フェラーリばかりを盗む男、FBIが「F50」を全損...。フェラーリを巡る奇妙な物語
フェラーリが創業50周年を記念して1995年から限定生産した「F50」。世界に349台しかないこの名車のNo.29が2003年に盗難に遭い、その5年後に発見されながら、FBIの捜査官が事故を起こして全損させてしまったという事件があった。今回は、その哀れなF50についての続報をご紹介しよう。

そもそも「F50」を盗んだのはトム・ベーカーという航空機パイロットだった。彼はフェラーリをこよなく愛していたようだが、手に入れられるだけのお金はない。そこで、持ち前の口のうまさを利用して、次々とフェラーリ詐欺に手を染めた。彼が最初に選んだ車は1989年型のフェラーリ「328GTS」。

車をだまし取られた北カリフォルニアのディーラー、スティーブ・バーニー氏は、ベーカーの巧妙な手口を振り返る。当時ガンと闘っていたバーニー氏の前に現れたベーカーは、自ら放射線科医だと名乗り、バーニー氏のレントゲン写真を見て治療の相談に乗るなどしたという。すっかりバーニー氏と親しくなり信用を得たベーカーは、ある日328GTSを試乗させてほしいと言い出した。しかし、その願いを聞き入れたバーニー氏が2度とベーカーの姿を見ることはなかった。

次にベーカーは、ロングアイランドのディーラーから1985年型のフェラーリ「テスタロッサ」をだまし取っている。しかし、彼の本命はF50 だった。ベーカーはフィラデルフィアのディーラーを訪れ、自らをカリフォルニアのテクノロジー企業のCEOをだと名乗ったあげく、運転免許証すら持っていなかったにも関わらずF50の試乗を申し込んだ。手付金を払う用意があるという言葉にだまされディーラーが鍵を渡すと、ベーカーは瞬く間に時速160キロで姿を消してしまったという。

このF50が発見されたのは5年後の2008年。ベーカーからこの車を買い取ったある医師が、自動車登録番号から盗難車であることを知って届け出たのだ。F50 はFBIに押収されたため、医師は車とベーカーに支払ったおよそ3000万円を失ってしまった。しかし、奇妙なことに後になってベーカーは医師に3000万円を返金している。どうやらベーカーは証拠隠滅を図ったようだ。

その後まもなくベーカーは逮捕され、F50は事件の証拠品としてFBIの車庫に保管されることになった。しかし、ここから事件は妙な展開を見せる。2人のFBI捜査官がF50の保管場所を移すために同車を運転していたところ、木に激突して車を大破させてしまったのだ。F50 の盗難に遭ったディーラーにすでに5000万円超の保険金を支払っていた保険会社は、FBIに対して弁償するよう訴訟を起こすとともに、事故に関する情報の開示を求めた。しかし司法省は、あくまでも捜査中の事故であるがゆえにFBIに弁償の義務はないと主張、裁判は今も続いている。なお、大破したF50 の所在は現在不明だという。いったいどういう形で裁判に決着がつくのか気になるところだが、最も惜しむらくは失われてしまった名車F50だろう。