【試乗記】V6+4WDでライバルに差を付ける「アウディ A6 アバント」は、意外と軽快な走り味!
アウディのアッパーミドル・サルーン「A6」に、5ドアのステーションワゴン型ボディを与えたモデルが「A6 アバント」だ。アウディでは1970年代から「ステーションワゴン」ではなく、フランス語で「~の前に」という意味の「Avant」という言葉を使う。「アバンギャルド(avant-gard)」の「アバン(ト)」である。人と荷物をたくさん積むことを目的とした「駅馬車」由来のクルマではなく、(セダンよりも)一歩進んだスタイルである、ということらしい。

2011年5月にベルリンで発表され、今年2月に日本で発売されたこの新型A6 アバントも、だから荷室容量を優先的に重視した「箱を背負ったセダン」のようなカタチではなく、見る人の多くが「美しい」と思えるような、スタイリッシュなデザインを特徴としている。具体的には、寝かされたDピラーとその下端を貫いてさらに後ろまで延びるショルダー・ライン、そしてそれにより僅かにノッチが付いたように見えるコンパクトなヒップという辺りに、「美しさへの拘り」が見て取れるのではないだろうか。

実際にドライブしてみても、後部に荷室を背負っているという感覚は薄く、そして全長4,940mm × 全幅1,875mm × 全高1,495mmというボディの大きさを感じない。室内はゆったりしているのに、運転している時には車体が小さく感じられる。これは車両感覚が掴みやすい内外装のデザインに加えて、モノコック全体の約20パーセント以上にアルミ素材を使用したという「アルミハイブリッドボディ」の軽量さ(と重量配分)も一役買っているようだ。



今回試乗させていただいたA6 アバントは、排気量2,772ccから最高出力204psと最大トルク28.6kgmを発揮するV型6気筒自然吸気直噴エンジンを搭載した「2.8 FSI クワトロ」。V6エンジンと4輪駆動システムを持ちながらも、車両重量は直列4気筒エンジンを搭載する2輪駆動のライバル達とほとんど変わらない。「BMW 523i ツーリング」より30kg軽く、「メルセデス・ベンツ E250 ブルーエフィシェンシーステーションワゴン」より20kg重いだけなのだ。新型A6は、前身である「アウディ 100」から数えてこの7代目(アバントは6代目)で初めて、先代モデルより重量を削減することに成功したという。これまでモデルチェンジの度に重さを増していた「負のスパイラル」を断ち切った。先代A6 アバントの2.8 FSI クワトロと比較すると、30kgほど軽くなっている。

これはもちろん燃費にも効く。10・15モードでは先代の9.7km/リッターから11.8km/リッターへと大幅に向上。今回の試乗コースは、汐留にあるコンラッド東京を起点としてお台場方面に向かい、今年2月12日に開通したばかりの東京ゲートブリッジを渡って戻るというほとんど一般道ばかり、約1時間程度の道のりだったが、出発時に4.6km/リッターという数字を表示していた燃費計は、戻ってくるときには7.4km/リッターにまで伸びていた。渋滞はなかったがストップ・アンド・ゴーが多く、周囲の流れに合わせた走行環境でこの数字。長距離ドライブが加われば「公表値より良い数字さえ出ることもある」というアウディ・ジャパンの方のお話は信じられそうだ。
もっともこの燃費は軽量化だけでなく、直噴エンジンのチューニング(先代と同じボア×ストロークながら最高出力の数値と発生回転数はドロップしている)や7速に進化したデュアル・クラッチ式Sトロニック・トランスミッションの効率の良さ、電動パワーステアリングの採用、そしてスタートストップ・システム(アイドリング停止機構)とエネルギーリカバリー(回生)システムなどを組み合わせた総合的な成果だ。



ただし、A6 アバントのエントリー・グレードにして販売の主力グレードである2.8 FSI クワトロは、「速い!」と思わされるようなクルマではない。交差点で停止してから発進する際などは、アクセル・ペダルをそれなりに踏めば充分な加速を見せてくれるのだが、例えば50~60km/hで巡航しているときに、「車線変更してあのクルマの前に入りたいな」と思ってスロットルを踏み込むと、Sトロニックのキックダウンがもどかしく、それから1拍遅れて(それなりのエンジン音とシフト・ショックを発生させて)速度を増していく。巡航時には燃費を稼ぐため、Sトロニックは高目のギアを選択したがるようなのだ。一昔前の欧州車が、日本の交通環境下ではATがなかなかシフトアップせず、そのため燃費も良くなかったという時代とは隔世の感がある。

この辺り、今回は乗ることが出来なかったが、上級グレードの「3.0 TFSI クワトロ」なら、おそらく不満を感じる間もなく加速していくのではないかと思われる。排気量を表す名前上の数字は「0.2」しか大きくなくても、こちらはスーパーチャージャーによる過給付き。最高出力310psと最大トルク44.9kgmを発生するのだ。軽快感だけでなくパンチ力も求める方にはこちらの方が良さそうだ。ただし価格は865万円と、2.8 FSI クワトロの640万円に対し、225万円も高い。2.8 FSI クワトロは、メルセデスやBMWといった4気筒2輪駆動のライバル達を睨んで、戦略的な価格付けがなされている。つまり "お買い得" なのである。ちなみにアウディ・ジャパンでは「2.8」と「3.0」の販売台数比率を7:3と見ているそうだが、「セダンの売れ方を見ると、もうちょっと2.8の方が多くなるかも知れない」とのこと。価格的にも馬力的にも、間を埋めるグレードが欲しいところだが、そういうエンジンは「本国にもラインアップされていない」そうだ。



それではA6 アバント 2.8 FSI クワトロはスポーティなドライビングにはまったく向かないのかと言えば、そういう訳でもない。標準装備の「アウディドライブセレクト」で「ダイナミック」モードに切り替えれば、車格のわりに軽快感のある動きが、さらに活気と骨太さを増す。Sトロニックはトルクコンバーター式ATやCVTのような "滑り" が少ないため(皆無ではない)、アクセル・ペダルの微妙な操作にも敏感に応えてくれる。アウディ自慢のフルタイム4輪駆動システム「クワトロ」は、通常時は前40%:後60%と、後輪により大きくトルクを配分。スロットルを開けた時に、または閉じた瞬間にも、前輪駆動車とは別次元のフィールが味わえる。駆動力だけでなく、エンジン・ブレーキも4輪に掛かるからだ。プラス、FR車以上の安心感。純粋なスポーツカーなら議論の余地もあるかと思うが、このクラスのステーションワゴン(とアウディは呼ばないのだけれど)ならば、この "4駆" は是非欲しいと思わせられる。



標準仕様では18インチとなるはずのホイールが、試乗車ではなんとオプションの20インチを履かされていた。タイヤは265/35R20というサイズのピレリ P ZERO。500馬力オーバー2.3トン級のベントレーあたりが使うタイヤである。見た目はかっこいいが街中ではオーバー・サイズでは...と思って乗ってみると、確かに低速ではコツコツと路面の凹凸を拾うが、これもまたオプションのコンフォートシートの出来が素晴らしく、路面の状態は伝えてくるが不快な衝撃はほとんど身体に感じない。これでも硬いと思う人は、もちろん標準の18インチを選べばいいだろう。

標準装備のシートもレザーらしいのだが(今回の試乗車の中にはなかった)、コンフォートシートには「ミラノレザー」の皮革が使用されている。やわらかなレザーに粗めのシボが加工された表皮は、滑らかなイタリア車の革シートとはまた違った趣きで、さらっとしていて心地よい。標準仕様のシートにもこのミラノレザー仕立ては選べるようだが、コンフォートシートならさらに空気圧で腰・背中・腿・脹ら脛などを支える箇所を独立して調整できる機能が付く。自分の身体の好みに合わせることができるだけでなく、長距離運転の際には途中で設定を変えることで疲労が軽減されるだろう。追加料金は36万円と安くはないが、人のクルマに乗ったときに「シートが...」とまず言いたくなるような人は、検討する価値があると思う。ヌガーブラウンやベルベットベージュといった華やかな色合いが選択できるのも、コンフォートシートだけだ。

インテリアのウッドパネルは光沢仕上げのウォールナットと、艶消しのファイングレイン・アッシュから選ぶことができる。エアコンの吹き出し口やドア・ハンドルの周囲に見られるエッジのデザインは、日本の包丁が持つ美しさを取り入れたものだとか。



初期段階からボーズ社と共同で開発したという「ボーズ・サラウンド・サウンド・システム」は、本国ではオプションとなるが日本ではこれが標準装備のオーディオ。A6 アバントのために専用設計された音場は、ボリュームを絞っても低音が痩せず、しっかりと聞こえるところに感心させられた。決してサブウーハーのみで不自然にブーストしたという印象ではなく、中音域からバランス良くつながって下まで出ているという感じだ。周波数域が豊かな "生楽器" を使った音楽を聴くと特に良い。ただし、音の定位は明瞭ではなく、音に包まれる感じだから、ヴォーカルが目の前で歌っているみたい、という感じにはならない。もっとも、そんなものドライブの時にはじゃまになるだけかも知れないが。

また、A6 アバントには、両手が荷物で塞がっている時など、手を使わずに、なんと "足" でテールゲートを開閉できる「バーチャルペダル付きオートマチックテールゲート」というユニークで便利な装備がオプションとして用意されている。説明するより一見に如かず、ということで以下の動画をご覧いただきたい。



軽快だが質感は高く、過剰なところはないが安心感はある。居心地の良い内装にスポーティな乗り味。シャープなボディ・デザインとワゴン...ではなくアバントならではのカジュアル感。決してパワーが有り余っているというわけではないけれど、アクセル、ステアリング、ブレーキを操作して、「どう走るか」というクルマの動きを決めるときには、ドライバーの意思にしっかりと正確に応えてくれる。A6 アバント 2.8 FSI クワトロはそんなクルマである。

総じて良いクルマだとは思うが、だからといって、例えば生活の中でクルマを最優先するような人が、衣食を犠牲にしてでも無理をして買う、というクルマではない。不思議なことだが、アウディがライバルと目するメルセデス・ベンツBMWには、そういうオーナーが(我が国には)少なからずいる。何故だろう? その辺りに、日本ではBMWやメルセデス・ベンツに比べてアウディが販売台数で後れを取っている理由の1つがありそうだ。



アウディによれば、このA6アバントは「アクティブなビジネス・エリートやプロフェッショナルのためのクルマ」だという。ある種の人々が、アウディというブランドに惹かれるのはよく分かる。しかし、クルマにも運転にもまったく興味のない人に、そのブランド・イメージから魅力を分かって貰うことは難しそうだ。デザイン、技術力、高品質、などと並べても、ライバル・メーカーだってそれらが決して劣っているというわけではない。クワトロ、ルマン、などと言ってもクルマ好きにしか分からない。

だから、もしご自身がアウディに惹かるものを感じながらも、奥様や恋人に「なんでアウディ? ベンツやBMWにしたら?」と言われてしまった人は、彼女を連れてアウディに試乗することをお勧めしたい。

乗ってみれば簡単に分かることが、乗ったことない人には伝えることが非常に難しい。もしかしたら、アウディの技術者たちが主にやってきたことは、そういう部分を高め、進化させ、洗練させることだったのではないだろうか。それを言葉で表現しようとすると、一般的には分かりにくい技術用語になる。実はそういうところがアウディというメーカーのクルマ作りの、魅力的な部分だったりもする。



乗らなければ分からない。クルマという物は本来はすべからくそうであるはずなのに、いつの間にか、乗ったこともないクルマに、誰かが与えたイメージによって、ある印象を抱き、何となく「どういうクルマか」分かったような気分になってしまう。それによって売れ行きは左右され、オーナーに対する周囲の見方さえ幾分か決定づけられてしまう。

そんなものは1度全て忘れて(他の人々に任せて)、作り込まれた機械に触れ、クワトロによる乗り味を楽しみ、スタイルを愛で、ルマンを走る愛車と同じマークの付いたレーシングカーを応援する。そうするうちに、誰かによって与えられたものではない、自分が発見したアウディのブランド・イメージというものが鮮明になって来るはずだ。
それを今度はあなたが周囲に知らせる存在になってみてはいかがだろう?
クルマはメーカーが作るものだが、ブランド・イメージはオーナーによって作られる部分も少なくないからだ。

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