【CEATEC JAPAN 2012】横浜ゴムの市販低燃費タイヤで、パイクスピークに挑戦する塙郁夫選手!
横浜ゴムは、千葉市・幕張メッセで開催中の「CEATEC JAPAN 2012」に "高い運動性能を誇る低燃費タイヤ" 「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」を出展。この市販用タイヤを履いて、あの「パイクスピーク・ヒルクライム」に挑んだEVマシンも展示されている。来場されていたドライバーの塙郁夫選手に "なぜEVなのか?" "なぜ市販用低燃費タイヤなのか?" その辺りについてお話を伺った。

Autoblogではこれまでに何度もご紹介している「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」とは、アメリカ・コロラド州にあるパイクスピークという標高4,301mの山を舞台に毎年開催されるヒルクライム、つまり山頂目指して駆け上がり、そのタイムを競うレースだ。スタート地点の標高は2,862m。そこから高低差1,440mにもなる、ガードレールのほとんどない約20kmのコースを、156個ものコーナーを走り抜けてゴールを目指す。第1回目が開催されたのは1916年というから日本で言えば大正5年。長い歴史を持つアメリカン・モータースポーツである。



このレースに2009年から、ご自分で設計された電気自動車で参戦を続けている塙郁夫選手は、国内オフロード・レースの最高峰JFWDAチャンピオンシップ・レース・シリーズにおいて1990年から1999年まで前人未踏の10年連続チャンピオンに輝き、2002年には世界的に有名なクロスカントリー・レース「バハ 1000」でクラス優勝を成し遂げた実績を持つ、日本を代表するオフロード・レーシングドライバー。

メキシコの砂漠でV型8気筒エンジンをブン回していた塙選手が、どうして電気自動車(EV)でレースをやろうと思ったのか?

「メキシコ行くとさ、先進国ではもう走っていないような古いクルマが排気ガスを撒き散らしながら走っていているわけ。で、それがもう壊れてダメになっちゃうとね、砂漠に捨てちゃうわけよ。そういう、先進国が犯した過ちを繰り返しているのを見てさ、こんなこと世界はいつまで繰り返すんだろうって思って。環境に配慮したクルマで、この大自然の中を走りたい。そう思ったわけ」

といっても、当時はEVでレース参戦をしている自動車メーカーなどなかった。

「だから自分で作った。乗りたいシートがなければ、自分で作る(笑)。自分で企画して、自分で設計して、自分で運転する」

塙選手が最初にEVでモータースポーツに参戦したは2006年のこと。

「その頃は、レース仲間みんなから頭おかしいんじゃないかって散々言われた。メーカーの人は知らんぷりしてた。でも今はみんなが僕のところに聞きに来ますよ」



EVを作って普及させたいというお気持ちはよく分かった。でもそれなら、現在大小様々なメーカーが取り組んでいるような、市街地向け小型EVのようなものを作るという方が現実的ではないだろうか。出られるイベントも少ないのに、なぜレースを?

「そりゃあ、レースをやらないと技術は進まないから。あのね、新しい技術は戦争とレースからしか生まれないんだよ(笑)。戦争やるわけにいかないから、レースをやるんです。でもね、EV同士のレースじゃないんだよね。やっぱりガソリン・エンジンのクルマより凄いんだぞって、喧嘩売って、勝ってみせないと。納得してもらえないでしょ」

その舞台としてパイクスピーク・ヒルクライムを選んだわけは?

「考えたんです。まず、EVは航続可能距離の問題があるから、長い距離を走るレースには不向き。その点、パイクスピークは約20km。これならEVでも(それほど大量のバッテリーを積まなくても)走りきれる。そして高地で競われるレースだから、エンジンだとどうしても、標高が高くなると(空気が薄くなるから)パワーが落ちちゃう。EVならトラブルがなければずっと同じパワーが出せるからね。しかもパイクスピークはコーナーが156個もある。その間、何百回もギア・チェンジしなければならない。でもEVならそれがいらない。つまり、EVに勝ち目があるわけです。それから有名なレースであること。誰も知らないイベントで勝っても世間が注目してくれないでしょ。パイクスピークは田嶋さん(ご存じモンスター田嶋こと田嶋伸博選手)の活躍のお陰で日本でも知名度が高い。そういう様々な条件を考えると、パイクスピークが最適なんです」

2009年以前もEVでパイクスピーク・ヒルクライムに参戦する人がいなかったわけではなかった。しかし塙選手は2010年にそれまでのEV記録を一挙に1分16秒も短縮。翌年にはさらに57秒も縮め、2年連続でEVにおけるコース・レコードを更新している。

「それで注目されたのか、今年はついにトヨタとか三菱とか、自動車メーカーも参戦して来た。数年前には見向きもしなかったのにね」



さて、ここで横浜ゴムの「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」についても訊いてみたい。塙選手は、この市販の街乗り用エコ・タイヤで今年のパイクスピーク・ヒルクライムに参戦したという。

「そう。しかもパイクスピークって、プラクティスも含めると1週間あるんだけど、その間、1度もタイヤ交換しなかった。他のチームは競技専用タイヤを何十本も持ち込んでいるよね。ウチは1セットで通した」

決勝レースの頃には、いわゆるタイヤの"美味しい所"を使い切ってしまっているのでは?

「それが大丈夫なんです。EVで速く走るには効率が何よりも大事。もともとガソリン・エンジンより遙かに効率が高いのがEVだから。走り方で効率を落としちゃダメだよね。だからオンボード・ビデオを観てもらえば分かるんだけど、僕は一切タイヤを滑らせない。ステアリングの切り方から、ブレーキの踏み方まで、緻密に計算して最も効率のよいドライビングを心掛ける。そうするとタイヤも減らない。EVでは "究極のエコ・ドライブ" が "1番速い走り方" なんです」

そうして達成した今年のタイムは、昨年からまたさらに21秒短縮した11分59秒0。ただしこれは終盤でモーターがトラブルを起こし、スローダウンを余儀なくされた結果。

「来年はモーターに改良が施されるから11分30秒は切れると思う。これ、ガソリン・エンジンなら500馬力のクルマのタイムだよ。EVならその半分、250馬力で出せちゃう。これが効率がいいってこと」



そんな塙選手のマシン「HER-02」は、エンジンを積む既存のレーシングカーをベースにEVへコンバートしたクルマではない。一からご自身で設計し、デザインも考えたという。設計されるに当たって、最も重視した点はやはりEVならではのパッケージングだろうか?

「いや、心意気ですよ(笑)。空力なんかメチャクチャですから(笑)」

メチャクチャなんですか!?

「そりゃ、本気で勝ちに行くならそれじゃダメだけどね。でも僕らはまず、観ている人にカッコイイって思って欲しかった。子どもがアニメを観てカッコイイと思うみたいにね。このリアウイングは "スズムシが羽根を拡げた姿" のイメージでデザインした。ダウンフォースとかじゃなくて(笑)。ヘッドライトは戦闘機の機関砲みたいに、とかね」



話をタイヤに戻させていただこう。このBluEarth-Aは、低燃費タイヤでありながら、運動性能も高いという。

「今までの低燃費タイヤは手応えがない、グリップしない、というイメージあるけれど、このタイヤはそうじゃない。ハンドルを切った瞬間、ブレーキを踏んだ瞬間から食い付きを伝えてくる」

でもいくら何でも、レースで使うなら競技専用タイヤに比べれば不利ですよね?

「そりゃ全然不利ですよ。でも、いま僕らがやろうとしていることは、環境に配慮したクルマの可能性を追求すること。いくらEVが効率がいいって言っていても、限られたところでしか使わない競技用タイヤで、しかも何十本も使い捨ててたら、何が効率だって(笑)。市販用タイヤで、156のコーナーがあるコースでタイムを競う走りをして、それで得られたことを皆さんがお使いになるタイヤに直接フィードバックする。なりふり構わず勝ちに行くっていうのもあるけれど、それは今のところ他の方にお任せして(笑)」



このタイヤはEVではない普通のエンジン車、しかもエコカーでもないようなクルマに装着しても良さが分かるものなのだろうか?

「分かります。ひとことで言うと、クルマが軽く感じられる。例えばマニュアル・トランスミッションのクルマだと、シフトアップするときクラッチを切るよね。その間、クルマは失速しているわけだ。でもこのタイヤだと転がり続けるから失速しないんです。だからギアチェンジしてクラッチを繋いだときショックが出ない。アクセルを戻したときも、スゥーっと転がり続けるから、クルマの動きがギクシャクしない。だから同乗者が疲れないんです。それから、例えばこの先の信号が赤になったとき、他のタイヤを履いているクルマよりも早くアクセルを閉じてもそこまで進んでいくから、燃費は当然よくなる。極端な例え方すると、登山靴からスニーカーに履き替えたような感じですよ」

これまでのお話で、EVでレースをやることの意味はよく分かりました。では、ドライバーにとってEVならではの「気持ちよさ」みたいなものって何かありますか?

「意外かも知れないけれど、音ですね。風切り音が気持ちいい。コーナーごとに、風の表情が変わるんです。これはね、EVでもレーシングカーに乗ってみないと分からない。残念ながら日産リーフじゃ分からない。でも観ている人にとってはね、爆音がしないから、迫力がないと思われるかも知れない。ドリフトもしないし。それが1番心配だったんです。いくら環境に優しくても、観ていてつまらない...って思われたらどうしようって懸念していた。でも、アメリカで長くパイクスピークを観ている人たちにね、言われたんです。出場者の中で、お前の走る姿が1番きれいだって。これは本当に嬉しかったね。タイムで言えばモンスター田嶋の方が速くても、僕のことも皆さん同じくらい応援してくれますよ」

来年のパイクスピークにおける目標はもちろんタイムを短縮すること。では、将来的な夢は?

「この前、舘内端さん(日本EVクラブ代表にして、著名なレーシング・エンジニア)と話してたんだけど、舘内さんの目標はEVでル・マン24時間レースを完走することだって言うんだよ。なら僕は、EVでバハ1000を24時間以内で走り切ってやるって。あとサハラ砂漠も横断してやるって。それが目標で、夢ですね」



最後に塙選手のパイクスピーク・ヒルクライム参戦用マシン「HER-02」についてご紹介しておこう。

ミドシップ・マウントされているモーターは、最高出力255psを発生するACプロパルジョン社製ACインダクション・モーター。1速ギアボックスを介して後輪を駆動する。バッテリーは総電力量37kWhのリチウムイオン。「テスラ モデルS」などと同じ、18650と呼ばれる汎用品だが、なんとこのマシンで初参戦した2010年から無交換で使用し続けているそうだ。車両重量は1,150kg。車体はもっと軽量そうに見えるのだが、バッテリーがやはり重いようだ。パワー・ウエイト・レシオは約4.5kg/psだから、「マツダ RX-7」や「ポルシェ ボクスター」といったミドルクラスのスポーツカー並みといったところ。なのに0-100km/h加速は僅か3.7秒と、スーパーカーに匹敵する(それも市販の低燃費タイヤを履いて!)。

「しかも例えばポルシェのGT2だったら、誰が運転してもそんなタイムが出せるってわけじゃないよね。クラッチミートからギアチェンジ、アクセル・コントロールとか、すごく難しいよ。でもこのクルマなら、免許取り立ての女の子でも近いタイムが出せちゃう」

それがEVの効率の良さ、なのだという。



レース・リザルトだけを見ると、どうしても誰が勝ったか、ということだけに注目が行ってしまいがちだ。しかし、塙選手のような姿勢と体制で、発展途上にあるEVのために参戦を続けておられるドライバーやチームがあるということを皆さんにも知って欲しい。レースはいつだって、「戦い」であると同時に「走る実験室」なのだ。勝てないから、といって簡単にレース活動を止めてしまう自動車メーカーの方にも、そんな自動車の誕生以来自明のことを思い出していただきたいものである。

以下にご紹介するビデオは、今年のパイクスピーク・ヒルクライムにおける塙選手のプラクティス走行を車載カメラで撮影したもの。効率を追求した "きれいな走り" を是非ご覧いただきたい。





ヨコハマタイヤ 「BluEarth-A(ブルーアース・エース)」製品情報


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