アウディのラインアップの中で最も小さなモデル「A1」に追加された5ドア・モデル「A1 スポーツバック」。都内で開催された試乗会に参加して、その都市部における日常的な走りや、気になる後部座席の乗り心地などを確認してきた。先日ご紹介した発表会の様子と合わせてご覧いただきたい。

試乗させていただいたA1 スポーツバックは、ブラウン・メタリックのボディにシルバーのルーフが組み合わされたシックな外観。だがドアを開けると、シート生地やドアの内張、センターコンソール、そしてジェット機のタービンを模したというエアコン吹き出し口などに「ワサビグリーン」と呼ばれる黄緑色を配した楽しい雰囲気のインテリアが現れる。仕上げ品質の高さには定評があるアウディの内装だが、A1のようなスモール・カーではこうした見た目の華やかさや遊び心も必要ということだろう。もちろん、お好みによってシンプルなブラックや明るめのグレー、色気のあるガーネットレッド(ワインレッド系)など、他にもさまざまなバリエーションが選べる。9色用意されているボディ・カラーと合わせて、選択できるインテリア・カラーに縛りがない、つまり全ての組み合わせが自由に選べるところも嬉しい。ただしこのワサビグリーンは、オプションの「スポーツパッケージ」装着車のみが選択可能なカラーだそうだ。



このスポーツパッケージを装着すると、標準よりも1インチ大きな専用デザインの16インチ・アルミホイールが付き、タイヤも205/55 R15から215/45 R16へと太くなる。これを支える足回りは、バネとダンパーが固められたスポーツ・サスペンションになるのだが、車高がローダウンされるわけではなく、乗り心地もそれほど固いとは思わなかった。むしろ重めで僅かにクイックなパワー・ステアリングの味付け(これは標準仕様と共通)と相まって、きびきびと気持ち良く走らせることが出来る。ただし運転している側は気にならなくても、40km/h前後の低速では、ちょっとごつごつした感じを同乗者には与えてしまうかも。やはりもう少し速度を上げた方が快適に感じられるようになる足回りだ。滑りにくい生地が張られたスポーツ・シートは硬めのクッションが心地よい。標準シートよりもサイド・サポートが張り出した形状をしているのだが、乗り降りの際に気になるほどではない。



フロントに横向きに搭載される1,389ccの直噴直列4気筒「TFSI」エンジンは、排気量だけを見ればごく普通のスモール・カー向けと思えるかも知れないが、ターボ過給によって122psの最高出力と20.4kgmの最大トルクを発揮。車両重量1,220kgという、車体の大きさ(全長3,970mm × 全幅1,745mm × 全高1,440mm)の割に決して軽くはないA1 スポーツバックを充分以上の力強さで走らせる。
それも当然、アウディの親会社であるフォルクスワーゲンでは、これとスペックまで含めて同じエンジンを、90kgも重い「ゴルフ」の中級グレードに採用しているくらいなのだから。小排気量の燃費の良さとターボによる動力性能の両立を目指したこのエンジンとコンパクトなA1 スポーツバックの組み合わせは、体感的には自然吸気1.8〜2.0リッター・クラスの実用セダンと同じくらいの「速さ」が味わえる。それでいて燃費はJC08モードで17.8km/リッターと、1.5リッターのコンパクト・カー並みなのだ。



この高効率に一役買っているのが、「Sトロニック」と呼ばれる7速デュアル・クラッチ式トランスミッションだ。こちらはトルコンAT並みのイージーで快適なシフトと、MTの伝達効率の良さを両立させようというもの。A1のこれは "滑り" が少ないといわれる乾式単板クラッチを採用しているが、アクセルのオン/オフや変速時にギクシャクすることはなく、パワートレインが揺すられるような不快なショックもほとんど発生させないけれど、MTのようなダイレクトなフィールには乏しかった。ならばスポーツパッケージを選べば付いてくるパドル・シフトを操って、積極的にシフトしてみたらどうかと思ったのだが、何故かパドルを引いてから実際に変速が始まるまでに、決して無視できないタイムラグが発生することが分かった。変速そのものは素早いのだが、パドルからトランスミッションに伝わる電気的な信号が、一呼吸遅れて届く感じ。この試乗車固有の調整不良という可能性もあるが(そう思いたい)、スポーツパッケージに期待する人は試乗の際、パドルを動かしてご自身が不満を覚えないかどうか、必ずチェックしてみていただきたい。



スポーツ方面は特に意識せず、シフトはオートマティックに任せて市街地の道路を走らせている限りでは、乗り味に不満はほとんど感じない。シャシーやコンポーネントを共有している(と言われる)フォルクスワーゲンの「ポロ」より120kgも車両重量が重いこともあり、乗り心地は車格以上にしっかりした落ち着きが感じられるし、車内外から聞こえるノイズは充分に抑えられていて、フロアやステアリングに安っぽい振動を感じることもないので、ネガティブな意味で「コンパクト・カーに乗っている」ということを意識させられることがない。なるほど、見た目だけでなく、走らせてみてもアウディのいう「プレミアム」な感じは確かにある。
アウディ・ファミリー共通の大型シングル・グリルや翼型LEDポジションランプを持つA1の「顔」は、路上で実際の車体サイズ以上の存在感を放つから、他の多くの小型車を運転しているときに周囲のクルマから時々受ける "差別的な仕打ち" も、だいぶ避けられそうだ。「ナメられないフロント・マスク」は、プレミアムなコンパクト・カーにとって必須な要素の1つなのである。



もっとも、そんなA1 スポーツバックのキャラクターを考えると、15万円のスポーツパッケージを付けるなら、もっと他の、プレミアム性をより伸ばす方面のオプション(例えばレザー・シートやボーズ・サウンドシステム)に予算を回した方がいいような気がしてくる。エンジンは低回転から力強いが、高回転まで "回し甲斐" のあるタイプではないので、もしホットハッチ的な性格のクルマをお求めであれば、今後登場が噂されている「S1」を待った方がよい。A1 スポーツバックは、日常的なドライブの中で "スポーティ" な味わいを感じることは出来るけれど、それは普段着で楽しむサイクリングのようなもの。単なる移動以上の歓びはあるが、しかし "スポーツ" がしたければ、ロードバイクのように、より目的に特化した機材を選んだ方が幸せになれる。



ダッシュボード上に備わるポップアップ式の6.5インチTFTカラー・ディスプレイは、ナビゲーション・システムの地図を表示するだけではなく、車両の設定やオーディオ・コントロールもこの画面を見ながら行うことになる。その操作系は「MMI(マルチ・メディア・インターフェイス)」と名付けられ、センター・コンソール上に見える銀色のツマミが、ダイヤルとジョイスティックと押しボタンの役割を兼ねており、周囲のボタンと組み合わせて素早く設定項目を呼び出し・変更・選択することが出来る。ただし、この格納式カラー・ディスプレイは全車に標準で搭載されるのだが、ナビゲーション機能を持つ「MMI 3G Plus」は26万円のオプション。ディスプレイがあってもナビではない...というのは寂しい気がするので、MMI 3G Plusを付けたくなる人は多そうだ。

これらのスイッチ類をはじめ、エアコンの調整用ダイヤル、ステアリング・ホイール、シフトレバーなど、手を触れて操作するところの質感は非常に高く、アウディの上級車種とほとんど変わらない印象だ。聞くところによると、アウディには触覚・聴覚・嗅覚などをそれぞれ担当する専門のエンジニアがいるらしい。ただ1つ気になったのは、なぜかルーム・ミラーが、小さくておもちゃみたいな物が付いていること。ここは普段から頻繁に目線を送る箇所なので、もう少し上等なものが欲しいところだ。カー用品店に行けば大型の後付けミラーはいくらでも売っているが、A1 スポーツバックのインテリアが持つデザイン・質感の統一された雰囲気を、壊すことなく取り付けられる製品を見付けることは難しい。



A1 スポーツバックは5ドアということで、後部座席について気になる人も多いだろう。だが、実際に座って感じた結論から言えば、後席に「人を乗せる」という目的で頻繁にお使いいただくつもりであるなら、残念ながらお勧めしかねる、ということだ。レッグ・スペースは全長4m以下のクルマとしては標準的と言えるのだが、何しろリア・シートの背もたれが立ち過ぎていて、座ると背中が前方に跳ね返されるような不快感がある。荷室をもう少し犠牲にしてでもシート・バックを傾斜させていれば、頭上スペースともども居住性はかなり改善されたはずだが(後部座席にリクライニング機構はない)、この形状ではとても長時間の乗車は耐えられそうにない。アウディではこのA1 スポーツバックを「ニュー・ファミリー」向け、つまり後部座席はお子様が乗るためのものと捉えているようだが、今はチャイルド・シートを使って乗せるから大丈夫、と思われても、3年以上ファミリー・カーとしてお使いになるつもりであるなら、一回り大きな「A3」をお買いになった方がよいと思う。子どもって、すぐ大きくなりますから。ちなみにA1と同じ1.4リッター・ターボを搭載する「A3スポーツバック 1.4 TFSI」の価格は308万円。A1 スポーツバックと15万円しか違わないのだ。実はヨーロッパでは新型のA3が、今のところ3ドア・ハッチバックのみではあるが販売が始まっており、今後5ドアが追加されたら日本にも導入されるはず。



アウディジャパンの方のお話によれば、A1はヨーロッパでは3ドアの方が圧倒的に売れているそうだ。つまりあちらでは、このサイズのクルマを買おうとする時点で、後部座席に大人を2~3名乗せることは期待されていないということ。質感・乗り心地・パワートレインを、どれほど磨き上げ、上級車種に劣らぬ出来映えに仕上げたとしても、室内空間の割り当てについては、全長3,970mmでは物理的に出来ることが限られている。前席の快適性を優先すれば、後部座席や荷室は狭くなって当然だ。ぎりぎりまでパッケージングを "攻めて" 、最小限の全長内に最大限の後席スペースを稼ぎ出す努力をしているコンパクト・カーもあるが、A1 スポーツバックはそういうことを主眼に置いて企画・設計されたクルマではない。代わりに "主賓" であるフロント・シートの住人に対しては、限られたサイズの下でも妥協のない快適性の実現に挑んでいる。A1 スポーツバックの後部ドアは、そんな主賓たちが、手荷物や上着を後部座席に置いたり、遊びに来た友人を駅まで送ったりするときに、3ドア車よりもスマートな身のこなしで対応できる、そんな用途のためにこそ存在意義を発揮する装備ではないだろうか。



A1 スポーツバックは、アウディの中で最も小さいモデルではあるが、決して安価なエントリー・モデルという位置づけとは限らない。むしろ「A4」や「A6」でアウディに "エントリー済み" の人が、もう3人以上で乗ることはほとんどないからよりコンパクトで環境性能の高いクルマに乗り換えたい、だけど乗り心地や質感、動力性能などに関して、"我慢" はしたくない、と思ったときに選ばれるべきモデルのように思う。例えば、子育てを終えられた年配のご夫婦が、こんなブラウン(ティークブラウン・メタリック)やワインレッド(シラーズレッド・メタリック)のA1 スポーツバックにお二人で乗られていたら、さぞかし素敵だろう。もちろん、他ブランドから「ダウンサイジング」される方にとっても、A1 スポーツバックは有力な候補となるのではないだろうか。このサイズでこんな資質を持つクルマは、探して見ると意外と他に見当たらないからだ。

あるいは例えば国産コンパクト・カーにお乗りの方が、より上質で高級感のあるクルマに乗り換えたいけれど、車庫のことや取り回しを考えるとサイズが大きくなることは避けたい、ということで選ばれるとしたら、きっと高い満足感が得られると思う。A1 スポーツバックの乗り心地・操舵感が与える線の太い印象は、日本製コンパクト・カーではなかなか得難いものだ。価格差はかなり大きいが、それが気にならないという(恵まれた)方なら、是非1度実車に触れてみることをお勧めしたい。



これまで述べて来たように、A1スポーツバックの全長4m以下という "小ささ" は、誇るべき性能の1つなのだ。それに魅力を感じるかどうかで、このクルマの価値は決まる。293万円という価格は、コンパクト・カーとしてはかなり高価だ。加えて、豊富に用意されたオプションから、是非付けたいものを選ぶと(例えば、コントラストルーフ:8万円、バイキセノンヘッドライト:15万円、ナビ機能を持つMMI 3G Plus:26万円、前席ヒーター付き本革ミラノレザー・シート:28万円、等々)支払総額は限りなくミディアム・クラスの輸入車に近づく。それでもA1 スポーツバックを選ぼうという人はおそらく、「小さくてもいい」ではなく、「小さいからいい」と考える人だろう。



高い質感と十分な快適性を「小ささ」と両立させたところがA1 スポーツバックの最大の魅力。その上さらに、スポーツ性やファミリー・ユースにまで高い性能を求めるなら、いくつか不満が出てくるかも知れない。しかしこのA1 スポーツバックは、不満に耐えながら乗るということがまったく似合わないクルマだ。あれもこれもと欲張ったり、低いレベルでそれらが満たされればよしとするのではなく、これだけは譲れないという拘りに対して通常以上のクオリティを求める方、そんなご自分が欲しいものをきちんと見極め、理解されている方が選ばれたのであるなら、A1 スポーツバックはオーナーと長く幸福な関係が築けるだろう。

以前ご紹介したアウディのコンパクトSUV「Q3」の試乗記では、「生活を変えたい人にお勧め」と書かせていただいた。A1 スポーツバックは逆に、「変えたくない生活をすでにお持ちの人」に相応しいと思う。ここで言う生活とは、単なる「生存活動」ではなく、人生観・価値観などを含めた、個人の「生き方」という意味も込めて使わせてもらっている。そんな人にとって、A1 スポーツバックの、演出によって「プレミアム」を感じさせるのではなく、本質でそれに迫ろうとしている外連味のない姿勢は、共感できるものに違いないと思うからだ。


基本情報

試乗車名:アウディ A1 スポーツバック 1.4 TFSI
全長×全幅×全高:3,970mm×1,745mm×1,440mm
ホイールベース:2,465mm
車両重量:1,220kg
最小回転半径:5.0m
荷室容量VDA値:270リッター
エンジン:直噴直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ
排気量:1,389cc
最高出力:122ps/5,000rpm
最大トルク:20.4kgm/1,500〜4,000rpm
JC08モード燃費:17.8km/リッター
トランスミッション:7速Sトロニック
駆動方式:前輪駆動
乗車定員:5名

車両本体価格:293万円

装着されているオプション
メタリックカラー:5万5,000円
コントラストルーフ:8万円
バイキセノンパッケージ:12万円
スポーツパッケージ:15万円
MMI 3G Plus:26万円
クルーズコントロール+アウディ パーキングシステム:15万円

合計価格:374万5,000円

公式サイト:Audi A1 Sportback

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