昨年の11月、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムに、自動車業界の立て直しをアップルのCEO、スティーブ・ジョブズに任せたらいいのではないかという案が掲載された。確かにジョブズは、テクノロジー業界で多くの尊敬を集めており、1990年代のアップル再建に多大な貢献をした。しかし考えてもみてほしい。いかに才能あふれるジョブズといえど、傾きかけた自動車メーカーをも立て直せると思うのはさすがに強引ではないか? しかしアメリカの投資会社、スパーク・キャピタルの創設者であるトッド・ダグレスはこの案に本気らしい。彼は最近、その旨をバラク・オバマ大統領に公開状で提案したのだ。

ダグレスは、多くの証券アナリストと同じように自動車業界の救済に関して賛成の立場をとっている。従業員の高待遇にはメスを入れず、トップを代えるだけで深刻な状況から抜け出せると踏んでいるのだ。自動車業界が抱える現在の問題については、経済状況も大きな原因であることはダグレスも認めているが、「そもそもGMとクライスラーの商品が世間のニーズに合っていないことが大きな原因だと」述べている。そして、ジョブズならこの問題に立ち向かい、斬新なデザインや製品で両社に過去の栄光を甦らせることができると考えているのだ。
確かに、アップルに再び戻ってきてからのスティーブ・ジョブズはまさに英雄だ。しかし、コンピューターメーカーのアップルを自動車メーカーのGMやクライスラーと一緒にするのは無理がある。例えば、GMは今でもエンジンやトランスミッション、その他のパーツを自社で生産しているのに対し、アップルはプロセッサをはじめマザーボード、グラフィックスカード、HDDやディスクドライブも他社の製品を使用している。要するに、ジョブズのみならずテクノロジー業界の人間には、自動車業界はまったくの畑違いなのだ。また、GMとクライスラーがニーズに合わない車を売り続けているというダグレスの持論に関しては、クライスラーについて言えば事実かもしれない。しかし、GMのラインナップは充実しており、他社に負けない魅力的な車がたくさんある。単に世間のニーズに合わない車を生産しているのだと言うのではなく、不景気だから新車が売れないという根本的な理由にも目を向けるべきではないだろうか。