと意地の悪い質問をしてみたら、フォード・ジャパンの方は「そんな風に思って、楽しんでいただければ」と笑って仰った。かつてはフォード・グループに属していたアストンマーティンだが、今でも技術協力ということでつながりはあるそうだ。次期型「シグネット」はトヨタ iQではなくフィエスタがベース車になる...という話はまったくないらしい。




それはともかく、久々に日本上陸を果たしたフィエスタについては「まず、これまで欧州フォードのクルマが好き、と言っていただいた方には、真っ先に乗ってみていただきたい」という。「それで、良いな、と思っていただけたら、徐々に評判が拡がるでしょうし、それを基盤にブランドのイメージというものも段々作られてくるはず」とお考えになっているそうだ。目標年間販売台数は2,000台くらい?と訊いたら「いやいや、とてもそんなにいかないでしょう」と控え目。ちなみにVW ポロは1万台以上売れている。"人と同じクルマは嫌"という方も、比較的安心して選ぶことが出来そうだ。

広告代理店の創るイメージ戦略に頼らず、クルマの出来映えとそして価格で、地に足を着けたところから勝負していこうという販売戦略も、また実にフォードらしいと言えるのではないだろうか。ヨーロッパのコンパクトカーがお好きな方、そして国産コンパクトカーになんとなく満たされないものを感じている方、是非お近くの販売店で試乗なさってみることをお勧めしたい。3ペダル・ファナティック以外の方には、きっと気に入っていただけるのではないかと思う。フィエスタに関する詳しい情報や販売店の検索は、以下のリンクから公式サイトをどうぞ。

フォード・ジャパン公式サイト:「フィエスタ」

試乗車:2014年型 フォード・フィエスタ
グレード:1.0 EcoBoost

車両寸法:全長3,995mm × 全幅1,720mm × 全高1,475mm
ホイールベース:2,490mm
トレッド:前1,470mm 後1,460mm
車両重量:1,160kg
乗車定員:5名
最小回転半径:5m

エンジン:直列3気筒ターボ
排気量:997cc
内径 × 行程:71.9 × 81.9
最高出力:100ps(74kW)/6,000
最大トルク:17.3kg(170Nm)/1,400-4,000
JC08モード燃費:17.7km/リッター
トランスミッション:6速デュアル・クラッチ式AT(セレクトシフト付)

サスペンション前:マクファーソンストラット
サスペンション後:ツイストビームトレーリングアーム
タイヤサイズ:195/45R16

価格:229万円(消費税込み)

By Hirokazu Kusakabe

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