アメリカで人気のリアリティTV番組が題材にしかねないほど、現在のF1界における権力争いがレース自体に暗い影を投げかけているのは確かだ。
先ごろ、FIA(国際自動車連盟)は来シーズンのF1の規定を発表した。その中には、レースをポイント制から年間で最も優勝回数が多い者を年間チャンピオンとする"勝者総取り"方式や、マシンの減速時に発生する熱エネルギーを再利用するシステム"KERS"の使用をより奨励する動きが盛り込まれている。また、バジェットキャップ(予算制限)が導入され、チームの年間の出費が4000万ポンド(約60億円)以下であれば、そのチームには技術的に一定の自由が与えられる。以下に来年度の規定をもう少し詳しく説明しよう。
FIAは "勝者総取り"方式の導入を以前から提言していたが、不評のため2009年度の導入は一度見送った。それを来シーズンから正式に導入する主旨を盛り込んでいる。またマシンの最低重量が605kgから620kgに引き上げられた。これは、今シーズンから導入されたKERS装備品の重量が40kgにもなるのに最低重量は605kgに据え置かれたので、軽量なドライバーが有利になる傾向が出てきたためである。ドライバーが競馬の騎手のようにオフシーズンでも体重を絞らなければいけない事態を是正するのが狙いだ。

バジェットキャップについては、ドライバーの年棒やFIAから課される罰金の他に エンジンの開発費やマーケティングに関する支出は対象から除外される。この制度は任意だが、受け入れたチームにはフロントとリアに装着する可動ウィングやエンジン回転数の制限が撤廃される。他にもオフシーズンには無制限でコーステストを行うことが出来るようになり、風洞テストでも優遇される。また、F1に新たに参入するチームには、年間670万ポンド(約10億円)が支給され、マシン2台分のシャシーとその輸送が無料となる。現状ではポイントを稼いだ実績のあるチームだけが輸送料免除となっていたルールを改善したものだ。

一方、フェラーリとBMWは任意選択となるバジェットキャップについて、ドライバーも含めて不快感を表明し、F1撤退も視野に入れていることを示唆した。ルノーやウィリアムズ、またマクラーレンやBMWでさえ制度の実施には賛成しているのだが、如何せん、従来に比べて4000万ポンドという金額があまりにも低予算のうえ、実施が来シーズンからということに抵抗しているのだ。F1チーム協会のFOTAは、制限額を来シーズンは6000万ポンド(約90億円)にするか、もしくは2、3年をかけて段階的に6000万ポンド にしていく方法を提案している。 しかし、いずれの場合でも、制度自体が任意であり従ったチームだけが優遇される2重構造には強く反対している。

今回のルール改正の立役者はF1界のドンと呼ばれるバーニー・エクレストンであることは間違いない。単純に考えれば、F1のチーム予算コストが削減されれば、F1の商業権を握るエクレストン氏が率いるFOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)からトップチームに支払われるべき分配金(放映権料や入場料などから算出する金額)も少なくてすむ計算になる。参加チームに支払われる分配金の総額は恐らく4000万ポンド(約60億円)ほどになるのではないかと考えられる。F1界の権力争いとも言えるこの戦い、来週にも落ち着くだろう。我々も動向を見守りたい。